第二魔「並木」
悪魔とは、人々の内に秘めた悪しき感情をなんらかの生物、物質へ抑え込んだものである。
殺意や悪意、歪んだ善意や民意、狂ったような思想や思惑、時には正義であっても、それらがこの世界に具現化される。
中には、人々と契約することで己の欲を満たす者も存在するが、極々少数の存在であり、大半は人殺しをする。血を抜き取る。腕をもぎ取る。足を砕く。そんな残虐性をもって、存在している。
悪霊とは、その名の通り、人々の感情によって生み出されたのが悪魔であるならば、人々によって生み出されるのが悪霊である。
例え、死んでしまったとしても無念の残った、この世に未練のある者は悪霊へと至る。
悪魔によって殺された者や。
悪霊によって殺された者や。
そんな者達だけでなく、善意の塊であっても悪霊となる。
この世に未練がある時点で、この世に留まりたいと強く思えば思うほど、悪霊となる。
では、ではだ。
「なぁ、ご主人。なぜ儂まで学校に行かねばならぬのだ」
「契約してしまった以上、一緒に行かなきゃ駄目なんだよ。手続きとか色々必要になるし」
「なんじゃ面倒くさいのう」
この九尾。
狐の女性は、あの時魚の怪物から救ってくれたこの女性は、果たしてどちらなのかだ。
悪魔なのか。
悪霊なのか。
「そうじゃ、名案があるぞご主人」
「…………嫌な予感がするから聞かないでおくよ」
にこやかな、いやらしいほどに無邪気な笑みを浮かべてはいるものの、この九尾の考えることはまともなものではないだろう。
あの時――怪物の手から落ちる俺を見捨てるような奴が、面倒事から逃げ出せるならと提案することにいいものなんてない。
「まぁまぁ、そう邪険に扱うなご主人。簡単な話じゃよ。聞くだけタダじゃ。いや、タダにしてしまうと儂が困るな。有料じゃ、この先は有料にしておく。
さぁ、存分に聞くがいい」
「いや、だから遠慮するって」
桜並木を進みながら、狐の女性は意気揚々と捲し立てる。
否が応でも聞かせたいのだろう。
それだけ自信満々なのだ。
全く、迷惑な奴だ。
「まず、儂が学校というものをぶち壊してやろう」
「本当にやめてくれ」
「なんじゃ、良き良き大変良き、将軍であっても承認するようなものじゃのに」
残念そうに呟く九尾。
そんないいものでないだろう。いや、望んでいる人物が少なからず存在しているからこそ、産まれてくる発想ではあるのだろうが、にしても、願い下げだ。
「そもそも、そんな迷惑な奴なら契約を破棄したっていいんだぞ」
「む、それは困るな。じゃ、撤回じゃ。散り散りになって消え失せよ」
手をブンブンと振っては、そこにあるだろう妙案をかき消す。
全く、自由なんだか。はたまた、気まぐれなのか。
どちらにせよ、この九尾と契約していたのは事実なのだ。
「――それより、なんで俺なんかと契約をしたんだよ」
「……む?」
必死にかき消していた九尾は、こちらを純真無垢な瞳で見つめてくる。
深紅の輝きをした、猛々しい赤。
血よりも赤く、炎よりも煌めく。
顔立ちは凄くいいんだよな。
性格とか、人格諸々がもったいないくらい残念なくらいで。
「契約とは、ご主人と縁の契りを交わしたことでおおよそ成立はしておる。なんで、契約したかなんて儂に聞くとは、ご主人も女子を辱めるのが好きとみえる。
儂でよければ夜伽もやぶさかではないぞ」
「そういう話じゃなくてだな」
「まぁ、なぜ契約したかなんてどうでもいいじゃろ。なにせ、儂はご主人の物であり、所有物じゃ。そういう関係でいいのじゃ」
前を向いて歩く姿はどこか、どこか。拗ねているようにもみえた。
「聞くなとは言わん。聞けとも言わん。ただ、察しろなんておこがましいことも言わん。
じゃから、いつか言う時がくる。その時まで待っておくれご主人」
なぜ、そんな悲しげに言うのか分からないが、少なくとも桜並木の中で、彼女の尻尾は九つある金色のもふもふは、揺蕩う。