第4話 それぞれの好き By田村樹里
彼女の名前は田村樹里。
白百合学園高等部1の4で学級委員をしている。
人前では誰でも優しく接し、親しみやすい美人として学校の中でも一目置かれている存在である。
そんな彼女には少し秘密があり·········
ピピピピ!ピピピピ!
スマホのアラームが鳴り響くこの部屋は先程の彼女。田村樹里の部屋である。
「ん〜〜」
ニュっと手を伸ばしスマホのアラームを止める。
そして目を擦りパチッと開けるとその部屋は······
「えへへ〜おはよう〜桃寧ちゃ〜ん」
部屋の至る所に桃寧の絵や写真、自作グッズが置いてあった。
すると樹里はグッズの1つである《桃寧ちゃん人形(等身大)》を抱き。
「桃寧ちゃ〜ん!大好き〜!」
その人形にキスを始めた。
「桃寧ちゃん·········大好きだよぉ」
傍から見ればただのヤバいやつだがこれが樹里の日常である。
「樹里ー!早く下来なさーい!」
お母さんの声が聞こえたので樹里は下へ向かった。
朝ごはんを食べ、2階に戻った樹里はクローゼットを思い切り開け服を選び始めた。
「よし!今日はこれ着てこー!」
選んだのは黒のワンピースであった。
それに帽子をかぶり樹里は玄関を飛び出した。
(今日は、桃寧ちゃん人形第136体目の材料を買いに行かなければー!)
目をギラつかせショッピングモールへと走っていった。
息を切らし、樹里はショッピングモールへ着いた。
「えっと········材料を売ってる場所は·····」
フロアマップを指で伝いながら探す。
「あ、あった」
2階に材料を売っているお店を発見した樹里はすぐにそこへ向かった。
「えっと、必要なのは糸と綿と·······そんくらいか」
樹里は軽く店内を一周して必要な材料を揃える。
その数はカゴいっぱいになってしまった。
「ふぅ·····ちょっと買いすぎたかな」
さっきお会計をした時もあまりの量に店員さんが引いていた。
「とりあえず·····何か食べ······」
樹里は息を飲んだ。その目には憧れのあの人が映っていた。
(桃寧ちゃん!?)
声に出そうとしたが声にならない叫びで呼んだ。
「あれ、田村さん?」
オドオドしているうちに向こうから声をかけて貰ってしまった。
でも、ここは平静を装い。
「あら、偶然ね桃寧さん」
「偶然じゃないよ······」
「へ?········」
その一言に樹里の思考は全てショートした。
「········て言ったらどうする?」
桃寧は悪魔的な笑みを浮かべながら樹里をいじる。
(も、桃寧ちゃ〜ん!!)
樹里は心の中でキュン死していた。
「良ければ一緒に買い物でもする?」
桃寧が気さくに誘ってきた。
樹里はそれを断るはずもなく。
「是非!お願いします!光栄です!」
「ちょっと、そんな感謝しなくてもいいのよ·····」
桃寧は恥ずかしいのか顔を赤らめて樹里から視線を外した。
そんなこんなで2人はちょうどお昼の時間だったのでフードコートへ来た。
「桃寧さんは何を頼むの?」
「うーん、あそこのラーメンにしようかな」
桃寧は右端の方にあったラーメン屋を指さした。
「じゃあ私はあそこのカレーにする」
2人はそれぞれ品物を買いもう一度席に着いた。
「じゃあいただきます」
2人は手を合わせ食べ始める。
(それにしても桃寧ちゃんは綺麗だなぁ)
桃寧はラーメンを食べる姿も色っぽくとても美しい。
フードコートにいる人たちもみんな桃寧に視線を集めていた。
「あ、あの。そんなに見られると恥ずかしいんだけど」
「ご、ごめん!私も食べるね」
樹里も美人なので周りの目を引き付けている。
(し、視線が痛い······)
樹里は肩身が狭くなるのを肌で実感した。
「ご馳走様」
「あ、ご馳走様」
「次どこ行こっか?」
「うーん·····」
急にあの憧れの桃寧とお出かけできるとは夢にも思わなかったので急いでプランを立てようとする。
「あ!そうだ!」
桃寧は何かを思いついたようにパチンと手を叩いた。
「樹里ちゃんの家に行ってもいい?」
(ふぇ?!いきなり?!そして、いつの間にか呼び方が樹里ちゃんに変わってる·······)
「で、でも散らかってるし·······」
もとよりあの変態的グッズ達を見せたくはなかったのだ。
でも、こんな可愛い子の頼みなど断れるはずもなく。
「う······わかった」
こうして樹里の家へと行くこととなった。
◇◇◇◇◇◇
「お邪魔しま〜す」
桃寧は礼儀正しく靴を揃えリビングへ入っていった。
「ここがリビングだよ」
「わ〜綺麗だね」
リビングは白を基調としとても整った部屋だった。
「あら〜可愛い子ね〜」
キッチンの方からフワフワとした感じの女性が出てきた。
「樹里ちゃん、この人はお姉ちゃん?」
「やだ〜お母さんよ〜」
照れるこの人こそ樹里の母である、田村未来であった。
衝撃の38歳である。その見た目の美しさから近所の男性から一目置かれる存在となっている。
「そ、そんなことより早く2階行こ!」
「後でお菓子待っていくからね〜」
そんな母の言葉をスっと流し2階へさっさと向かう。
「ここが私の部屋だけど·····ひ、引かないでね」
「もちろん!樹里ちゃんが私の事大好きなのは知ってるし、何があっても驚かないよ!」
そしてドアを開ける。
壁一面には桃寧と真弥をモデルとした絵や、桃寧の人形など様々なグッズが置かれていた。
樹里は恥ずかしさのあまり顔を手で隠した。
「うわぁー!これすごいねー!よくできてる!」
桃寧が1つの人形を手に取りまじまじと見る。
人形も一つ一つが細部まで再現されとても素人のものではなかったのだ。
「引かないの··········?」
「え?全然。だって私を好きでいてくれるなんて光栄な事だもん!」
桃寧はニコッと笑った。その笑顔はとても眩しかった。
その後も数々のグッズを見たり、お菓子を食べたりと普通の女子高校生のように遊んでいた。
「でも、桃寧ちゃんはなんで真弥ちゃんと付き合ってるの?」
樹里はこれが聞きたかった。
「それはね············私が中2の時に戻るかな·····」
一呼吸おいて、桃寧は真剣な眼差しで言った。
「私が·······死の淵を彷徨った時の事だったんだ·······」
今回は過激な部分が無いですが、ここから徐々に桃寧たちの過去が明らかになってきます。
次回をお楽しみに。