第四魔「正体」
衝撃的出来事の直後――落ちた右腕を拾い上げ、くっつけ直した後、火鳥先生は冷静にその状況を見つめていた。
いや、むしろ今まで以上に厳しい瞳で睨んでいた。
「う、うーん……。識神君。この方とはどこで知り合ったのかしら」
「え、いや。悪魔に襲われている時に、急に人形が光って」
「人形?」
「はい、これです」
俺は鞄の中へ大事に仕舞っていた狐の人形を取り出す。
キーホルダータイプのもので、家族の形見でもあるそれは俺にとって大事な宝物なのだ。
高校生にもなって、人形が大事なんて恥ずかしい気持ちはあれども、悪霊と契約している奴なんて大抵人形を持ち歩いているから実質的にプラマイゼロだ。
そんな人形を先生は受け取ると、まじまじと見つめる。
少し、隣の九尾が嫌そうな顔をしているのはよく分からないが、嫉妬でもしているのだろうか。よく分からない。
「…………識神君。私が思うに、彼女は悪魔でもありません。血が出ていないのも証明の一つですが、同時にそれは実体化している悪霊だからという稀有な例でもありません」
「え、じゃあなにに」
「……過去の文献、それもかなり昔の物です。私が覚えていることも少なく、それこそ夢物語のような物ですが。
その方は――妖怪です」
「は……?」
隣でふんぞり返る九尾を見つめる。
え、こいつが?
悪魔だろ。性格的には。
「正確には、妖怪だったものを式神にさせたというのが正しいでしょう。依代としての役目をこの人形が果たしていると思いますし」
「……はぁ、悪魔みたいな癖してそうじゃないと」
「む、あんな低俗な輩と一緒にするな。気色悪い」
不満げにこぼす九尾。
いや、そうやって批判的な姿勢は低俗だと思うぞ。
「実際、この人形には何らかの力が付与されています。正確なものはよく分かりませんが、多分、この方を使役するための術式でも刻まれているのでしょう」
「うむ、正解じゃ小心者よ」
「その無礼極まりない言葉だけでもどうにかすれば、悪魔だと言われなくなるぞ」
「む、それならば訂正しよう。よくやったぞ女子よ」
大して変わってないようにも思えるが、まぁ侮辱的な姿勢でないだけマシか。
いや、こんな傲慢な姿勢では俺の品性を疑われてしまうか。
まぁ、いまさらあってないようなものだからいいが。
「なので、特例措置というより。異例措置になります。しばらく教職員で対応を検討するので、しばらく識神君はその人が問題を起こさないよう注意してください」
「なんじゃ、儂は迷惑極まりないとそう言っておるのか」
真面目な表情の火鳥先生へ威圧感を放ちながら近づく九尾。
いや、その行動が迷惑極まりないと言っているんだが。
このままでは、簡単に、すぐさまに。火の手は上がるだろう。こんなに喧嘩早いんだ。問題行動なんて誰よりも得意だろう。
そうなると、割を食うのは俺だ。責任の所在も契約主でもある俺になってしまう。
そうなってしまっては、退学処分や停学だ。
それだけは避けねばいけない。
俺には、この学校で学ばきゃいけない理由があるんだ。ここを踏み台に次へ進まなければいけないのだ。
足踏みするような状況は早めに取り除くべきだ。
「お前は特別な奴だから、特別な扱いをする必要があるんだよ。他よりも違うからな」
「む、なんじゃ。そういうことならば、存分に検討するとよいぞ。儂は特別じゃからな。なにせ、有象無象の悪魔といったか? 悪霊達よりも高貴で知的で、浮世離れした存在なのだからな」
「は、はぁ。ありがとうございます」
火鳥先生もそんな恐縮しなくても。
それより、コイツの扱いは意外と調子に乗らせれば容易いことが分かったのは収穫でもあった。




