表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/41

愛するということ

四限目の授業が終わり昼休みになった。騒がしい教室の隅で、一つの机で向かい合わせになって、田中と佐藤は昼食をとっていた。


「昨日の夜さ、マジ最悪なことがあってさ」


田中はげんなりとした顔で話を切り出した。口を動かしながら、イチゴミルクのパックにストローを刺している。


「最悪って、どんな?」


佐藤はたずねる。たずねながら、弁当箱に詰められた白米を箸できりわけていた。

イチゴミルクをすすっていた田中は、ストローから口を離して返答する。


「部屋の中にゴキブリが出てさぁ……」

「散らかしてるからだろ」

「そうなんだけどさ。ほら、オレって虫めちゃくちゃ苦手じゃん?」

「そうだったな」

「しかもゴキブリよ?」

「飯時にする話じゃないよな」

「半狂乱でハエたたき振り回して、なんとか仕留められたからよかったけどもさぁ……」

「無視かよ」

「そう、虫! マジで虫はムリだわ。生理的に受け付けないわけ」

「あっそ」


マイペースな田中に、佐藤は食事を続けながら適当に相づちを打つ。しかし不意に箸を止めた。弁当箱に向けていた目を田中へ向ける。


「お前さ、例えば、クモが部屋に出てきた時なんかはどうしてるわけ?」

「なんでクモ? 勇気振りしぼって窓から外に逃がしてるけど?」

「へぇ」


意外な返答を聞き、佐藤は目をみはった。田中は焼きそばパンの袋を開けつつ言葉を続ける。


「だってあれじゃん? 誰だっけ……あの、悪竜の助っ人みたいな名前の作家。その人の書いた話でも出てくるじゃん。クモってお釈迦様の使いなんだろ?」

「芥川龍之介の【蜘蛛の糸】な。迷信とか意外と信じるタイプだよな、田中って」

「まぁね。うちのじいちゃん、ばあちゃんも『バチが当たるから殺しちゃダメ』だって言ってたし。それもあるかも?」

「ふぅん」


焼きそばパンを一口かじった田中は、またイチゴミルクに手を伸ばす。佐藤も再び食事を再開した。母親手製の卵焼きを口に放り込む。醤油と砂糖のあまじょっぱい味がふんわりと口内に広がる。やっぱり「母さんの作ったのが一番だな」と思いつつ、パックの中身を呑みきった田中に佐藤は再びたずねた。


「ところで、コチニールって知ってるか?」

「なにそれ? 最近流行りのポップスかなんか?」

「着色料の名前。お前の大好きなイチゴミルクにも入ってるよ」

「へー。知らなかった」


田中はパックに書かれた原材料名を確認する。


「あ、マジだ。でもさ、それが急にどうしたわけ?」


空のパックをコンビニの袋に放り込み、田中は再び焼きそばパンをかじる。しかし、もぐもぐとパンを咀嚼していた田中は、佐藤の放った次の言葉を聞いて硬直した。


「コチニールの原材料って、虫なんだよな」


ゴクリ……田中は口の中身を呑みこんだ。佐藤の顔をまじまじ見つめていた目が、コンビニ袋に向けられる。しかし、すぐに視線を佐藤に戻すと、唇の端をへらりとゆがめた。


「でもイチゴミルクうまいし。虫が入ってるからって、今更嫌いになれねぇわ」

「そう言うと思った。…………これやるよ」

 

佐藤は弁当箱から二つ目の卵焼きを箸でつまみあげ、蓋にのせて田中に差し出した。佐藤は心なしか頬をゆるめているが、卵焼きに気をとられた田中はそのことに気付いていない。


「お、サンキュー。でも、佐藤ってたまにイジワルなこと言うよなぁ」

「お前の無神経さにはかなわないよ。文句あるならおかず返せよ」

「やだね。……うわ、うっま! ほんと佐藤んちの母ちゃん料理上手だよなぁ!」

「まぁな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ