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第十七魔「初乞」


 人生というのは不思議の連続なのだ。

 いつの間にか親は殺され、親戚一同皆殺しにされ、天涯孤独となった俺が祓魔師養成校に入学できたことも。

 今までその日暮らしでも病気にならず、多少の空腹感に襲われる日々しかなかったことも。

 魚の悪魔に襲われて、死にそうな瞬間で九尾に助けられ、彼女の尻尾に包まれていただけで完治したことも。

 その九尾にファーストキスを奪われたことも。


「お前! ふざけるのも――」


 そこまで言いかけて、九尾の変化に気づく。

 雰囲気が変わったのだ。

 いや、雰囲気だけではない。全て、九尾の着ている十二単も、尻尾の煌めきも、金髪も、赤い色の瞳も、全てが輝き始めたのだ。


「お前、なんだよそれ……」


「うむ、接吻程度ならばこのくらいじゃろうな。これならば、木っ端微塵になろうともどうにかなるじゃろ」


「いや、その前になんでそんなことに――」


「さ、ご主人よ。愛しき我がご主人よ。縁を結びし糸の如き細長いご主人よ。安全な穴に籠るがよい。これから、ご主人の言う通りのことを成し遂げようではないか」


 そういうや否や、九尾は勢いよく地面に向け、空気を蹴り出す。一瞬にして、文字通りのコンクリートの地面へ大穴をあけると、九尾は俺と気絶した綿津見を放り投げ、目玉の悪魔と対峙する。

 いや、言った通りなのはそうだけども。


「怯えが奴の糧となるならば、儂が与えるのは癪じゃからな。そんな強くなさそうな奴に畏怖嫌厭の姿勢を見せるのはもっと癪じゃ。

 さ、目玉のぎょろぎょろとした化け物よ。儂を殺したいのならば、その目玉をひん剥いて刮目せよ。そして、地獄にて他の者へ伝え歩くが良い、九つの尾を持ちし端麗綺麗で、美形の佳人の如くお前の目玉を潰すような眩しさの美女は、恐ろしく強いということを」


「自惚レ。しかし、『玉藻前』ヨ。未だ、主は弱きままで虚勢であル」


 一騎打ち。

 しかし、目に見えて九尾には力が漲っている。滾っている。そんな九尾が自信満々に、俺を助け出した時のような美しさに包まれている。

 それだけで。

 その姿だけで。

 信じられるほどに。過信できるほどに。

 俺は釘付けになっていた。


 しかし、目玉の悪魔も九尾も。それ以上の言葉を交わすこともなく、勝負は一分にも満たない時間で決着となった。


 まず、九尾は音もなく、いや置き去りにしながら地面を勢いよく蹴り出す。

 目玉との距離を瞬きの時間ほどで詰め寄るほどの超スピードで。しかし、そんなことは目玉自身、読んでいた。

 いや、それしかしてこないとわかっているからこそ、対処も簡単だったのだろう。

 目玉は飛び出した九尾に向けて、四方八方から。今まで飛ばした殺意――眼球を九尾に向けて、放つ。

 絶体絶命で、絶望的な状況にも関わらず、九尾はそれでも二度目の踏み込み。

 加速した。

 例え、その身を眼球が貫通しようとも九尾は勢いを殺さず、むしろ速度を上げたのだ。

 痛みに怯むこともなく、恐怖に怖気付くこともなく、死の感覚を超越するように、飛び越えるように、駆け抜けた。

 これが目玉の悪魔にとっては意外だったのだろう。

 驚きつつも、自分には最終手段。とっておきの、最大の攻撃と防御が残っている。

 そう確信した目玉は、加速した九尾に合わせるように自分の肉体に蠢くよう配置された眼球を解き放った。

 飛び散った。

 それで、勝ちだと。

 九尾は木っ端微塵になったと。

 確信し、慢心した。


「さ、ご主人よ。こいつの本体が出てきおったが、どうするかのう? 儂としては、血肉が飛び散る痛みを味わったものじゃから、コヤツにも同じ目に、それ以上の経験を味あわせてやりたいのじゃが」


 九尾は、肩や腕、臓器や足を眼球によって弾き飛ばされても、恐らく頭蓋すら消し飛んだはずが、突撃した時と同様の姿で、目玉の悪魔の小さな本体をつまんでいた。

 化け物はどっちだよ。


「ひひ、お、お許しををををヲ」


 手のひらサイズの悪魔は、怯え震え、恐怖をその身で表現するほどに、虚弱でみすぼらしい肉体の小鬼であった。

 まぁ、そうだな。


「半殺しくらいならいいぞ」


「ひぃいいいい!?」

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