第5話 過去を思い出して
「ヘックシ!今日は冷えるな〜」
車椅子で病院の中庭を移動する1人の少女がいた。
その少女こそ、中学2年生の頃の桃寧であった。
桃寧は中学2年の春に重い病気を患った。
そのため夏休みからこの病院に入院している。
桃寧はそんな生活に退屈さを覚えていた。
「寒いから······戻ろ」
くるっと回転して入り口へと向かった。
病室へ戻ってもこれと言ってやることも無いので外を見つめるばかりであった。
桃寧は日に日に元気を失い、暗い何かを背負うようになった。
(私は何で生きてるのかな········)
桃寧は自分の生きがいさえも見つけられず俯く日々であった。
それは周り見ても明らかだった。
そんな思いを抱えながら、冬が過ぎ中3の春が来た。
でも、桃寧は病院から出ることは出来なかった。
桃寧はテレビを消し目をつぶった。
目をつぶって5分程した時何やら病室が騒がしかった。
目を開けてみると女の子が1人新しく入院してきたみたいだった。
桃寧はその女の子に一瞬にして目を奪われた。
美しく澄んだ瞳に、少し焼けた肌、それでいて優しいオーラがすごい。
桃寧は目を離せなかった。
「わ、私の顔に何か付いてる?」
向こうが気まずそうに声をかけてきた。
桃寧は慌てて
「べ、別に何もついてないよ!ただ·····」
「ただ?」
「綺麗だなって·········」
シーンと病室が静まり返った。
幸いにも病室には2人しか居ないため他の人には聞こえてないが恥ずかしさのあまり沈黙する。
「あ、ありがとう······あなたもすごく綺麗よ」
「あ、ありがとう·····」
お互いを褒めるというのはとても勇気のいるものだと桃寧は思った。
「あなた、名前は?」
「桃寧。櫻井桃寧中学3年」
「私は三山真弥。同じく中学3年生」
年上っぽい雰囲気だったので勝手に勘違いしていたが同級生だった。
「何で入院してるの?」
桃寧が聞くと、
「ちょっとね、部活で足をやっちゃったんだ」
「部活か······」
桃寧は少し視線を落とした。
「桃寧ちゃんは何で入院してるの?」
「病気で中学2年の夏からずっと」
真弥は申し訳ないことをしたなという顔をした。
でも、そんな顔をさせるつもりはなかった。ただ自分のありのままを伝えたかっただけなのだ。
「そうだったんだ·····何だかごめんね···」
「ううん、謝らないで。それがいちばん辛い」
また2人の間は沈黙に包まれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夏を迎え、いよいよ桃寧の具合も悪化してきて、手術をしなければ治らないと言われたか桃寧は受ける気になれなかった。
(手術して治っても、何も生きがいがないよ·····)
「桃寧ちゃん、手術受けないの··?」
「受けたくない·······」
「でも、受けないと治らないんだよね」
真弥は心配そうな顔で桃寧を見つめている。
「受けて、治ったとしてもこれから何を糧に生きていけばいいのか分からないんだ······」
「そっか·········」
真弥はこれ以上聞いてくることは無かった。
数日後真弥は退院し、病室はまた桃寧ひとりになった。
桃寧は心の中がぽっかり空いた感覚で寂しい気持ちが溢れていた。
夏も半ば、いつも通り朝起きてテレビをつけるとそのチャンネルでは中学生の陸上大会が行われていた。
桃寧は1人の名前を見つけハッとした。
決勝戦に真弥がいたのだ。
「陸上部だったんだ·······」
真弥はピストルの音と同時にスタートダッシュを決めた。
凄まじい速度だった。他の選手たちを置き去りにして1人走って行く。
あの足の具合からして回復するのには相当な時間かかかったはずなのに、それを感じさせない走りだった。
結果は堂々の1位。桃寧はその姿を目に焼き付けた。
その後1位の人にインタビューがあり、真弥が映し出された。
『いやー、見事な走りでしたね!でも、真弥選手は怪我してたんでしょ?すごい回復力ですね』
『こうしてリハビリを頑張れたのもある少女のおかげです。同じ病室にいた女の子に手術を受ける勇気を与えたい·······その一心でここまで頑張ったんです』
桃寧は涙が出てきた。止めようとしたけど止められなかった。
『桃寧ー!見てるー!あんたのために1位とったよ!だから手術受けてねー!』
桃寧はテレビ越しに「うん!」と返事をしたのであった。
翌日桃寧は手術を受けた。何時間もかかった大手術だったが無事成功。
「ちゃんと安静にしてるのよ」
母親はそう言って病室を後にした。
「真弥ちゃんにもう一度会いたいな········」
ガラッ!と病室の扉が思い切り空けられた。
桃寧はビクッと体を揺らしドアの方を見る。
「桃寧ちゃん·········!」
「真弥·······ちゃん?」
真弥は涙ぐみながら走ってきて桃寧に抱きつく。
「あのインタビュー見てくれたんだね!」
「うん·········かっこよかったよ」
真弥の体温がじんわりと伝わってくる。それは温かくてとても安心する温度だった。
「それでいつ退院できるの?」
「明後日には退院できるって、そしたらすぐに受験勉強だけどね」
「一緒の高校に入れるかなぁ」
「それは分からないよ、お互いの中学校でさえ分からないんだから」
2人で笑い合う。その時間が今はかけがえのない時間だった。
「じゃあ明後日また来るね」
「うん、またね」
桃寧はとびきりの笑顔で応えた。
そして退院の日。桃寧は久しぶりの外に出た。
8月の後半で暑さもピークをすぎる頃とはいえまだまだ暑い。
ずっと病院にこもっていた桃寧はもうやられそうになった。
(暑い·······こんなことならまだ入院してた方が······)
「桃寧ー!来たよー!」
この暑さを吹き飛ばすような爽やかな笑顔で手を振りながら真弥がこっちへ向かってくる。
「退院おめでとうー!」
またも真弥はギューっと抱きついてくる。
後ろでお母さんたちはあらあらという顔で微笑ましく見つめくる。
(は·····恥ずかしいよぉ)
「真弥ちゃん暑いよ······」
「あ、ごめんごめん!」
パッと離す。
この鼓動の高鳴りと体温の高さは暑さのせいなのかはたまた違う何かのせいなのか。
桃寧は顔を赤くしながら頭の中で悩めるのであった。
どうも天音ココアです。最近暑くて僕自身暑さに弱いので家から出れません。
夏休みなのがホントに助かります。
久しぶりの投稿でほんとすみません。
最近忙しすぎて書く暇がなかったんです。
また次回会いましょう!