94 魔城 11
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
王都を救い、最強機体の設計図を届けた直後、これまで協力者だった騎士が豹変。
機体を破壊され危機に陥った一行だったが、ジンが新たな機体で敵を殲滅した――。
最も巨大な大陸に、険しい山々が連なる壁で文明圏から隔絶された地がある。
一年中吹雪が吹き荒れ、それが止んだ時だけ白銀に輝く美しくも生の無き死の幻想世界が姿を現す大地が。
雪と氷と暗雲が覆う、標高四千メートルを超えた、平地としてはこの世界でも最高度となる、誰も顧みない僻地の中の僻地。
そこに巨大な城塞があった。
禍々しく、ねじくれ、悪意と邪悪で塗り固められた、途方もなく巨大な城塞が。
この世界にある国家全ての敵である魔王軍……その首領が住まう城が。
石柱が立ち並ぶ、暗く巨大な、神殿のごとき部屋。
そこに三つの人影があった。
その三つはフード付きのローブを身に纏い、顔かたちは全くわからない。背と体格は全く同じに見える。
黄色いフードローブが苛立ちを隠そうともせずに言った。
「間者と勝手に接触し、処刑が決まった者を拾って使う。随分と好き勝手をしてくれるものだな!」
赤いフードローブが溜息をついた。
「自分が水面下で進めていた計画が白日の下に晒され、奴も焦っているのだろう。我々の誰かに黄金級機設計図を奪われまいと、な……」
青いフードローブが呟く。
「暗黒大僧正とも会っていたようだ。何を訴えたかは知らんがな」
「「なにィ!?」」
黄色と赤のフードローブが驚愕する。
「ジェネラル・アルタルフ……奴め、何を企んでいるのだ」
赤いフードローブはそう言うと、何やらじっと考え込んだ。
だが黄色いフードローブは大声で怒鳴る。
「こんな所にいても埒があかんわ! こうなればこちらも乗り込むのみ!」
そう言って背を向け、大股で立ち去ろうとした。
だがその背に静かな声がかかる。
「暗黒大僧正と会っていた。そして奴は自ら出撃した。それはつまり、暗黒大僧正がアルタルフの行動を認めたという事にもなる」
「貴様ァ……」
忌々しそうにそう唸り、黄色いフードローブは足を止め、振り向いた。
「このまま黙ってアルタルフの好きにさせろというのか。許せるか、そんな事が! 元々、俺は奴が気に入らんかったのだ!」
「お前の気に入るかどうかなど、魔王軍にとってはどうでもいい事だ。くだらん」
静かに呟く青いフードローブ。
黄色いフードローブはぎりりと奥歯を噛んでから、低い声で唸る。
「俺が気に入らんのは奴だけではないぞ。そして気に入らん奴らに容赦してやる俺ではない……」
黄色いフードローブの殺気が膨れ上がる。
青いフードローブは――まるで動じない。そしてそこからも、黄色いフードローブに劣らぬ殺気が怪しく満ちた。
それを見ていた赤いフードローブは……さほど興味なさそうに、それでも一応口を挟んだ。
「アルタルフを討つとして、何か罪状でもあるのか。暗黒大僧正へ『自分が気に入らなかったから始末した』と言う気なら、もはや好きにしろとしか言えんが」
「罪状、か……」
そう呟き、黄色いフードローブは考えた。
気が逸れて殺気が霧散していく。
そしてほどなく「フフフ……」と笑った。
「あるではないか。黄金級機設計図はアルタルフの部下が造ったもの。奴もそれを援助していたはず。それが敵の手に渡った以上、それは奴の失態だ」
「だが奴自身がそれを取り替えそうとしている」
青いフードローブがそう言う。
だが黄色いフードローブは笑ったままだ。
「今さら取り返しても、既に我が軍はかなりの被害を受けた。それもまたアルタルフの部下が造った新型強化兵……超個体戦闘員とやらのせいでな!」
赤いフードローブが口を挟む。
「奴らは鬼甲戦隊と名乗っているそうだ」
黄色いフードローブは「む?」と呟いた。
「それならまぁ言い直そう。既に我が軍はかなりの被害を受けた。それもまたアルタルフの部下が造った新型強化兵……鬼甲戦隊とやらのせいでな! 奴にはその罰を受けて貰わねばならん!」
そこまで言うともはや上機嫌だ。黄色いフードローブは再び他の二人に背を向けようとした。
その時、青いフードローブが他の二人へ言った。
「静まれ。いや……控えろ」
その場の皆がそこで会話を止めた。
青いローブに従ったのではない。気配を感じたからだ。
闇に閉ざされた部屋の奥からの、強烈な、強大な……。
そこから乾いた足音が響く。
三人は黙って待っていた。
足音の主が姿を見せた時、三人はいっせいに膝をつく。
「「「暗黒大僧正!」」」
三人は足音の主、彼らの主の名を口にした。
その者――闇黒大僧正は強靭で屈強な肉体を誇示していた。身長200cm体重130kgの筋肉の塊が、ロングタイツにリングシューズを身に着けている。
その腰には燦然とベルトが輝いていた。チャンピオンベルトである。腰に手を当てて胸を逸らす堂々とした威容を見れば、どこかの団体の王者である事は納得せざるを得ない。
顔はわからない。闇と影に隠れて見えないのだ。
他の三人と異なるのは……その周囲の空間が、歪んで見えること。
陽炎のように……波打つように……あるいは色彩が滲んで混ざり合うかのように。
それはその者の放つなんらかの「気」による迫力かもしれないし、本当に空間に干渉する魔力が漏れ出ているのかもしれない。
ただ、他の者とは根本的に何かが違う。
それだけは確かだった。
人類の生息圏から遠く離れた、この時代の邪悪の中枢。
吹雪が吹きつける城塞の、その中の奥で。
この世界の脅威が、ジン達の最大の決戦を監視していた。
毎月定額の漫画サイトで昭和のプロレス漫画をたまに読むけど、なかなか面白い。
イギリスのレスラー養成機関はコンクリートのリングでスパーリングさせるとか、
メキシコのレスラー養成機関は砂漠の塔の上で火の輪くぐりさせるとか、
インドのレスラーはコールタールのプールでワニと戦って修行するとか、
仮にも実在のレスラーを主役にした漫画でよく描いたもんだ。
まあもちろん完全な実話なんだろう。
作中にそう書いてあるからな。




