法務官エヴァ・ハヴィランドの憂鬱
〇登場人物
エヴァ・ハヴィランド・・・
今回の主人公で法務官。ビョルンの補佐官も務める。
ジュリアン・トランティニャン・・・
神官。元法務官。
パウル・バルドーネ・・・
近衛騎士団の主任団長。
ビョルン・トゥーリ・・・
終身法務官。エヴァの上司。
ジュヌヴィエーヴ・リカーリ・・・
貴族階級の令嬢。ニーノ・バルテルに婚約破棄される。
ヴェルノン夫人に促されて<騒動打ち>の届け出を出す。
ニーノ・バルテル・・・
騎士階級の青年。ジュヌヴィエーヴと婚約破棄する。
ローラン・ブランヌ・・・
騎士階級の令嬢。ニーノの新しい婚約者。
クリスチアーヌ・ヴェルノン夫人・・・
ゴシップで有名な夫人。今回の騒動を大きくした一人であり黒幕でもある。
〇用語
騎士階級・・・経済界の人々です。
騒動打ち・・・
前妻が親しい女たちをと共に後妻を襲い、家財などを打ち壊しを行う行為のことです。
相手側も向かい撃つので乱闘になります。
江戸時代には実際に行われており打ち入りの専門家までいたそうです。
王都にある神祇局に持ち込まれた一つの届け出。
これがのちに神祇局や近衛騎士団、そして、法務局を狼狽させることなど法務官エヴァ・ハヴィランドは予想だにしなかった。
ましてこの届け出によってエヴァ自身も渦中に巻き込まれるとは知るよしもなかった。
神官ジュリアン・トランティニャンがその届け出を受け取った時、彼はその内容に最初に混乱をきたした一人だった。
「なんですか・・・これ?」
そこに書かれていた内容はこうだった。
バルテル家の長子であるニーノから一方的に婚約破棄されたジュヌヴィエーヴ・リカーリ嬢が<騒動打ち>を行う。
さらに届け出には王都ではある意味、つまりゴシップ的に有名なクリスチアーヌ・ヴェルノン夫人の名前が書かれていた。
「どうしますか、これ?」
部下である神官が尋ねるのだが、ジュリアンもどうすれば良いかわからないでいた。
そもそもこの<騒動打ち>とは何なのか?
ジュリアンとしては法務学校時代の記憶の片隅にあるのだが、その内容はまったく記憶していなかった。
迷った末、ジュリアンがまず向かったのは近衛騎士団の駐屯所だった。
主任団長のパウロ・バルドーネに相談するためだった。
「パウロ殿、これはどうしたら良いのでしょうか?」
ヴェルノン夫人の名前が書かれた届け出を見たパウロも<騒動打ち>に関して知識はまったくなかった。
「いや・・・俺もわからん」
二人は悩んだ末、一番頼れる人物のところへ向かう。
「それで私のところに来た訳ですね」
終身法務官のビョルン・トゥーリは微笑する。
隣にいる法務官のエヴァも同様である。
「この<騒動打ち>って何なんだ?」
パウロの質問にビョルンは<騒動打ち>の話を始める。
「<騒動打ち>とはこういうことなのです」
これは夫婦が離婚する際や恋人が婚約破棄をする場合に起こるものだった。
主な内容として
・夫が一方的に妻に離縁状を渡しすぐに愛人と結婚するような場合
・男性が一方的に恋人に婚約破棄し、別の女性と婚約をした場合
になる。その場合は元妻や元婚約者は新妻や新しい婚約者に対して復讐を行う事ができる。
つまり、相手の所に出向き相手の屋敷や装飾品などを破壊することができるのだ。
一方で相手側も応戦のため知り合いを集めて迎え撃つことができる。
「つまり・・・ニーノ・バルテルの新しい婚約者に対してジュヌヴィエーヴ・リカーリ嬢がヴェルノン夫人の後見の下に<騒動打ち>を起こす訳だ」
この辺りの事情は冠婚葬祭を取り仕切る神祇局のジュリアンが説明する。
一ヵ月前に騎士階級に属すニーノ・バルテル氏が突然、婚約者のジュヌヴィエーヴ・リカーリ嬢に対して一方的に婚約破棄を宣言したのだ。
問題は新しい婚約者が騎士階級のローラン・ブランヌ嬢であったことだ。
その場所が貴族階級や騎士階級の交流の場であったため、貴族階級であるジュヌヴィエーヴ嬢だけでなく貴族そのものが恥を掻かされたと思ったのは当然の流れだった。
このような雰囲気の中で、クリスチアーヌ・ヴェルノン夫人が貴族階級の人々に呼びかけた上で、ジュヌヴィエーヴ・リカーリ嬢に<騒動打ち>を薦めたのが今回の流れだった。
「ビョルン様、このような事例は過去にありましたか?」
ジュリアンが尋ねる。
「<騒動打ち>に関しては法務学校の教材で取り上げられたことがあります。ですが実際に行われたのは数少ないのも事実です」
「それに今回は仕切る相手が本当に仲が悪い同士ってのが問題ですね」
エヴァが言う。
届け出の見届け人はヴェルノン家、仕掛ける相手はバルテル家。
この両家の仲が悪い事は、王都では誰もが知ることであり有名だったのだ。
「<騒動打ち>は過去30年間で1度だけ行われました。その時の当事者はその二つの家同士です」
「もしかしてその時の届け人はバルテル家ってことはないよな?」
「パウロ様、お見事です」
パウロだけでなくジュリアンも表情が強張る。
「また面倒なことになったね」
「良い迷惑ですよ」
エヴァは呆れている。
この忙しい時期になんてことをしてくれたんだと思う。
「では、どうしましょうか・・・そうですね・・・」
そう言いながらビョルンはエヴァを見る。
「どうしましたか?」
「ここはエヴァ、あなたが法務官としてこの騒動を収めなさい」
「はい?」
エヴァも表情が強張る。
「大丈夫ですよ、ここにいる全員があなたに協力しますから」
「なんでそうなるんですか!!」
ビョルンの無茶な振りにエヴァは叫ぶしかなかった。
エヴァが憂鬱なのはこのような事情が理由だった。
ビョルンの命で法務官として<騒動打ち>をどう扱うのか、この事案を担当することになったエヴァがクリスチアーヌ・ヴェルノン夫人に会いにいったのはその日の夕方だった。
まずは見届け人としての彼女がなぜジュヌヴィエーヴ嬢に訴えを起こさせたのか。
その本音を聞こうと思ったのが、彼女の返答はあまりに短絡的だった。
「婚約破棄と言う女性の心を傷つける輩を許す訳にはいきません。まして、ジュヌヴィエーヴは私の親類にあたるものです。許せるはずがありませんわ」
「ですがヴェルノン家とバルテル家は三十年前にも同じことを起こしています。今回の件は誰がどう見ても遺恨にしか見えません」
「遺恨と思われても結構です。今回の件で遺恨を終わらせるのもありですわね」
だが、その裏ではクリスチアーヌ・ヴェルノン夫人がリカーリ家をよろしく思っていないのもエヴァは事前の調べで情報を得ていた。
・・・結局のところ、被害を受けるのはリカーリ家であり、ジュヌヴィエーヴ嬢になる。
そう思うだけでエヴァはジュヌヴィエーヴ嬢に同情を覚えてしまう。
ジュヌヴィエーヴ嬢の評判は良く王都の人々に慕われてる。
そんな彼女だけでも救いたい。
エヴァがそう思い始めるのも無理はなかった。
バルテル家の言い分もヴェルノン夫人と同じものだった。
今回で遺恨を終わらせるのだ。リカーリ家などどうでも良いようだった。
・・・貴族であろうと騎士階級であろうと自分勝手な人たちばかりね。
そんな汚らわしい場所からジュヌヴィエーヴ嬢を救いたい。
エヴァはそう決意すると翌日、ジュヌヴィエーヴ嬢に会いに向かった。
ジュヌヴィエーヴの部屋に通されたエヴァはそこで悲しみに暮れる彼女の姿を見た。
彼女の瞳は涙の跡で紅くなっており、眠れないようで目の下にはクマができていた。
「今回は申し訳ございません」
ジュヌヴィエーヴは頭を下げる。
「いえ、私も法務官として伺っているだけですので楽にして下さい」
「ありがとうございます」
「では、ジュヌヴィエーヴ殿。率直に申し上げます。今回の届け出は取り下げることはできますか?」
「・・・できません」
「それはクリスチアーヌ・ヴェルノン夫人が原因ですよね?」
「・・・はい」
「あなたも理解していると思いますが、今回の騒動で害をもっとも被るのはバルテル家とリカーリ家、そしてあなたです。ヴェルノン夫人は傷つくことはありません」
「・・・理解しています」
「最近、ヴェルノン夫人とあなたの家は仲が悪くなっていると聞いていますが何か思い当たることはありますか?」
「はい。実は・・・私はヴェルノン夫人から紹介された方々をすべてお断りしております。それはニーノ様と婚約してからも続いておりました。ですが・・・夫人の薦める方は私には合う方々ではなく・・・」
「夫人の様に自分本位の方々だった訳ですね」
「はい」
「ヴェルノン夫人としてリカーリ家に恥をかかされたと思っている訳ですか・・・」
「はい。それと・・・気になることがありまして・・・」
「どうしましたか?」
「ニーノ様の新しい婚約者ですが・・・どうもヴェルノン夫人の紹介のようでして・・・」
「それはご両親にお伝えしておられますか?」
「はい。ですが、父も母もヴェルノン夫人が苦手でして今回の件でも強引に押し切られたようで・・・」
ジュヌヴィエーヴの声が小さくなる。
「ジュヌヴィエーヴ殿、あなたにお聞きします。これはあなたを救う手段になるかもしれません」
ジュヌヴィエーヴがおもわず顔を上げる。
「それにはあなたの勇気が必要です。あなたが良ければ法務局や騎士団、神祇局があなたを守ってくれます」
「そんなことが・・・できるのですか?」
「ええ。私が保証します。ですので今から聞く質問に答えて下さい」
ジュヌヴィエーヴが頷く。
「あなたはヴェルノン夫人に立ち向かいますか?」
「・・・それは・・・」
「おそらくヴェルノン夫人はすでにバルテル家と裏で手を結んでいる可能性があります」
「・・・どうしてですか?」
「あなた方に恥をかかされたヴェルノン夫人は今回の婚約破棄と<騒動打ち>であなたとリカーリ家に恥をかかせたいのです。バルテル家も<騒動打ち>がなくなればリカーリ家に騒動の発端として婚約破棄の慰謝料を払わなくて済むと考えているでしょう」
「・・・あの・・・エヴァ様・・・」
「どうされました?」
「実はヴェルノン夫人から時を見計らい今回の騒動を撤回できるように考えていると聞いておりました。ですが事が大きくなりすぎて収拾がつかなくなり<騒動打ち>を起こすしかないと泣きながら話されておりました。父は今、どうやって<騒動打ち>の届け出を取り下げようか悩んでいます」
おそらくヴェルノン夫人は泣き落としでジュヌヴィエーヴの行動を制限させたかったのだろう。
それにより気の弱いジュヌヴィエーヴを逆に追い込んだのだろう。
「もしヴェルノン夫人が嘘をつかれているのなら・・・私は許せません」
ジュヌヴィエーヴが立ち上がる。
「私は戦います。自分と家族を守るために!!」
「良い返事を頂きました。では、これから話すことを実行して下さい」
エヴァはジュヌヴィエーヴに意見を具申するのだった。
法務局に戻ったエヴァをビョルンが出迎える。
「エヴァ、答えは出たかい?」
「はい」
エヴァの笑みが悪戯っぽい笑顔を見せる。
「やらせましょう、<騒動打ち>を!!」
エヴァが法務局の代表として両家に伝えたのは<騒動打ち>の許可だった。
しかも王都すべての治癒院に<騒動打ち>で怪我人が出た場合は対応するよう指示を出した。
これは両家は予想もしない展開であり、反論するにもすでに法務局が許可を出した限りは市井だけでなく貴族院や元老院まで情報は回っているので今更拒否はできる状況ではなかった。
エヴァは身勝手な両家が許せなかった。
一番傷ついているのは一体誰か?
それはジュヌヴィエーヴ・リカーリである。
一番悪いのは一体誰か?
それは婚約者であったニーノ・バルテルとローラン・ブランヌである。
・・・単純なことではないか。
なぜ、それを家同士の争いにしようとするのか。
それに関わる人々も何も考えず自分の利益を求めたり面白がっている。
だったら楽しめば良いのだ。
エヴァはその舞台を用意したに過ぎない。
こうして、リカーリ家とブランヌ家の<騒動打ち>は行われることになった。
<騒動打ち>の当日は逃げ場を失った両家の関係者で両屋敷の前は埋め尽くされた。
宣言をした限り彼らが手を抜くことは世間的にも許されるはずもなく王都の人々が弁当や酒を持って観客として<騒動打ち>の開始を待っていた。
そんな中でこの騒動の原因であるクリスチアーヌ・ヴェルノン夫人がエヴァに詰め寄っていた。
「なぜ認めたの!!これでは私たちが恥を掻くだけじゃない!!」
「何を言ってるんですか?そもそもそちらが持ち込んだものですよ」
「向こうも困っているじゃない!!」
「そんなこと知りませんよ。これは法務局長官のアトルシャンも認めたものですよ。もしできないと言うのならあなた方は嘘をついたことになるので最悪、嘘をついて王都を混乱させた罪で拘束されますね」
「冗談でしょう・・・」
「冗談と思うなら思えばいいですよ。ですが、あなた方は騒動の責任は取ってもらいますよ」
「・・・そんな・・・どうしたらいいの・・・」
「頑張って<騒動打ち>を行って下さい」
エヴァはヴェルノン夫人を突き放した。
ヴェルノン夫人は泣くしかなかった。
<騒動打ち>が始まった。
両家とも家の者を総動員しており、手に持った箒やホコリ掃いを持って叩き合いが始まる。
最初に犠牲になったのは男たちだった。
恋人や夫に日頃の恨みがある者たちは戦場の中で隙を見て味方であるはずの彼らを密かに攻撃した。
それが時間が経つにつれ大胆になり、最後には罵声を浴びせながら叩き続けた。
彼らは今回の騒動に対してやる気がなく、態度が豹変した彼女たちに混乱してしまい逃げるがその場で気を失うまで叩かれるしかなかった。
そしてついに女性陣がぶつかった。
そこで行われたのはもはや狂気でしかないものだった。
ある者は飛び蹴りをし、ある者は頭突きを食らわせる。
そこには淑女の姿はなかった。
次々と戦闘不能になる者たちの中でジュヌヴィエーヴはローランを見つめていた。
ローランは怯えていた。
まさか婚約破棄の影響でこのようなことになるとは思わなかったようだった。
なにせ色気に任せてジュヌヴィエーヴの恋人を奪い、バルテル家に入ることで今後の人生はバラ色
になるはずだったのが完全に笑い物になってしまったのだ。
もはや同情など求められない。この後も離婚さえできない。
さらに世間に笑われてしまうのだ。
反対にジュヌヴィエーヴは悲しかった。
自分の意志の弱さでヴェルノン夫人の言うがままに<騒動打ち>を起こしてしまった。
だからこそこの騒動を止める方法を考えなければならなかった。
それはすでに浮かんでいる。あとは実行するだけだった。
ジュヌヴィエーヴはローランに向かう。
その姿に皆が動きを止める。
ローランも持っていた箒を構える。
だが、ローランの横をすり抜けると屋敷の玄関にいたニーノに近づくとそのまま勢いで頬を平手打ちした。
皆が驚く。
「な・・・」
ニーノが唖然とする中、さらにジュヌヴィエーヴは平手打ちを続ける。
静寂になる中、平手打ちの音だけが響き渡る。
「や、やめてくれ・・・」
ニーノが泣き出す。
だが、ジュヌヴィエーヴは止めない。
そこにエヴァがジュヌヴィエーヴに歩み寄ると、彼女の両肩を押さえる。
「はい、そこまでですよ」
「エヴァ様」
ジュヌヴィエーヴはエヴァの顔を見た瞬間、涙を流し出す、エヴァは彼女を抱き締める。
「よく頑張りました」
「・・・エヴァ様」
エヴァがより涙を流す。その中でエヴァはニーノに告げる。
「婚約破棄は成立しました」
「あ、ああ・・・」
ニーノはエヴァの宣言を理解できず言葉にできない。
「あなたは今後ジュヌヴィエーヴ殿に近づいてはいけません。いえ、ニーノ・バルテルとローラン・ブランヌに関わる者はすべてです。もちろん、クリスチアーヌ・ヴェルノン夫人もです」
誰もが何も言えない。エヴァの偏りない態度に飲まれてしまった。
「もし近づいた場合、それが確認されたのなら否応なしに皆様を拘束します」
エヴァの言葉に反論はでなかった。
「では、行きましょうか」
エヴァはジュヌヴィエーヴを抱き締めながらその場から離れようとした。
するとニーノがジュヌヴィエーヴのスカートを掴む。
「待って!!ローランとは別れる!!だから、ジュヌヴィエーヴ結婚しよう!!」
その瞬間、エヴァがニーノに平手打ちをした。
これには皆も驚く。
「無礼ですよ。あなたがやったことは」
「法務官が暴力をして良いのか!!」
ニーノはエヴァに殴りかろうとする。
だが、後ろからパウロがニーノを取り押さえる。
「女を殴ろうとするとは最低な奴だな!!」
「ひぃ!!」
パウロの姿を見てニーノは怯える。
自分を取り押さえているのは騎士団の主任団長であり、到底勝てるはずもなかった。
「あなたが先にジュヌヴィエーヴ嬢に手を出したからエヴァは正当な行為で平手打ちをしたのですよ」
そこにビョルンが現れた。
後ろにはジュリアンも控えている。
ニーノはまたも驚く。
今度は終身法務官が自分の前に現れたのだ。
「私から見ればジュヌヴィエーヴへの付きまといとしか見えないですよ」
「そんなつもりは・・・」
「あなたは女性に対して見下し過ぎです。そんなあなたには平手打ちが一番ですよ」
ビョルンはエヴァに向けて微笑む。
エヴァも頷いた。
「では皆さん、撤収しましょう。後ほど各家には法務局と神祇局、近衛騎士団の名前で<騒動打ち>の終了を宣言した書類を送ります。これは丁寧に扱って下さい。無くした場合は罰しますので」
こうして王都の話題をさらったバルテル家とリカーリ家の<騒動打ち>は終わった。
その後の経過だが、ニーノ・バルテルとローラン・ブランヌは結婚をしたものの世間の評判は最悪であり、社交界に参加できずにそのままバルテル家の領地に身を隠すように移り住んだ。
また、クリスチアーヌ・ヴェルノン夫人は夫から離縁を言い渡された。
もはや同情する者たちはおらず彼女は受け入れるしかなかった。
クリスチアーヌ・ヴェルノン夫人は慰謝料として受け取った小さな領地に移り住むと老後を保証されたものの寂しい一生を送ることになった。
最後に被害者であるジュヌヴィエーヴ・リカーリは今回の騒動の後に次々と婚姻の申し出が届くようになった。
その中で一人の男爵家の長子と心を通わせるとそのまま結婚することになった。
結婚生活はうまくいっており、来年には第一子が誕生する予定である。
「満足です!!」
エヴァはワインを飲みながら愉悦に浸っていた。
その相手をするのはビョルンだった。
「夫人やニーノのあの顔を見て満足してます!!」
「はいはい」
ビョルンはエヴァの頭を撫でる。
「・・・お酒飲むの止めないんですか?」
「私は止めませんよ。酔って歩けなくなっても介抱して上げますから」
ビョルンが微笑む。
「・・・卑怯」
いつもそうだとエヴァは思う。
自分の気持ちを知ってるはずなのにこう言うことを簡単にする。
エヴァはよりビョルンへの想いを募らせるのだった。
「はい?」
ビョルンの手が止まる。
「わかりました!!もっと飲むんでちゃんと介抱して下さいね!!」
「はいはい」
そう言うとビョルンはエヴァの頭を改めて撫でたのだった。
「法務官エヴァ・ハヴィランドの憂鬱」の続編がございます。
「法務官エヴァ・ハヴィランドの憂鬱Ⅱ」はこちら。
https://ncode.syosetu.com/n9594hk/
「法務官エヴァ・ハヴィランドの憂鬱Ⅲ」はこちら。
https://ncode.syosetu.com/n6315hm/