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第十六魔「爆発」


 恐らく、俺たちが対峙しているのは悪魔だろう。

 それも種別さえ特定出来ないような状態。

 そんな悪魔と戦う時、祓魔師に求められるのは冷静な判断力でもなく。確実な計画性でもなく。

 凄惨な冷酷さでもなく。

 非情な感情でもなく。

 ネジが外れた無能でもなく。

 力に任せた強さでもなく。

 臆病者の弱さでもなく。


 ただ、相手を殺すという意思。

 猪突猛進のような。一心不乱のような。無我夢中のような。

 目標を定めれば歩き出すような。

 ゴールが見えれば走り出すような。

 強引なほどの、ただ、ただただ、相手を殺すというものだけ。


「……ご、ご主人。儂は聞き間違いをしたのかもしれん。すまんがもう一回、言っておくれ」


「だから、アイツが爆発するのを誘っているのなら、あえて乗ってやればいいだろ」


「い、いやいや。あやつは爆発したとして儂の体は木っ端微塵になると言ったであろう。ご主人にだって、被害が出るかもしれんし」


「別に怯えているのなら、そうすればいいけど。そうすればそうするほど、アイツはどんどん強くなるぞ」


 実際、飛び交う殺意に僅かな成長――もしくは、威力が増している気配がしている。

 速度も微弱ながらも上昇している。


「言っておくが、悪魔は負の感情を得られれば得られるほど強くなる。恐怖や悲哀、寂しさや怒りなんかもな。

 だから、長期戦になればなるほどこっちにとってより、不利となる状況になるわけだ。既に色んな人が犠牲になっている時点でな。それに、お前がいつまでも爆発することに怯えていればいるほど、アイツの思うツボてだけだ」


「……うむ」


 よくある話ではある。

 逃げ腰を追い掛けるのは簡単だ。逃げ続ける者を追い掛けるのは容易い。

 それこそ、圧倒的なスピードでいい。

 それこそ、強靭なスタミナでいい。

 もしくは、飛び道具を使う知恵でもいい。

 ゆえに、逃げる立場にある者は常に狩られ続ける。

 そして、そこから逸脱するには、相手の意表を突く必要がある。


「あえて、あやつの思惑に乗ってやるということか?」


「嫌ならこのまま避け続ければ、国家祓魔師がやってきてどうにかしてくれるだろうし、そのまま逃げ続ければいい。

 ただ、あんな奴に勝てない奴と契約したのを俺は恥じるがな」


 恥も恥だ。

 無論、堅実な行動をとること自体の批判ではない。

 むしろ、そんな主人のことを最優先できる悪魔や悪霊の方が少ない。

 知性と理性。

 それらが備わった者しかとれないもので、そして悪魔との戦いには必要ないものなのだ。


「…………わかった。わかったぞ。ご主人。しかし、少しだけ時間をくれぬか?」


「少してどれだけだ。あんまり長引くとさっきも言った通り、手がつけられなくなるぞ」


「大して時間は必要じゃない。うむ。たった数秒じゃな。それだけで充分じゃ」


 まぁ、それくらいなら九尾の回避の上手さなら可能だろう。


「いいぞ。で、俺は黙っておけばいいのか?」


「うむ。黙っておけばよい。ついでに、目を閉じればいい」


 は?

 なんで目を閉じるんだよ。


「さぁ、早くしろご主人。この状況から抜け出したいのならば、早く」


「わかったわかった」


 何をするかは知らないが、まぁ、大したことではなさそうだ。

 九尾の非常におちゃらけた表情を最後に俺は瞼をおろす。

 

 真っ暗な世界に、感じる目玉から放たれる殺意の数々。

 通行人の恐怖。悲鳴。阿鼻叫喚。

 頬を撫でる空気の躍動。

 尻尾に絡まった柔らかな感触。


 そして、唇に感じる確かな柔らかさと体温。

 ほのかに鼻腔へ感じる甘い香り。


「もうよいぞ。うむ久しぶりの接吻であったが、ご主人は下手くそじゃな」


 俺の唇は、なぜかこの戦況の中で奪われたのだ。

 は?

 俺のファーストキスなんだが?

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