第九魔「処罰」
「識神君。あれほど問題を起こさないでと注意したのに……」
「儂は悪くないんじゃぞ。ご主人が命令したんじゃ。あの小童をシバけと」
「嘘をつくな。あまつさえ人のせいにもするな」
「はぁ……。いやまぁなんとかできるとは思っていなかったけども」
保健室にて、俺と九尾は駆けつけた火鳥先生からの注意を受けていた。
そばには先ほどまで俺をどうにかしようとしていた女生徒が、いびきをかきながら寝ている。
「先生、あまり信用してないのはいいんですけど口に出されると傷つきますよ」
「実際、式神のことについての情報がない現代で、行動を制限できるわけもないし、識神君にその九尾さんを躾られるわけもないでしょうし」
「なんじゃ、人を犬っころみたいに言いおって。お主もシバかれたいのか」
そうやって血の気が多いのはどうにかして欲しいのだが。
「なにより、今回の件は過去を見てきたので、誰が何をしたのか。識神君の命令なのかは把握しています」
「素晴らしい洞察力じゃの。問題が起きた時に即座の対応は儂も心掛けたいのう。なぁご主人」
「お前、嘘がバレたらすぐに媚びへつらうんだな」
もっと威厳とかないのか。
いや、契約破棄がチラついている以上余計なことができないのだろう。
小賢しいというか。情けないというか。
十二単を着ているのに品がないというか。
「まぁ、今回のは識神君の正当防衛ということで処理しておきますし、綿津見さんのことも悪霊との契約破棄が妥当な処罰だと思いますし、そうするつもりですが」
「なんじゃ、追い出さないのか。というか、ご主人のことを守ったのは儂じゃぞ。もっとないのか。お褒めの言葉は」
「図に乗るなよ……」
コイツ、自分のことが責められないと分かれば報酬を求め始める図太さまで備わっているのかよ。
どれだけ自己中なんだよ。
「九尾さんは識神君の所有物でもあります。式神でもあるわけです。主人を危険から守るのは当然でもあり、定められたものでもあるわけで、褒められるようなことではありませんよ。
むしろ、評価外にした綿津見さんを煽る発言を再評価してもいいんですが?」
「確かに当然のことをしたまでじゃ。弱き者に手を差し伸べるのは強者の務めでもあるからな。なにより、儂はご主人の所有物じゃ。褒めてくれるのはご主人だけで充分じゃ」
「本当に、その手のひら返しは尊敬に値するよ……」
ドリルみたいに回る手のひらだな。
いや、褒めてない褒めてない。
そんなドヤ顔してこっちを見るな。
「まぁ、綿津見さんへの処罰はそこら辺が妥当だと思うわけですが、識神君は綿津見さんとの和解を求めますか?」
「いや、興味がないというのが正直といいますか」
和解とかしたところで、俺の評判や評価が変わるなんてことはない。
今までの悪口が帳消しになるわけでもない。
それに、そんなことなんかいちいち気にしているわけでもない。
目的はそこじゃないし、むしろそんな『最弱の祓魔師』という言葉が邪魔になっているわけでもない。
どうでもいい。
「和解とか、仲直り――なんてするほど仲が良かったわけでもないですし。そんなことをしても綿津見さんもイジメられる原因になるだけでしょうし、先生の言っていた処罰だけでいいですよ」
「なんじゃ、やけに聖人ぶっておるなご主人。あやつみたいじゃな、厩戸の皇子みたいじゃ」
「よく分からない褒め言葉をありがとう」
誰だよ厩戸の皇子って。有名な人なのか。それともコイツが適当なことを言っているだけなのか。
まぁ、あんまり気にしては駄目だろう。
「分かりました。では綿津見さんと悪霊との契約は破棄させてもらいます」
そんなやり取りをなんの感情かよく分からない瞳で見つめる火鳥先生。
警戒しているのか。それとも伺っているのか。
それとも疑っているのか。
どちらにせよ、気持ちのいいものではなかった。