9 戦火 1
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は己に備わった能力と心強い仲間の協力で、世界を席巻する魔王軍に敢然と立ち向かう。
だが次なる邪悪な刺客はすぐそこまで迫っていた――。
剣と魔法、そして巨大ロボ・ケイオスウォリアーが存在する異世界、インタセクシル。
そこにある大国の一つ・スイデンへ向けて、草原を進む巨大な人造の獣があった。
神官戦士ヴァルキュリナの預かる猛獣型戦艦Cパンゴリンである。
ジン達三人の聖勇士はそこに傭兵として雇われていた。
「あっー! あっー! ボク、女の子になってるよぉー!」
ジンにとって二日目の朝は、ナイナイの悲鳴から始まった。トカゲ男のダインスケンも反対側の壁にある二段ベッドの下段で、その声に起こされたようだ。
異世界から召喚された彼らは三人で母艦の一室を割り当てられ、ジンは二段ベッドの下で、ナイナイはその上で寝る事になったのだが……
「どうして? 昨日は確かに男に戻ったのに!?」
ジンはベッドから出て、ナイナイを見た。
二段ベッドの上にあひる座りして、薄着のシャツの胸元を両手で握り、時折服の中を覗いてはわななくナイナイ。
この艦にとっては急な増員だったので、あつらえた服など無く、この部屋の三人が寝間着として渡されたのは薄いランニングシャツと短パンだけだ。よってナイナイは肩も腿も露出した、かなり肌を晒している姿なのだが――
(服の上からだと性別が変わってもわからんな、この子は……)
じっくり見ればそうでもないのかもしれないが、流石にそれは失礼かと思い、ジンは自分の右腕へと視線を移す。
ジンの右腕は甲殻に包まれた怪物の腕、それから変化を起こそうとしなかった。
(俺の腕は……やっぱこのままか。意思を無視して変身しても、元に戻る時があるだけ、ナイナイの方がマシじゃないのか)
溜息一つ、ジンは他の二人に声をかけた。
「とりあえず着替えるか。体については、飯食いながら考えようぜ」
「まぁ気を落とすな。整備班の連中が喜んでたぞ。撃破した敵機から得られた資金が多かったからよ」
食堂――簡素なテーブルが並べられただけの大部屋だが――で、ジンはナイナイを慰める。
「金銭的に価値のある部品を倒した敵機から拾う習慣もなんかセコい感じはあるが、ファンタジー世界はモンスターからのドロップ品で冒険者が飯食ってるからな。その延長と考えれば違和感も無いか。でも資金とか呼んでるが、これ正確には資材だよなぁ?」
(まぁ使い道の同じ資金と資材を分けてもあんま意味無いが……)
喋りながらなんとなく自分の言葉に自分で突っ込むジン。
実は別れているゲームをプレイした事もあるが、他の問題点がいろいろと深刻(強制出撃キャラだけでの戦闘がやけに多い、負けないと進行しない敵が弱すぎて敗北のためのリセット連打が必要になる、等)な作品だったため、二回しかクリアせずにそのゲームは押し入れに突っ込んであった。
個人的に嫌いなゲームでは無かったが、元の世界に帰っても再プレイするとは思わない。
一方、ナイナイは俯いたままだ。目の前に置かれた食事――豆と芋のスープにパンという、非常に質素な献立――もほとんど減っていない。
ジンの方は逆にスープの芋が一個残っているだけだ。それを口に放り込んでから、ジンはまた適当に慰める。
「お前のスピリットコマンド【フォーチュン】のおかげらしいぞ。あれを使ってMAP兵器でまとめて吹っ飛ばしたんで、敵三機が全部倍額の資金になったんだとよ。スゲーな、お前は」
ケイオス・ウォリアーを撃破した時にどの程度の資金になるか、だいたいは決まっている。やはり残り易い部位や焼け跡から探し易い部品はあるのだ。
ただ『運が良ければ』期待できる額以上になる部品を拾う事もできる。その幸運を起こすスピリットコマンドが【フォーチュン】なのだ。
しかしそれもナイナイには何の慰めにもなっていなかった。
「どうしてボクをこんな体にしたのかな……。性別がころころ変わっても戦いには関係無いよね。魔王軍もボクなんかどうせ弱いから、変な実験にでも使ったのかな……」
俯いたまま暗い雰囲気に沈むナイナイ。
その言葉を聞き、ジンは自分の右腕をまた見た。
甲殻で覆われた右腕は、分厚い手袋を嵌めているようで、感覚は鈍いし器用にも動かせない。正直、食事は不便だった。
また鎧を着けているような物なので、服を着るのも大変である。軍服――中~近世のヨーロッパのそれとよく似たデザインの物――が支給されたのでナイナイはそれを着ているのだが、ジンはラフな袖なしシャツで、右腕を通すために脇を切り裂き、甲殻に包まれた「生身の」腕を露出させていた。
(まぁ俺のは戦闘に使わせる気満々だったろうがよ)
昨日の夕食時に木のコップを握りつぶしてわかったが、握力が左手の数倍ある。試しにフォークやナイフでつついてみたが、本当に鎧並みに硬い。
(だがなんで変身機能も無しに右腕「だけ」なんだ。俺も幹部とかの改造実験に使い捨てられただけなんじゃねぇだろうな?)
考えても魔王軍の者が目の前にいないのだから答えなど出るわけがない。ただ考えていると、対面に座るダインスケンと目があった――気がした。
とっくに食事を平げ、何をするでも無く前だけを見ているトカゲ男。その両眼は複眼であり、視線がどこに向いているのかいまいちわからない。支給はされたが軍服を着ようともせず、革の短パンだけしか身に着けていない。
そしてそいつがどこか改造されているのか、今の姿が元のままなのか、ジンには全くわからなかった。ダインスケン自身も自分の体を特に気にしている様子が無い。
視線があったダインスケンは「ゲッゲー」と鳴いた。
もちろん、ジンには何を言っているのか今一つわからなかった。ただ……意味の無いただの鳴き声ではなく、何か喋っている事はなんとなく見当はつく。
そういう気がする、というだけの話ではあるが。
あまり明るくない朝食が終わる頃、ヴァルキュリナが三人のテーブルに来た。席には着かず、立ったまま話し出す。
「もうじきハチマの街へ着く。そこで補給のため半日停泊する予定だ。下船するならその前に申し出てくれ。艦と連絡を取るため、こちらの誰かを同行させてもらう」
三人は顔を見合わせた。
(ファンタジー世界の街か。エルフやドワーフを見てみたくもある。だが……)
「街に出ても金なんぞ無いし、買い食いの一つもできねぇな。それとも報酬の一部先払いでもしてくれるか?」
ジンにしてはダメモトで気軽に言ったのだが、同じぐらいあっさりとヴァルキュリナは頷いた。
「かまわない。傭兵や冒険者が多少の前金を要求するのもよくある事だ。ただ、今すぐ渡せる額などたかがしれているが……」
「うん、いいよ。ありがとうございます」
素直に礼を言うナイナイ。見知らぬ街への興味で、彼の沈んだ気持ちも少しだけ上向いているようだ。
それはジンも同じ事である。いや……少しではない。
(思えば旅行なんて、ここ何年も行ってなかったな。まさか別の世界を見る事になるとは思わなかったが……来てしまった以上、ちょいと観光としゃれ込んでもバチは当たらないだろう)
モニターの向こうに映されるだけだった場所に、直に足を踏み入れる事ができる――ジンはこの世界に来て、初めて楽しくなっていた。
ジンの右腕は「GAイバー」とか「GIルス」とか、そういう系で。
Aギトって敵は神とその僕とかファンタジー節全開なのに、味方は4人中バイオ系2人にメカ装甲1人でファンタジー的なのが主役一人しかいないとか、今思うとごちゃまぜ感強かったな。
最初期に「アンノウンの犠牲者の一人は、時間軸を無視した不思議な写真を撮っていた」という情報が提示されたけど、問題だったのは「超能力(念写能力)があること」であって、写真に写っていた風景そのものはどうでも良かったとか……あれには意表をつかれた。
それとも自分が理解していないだけで、映っていた景色にも何か伏線があったんじゃろか。