87 雷甲 1
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
最強機体の設計図を届けるべく旅を続け、ついに王都のすぐ側まで来た。
王都は敵の襲撃を受けていたが、ジン達はそれを完全勝利で退けたのであった――。
王都を救って数日。
ジン達は王城の豪華な個室を与えられ、英雄として、客人として、都の守護者として過ごす事になった。
――筈だったが、色々あってやっぱり戦艦の相部屋にいた。
部屋のベッドでごろごろと寝転がるジン達。
「あの騎士ども、吠え面かいてケッサクだったっス!」
ベッドで腹を抱えて笑うゴブオ。
「ホントにガツンとやっちゃえばよかったのに!」
リリマナは何やら不満がある様子。
「さあ……どうだかな」
安酒の瓶を片手に寝転ぶジンの相槌は、気の入っていない生返事だった。
広く陽当たりの良い空間に、大きく柔らかいベッド。どこぞの職人が作った調度品が並び、食事はメイドが運んでくる。
そんな快適な部屋をあてがわれたのだが、だからといってずっとだらけているわけにもいかない。武術やケイオス・ウォリアー操縦の訓練のため、ジン達も日に何度かは部屋を出た。
しかし時の人であり城内では有名人だ。良くも悪くも目立った。
その日、訓練場へ行く途中、城の廊下で二人の少女に捕まった。
赤いドレスと白いドレスの、活発そうな少女と大人しそうな少女だ。二人が貴族の娘であり、友人同士であり、十四歳であり、リディアとルシーナという名だとジンは知っていた。
ナイナイを気に入ってしょっちゅう会いに来る子達だからである。
「ナイナイ君! どこ行くの?」
「今から武術の訓練なんだ」
リディアが明るく訊ねる。それにナイナイが答えると、彼女は興味津々で大きな目を輝かせた。
「へえ、どんな事するの? 見に行っていいよね」
「え? あの、面白くないと思うけど……」
気圧されながら困るナイナイ。
だがリディアは屈託なく笑う。
「その時は帰るから! 決まりね」
顔を見合わせるジン達。
小さな声でルシーナが頭を下げる。
「ごめんなさい……」
こうなると強く言い難い。ジンは肩を竦めた。
「ま、気の済むようにすりゃいいからよ。な?」
そう言ってダインスケンの方を振り向く。
いつの間にか、城で働く使用人達の子供ら――十歳に満たないぐらいの――を相手に、腕にぶら下がられたり、尻尾を掴まれたりしているダインスケン。
子供達は恐れる様子もなく、無邪気に彼と遊んでいた。
(あー……そうだったわ)
城で過ごすようになってから、ダインスケンの周りに子供達がしばし寄って来た。それをダインスケンも喜んでいる事は、ジンとナイナイにはわかっていた。
(ま、結局は俺が一番モテないのな……)
苦笑するジン。
しばし子供達をじゃれつかせてから、ジン達は改めて訓練場へ向かった。
訓練場は庭の隅に設けられており、いつも騎士達が利用し、剣の素振りや走り込み等に励んでいる。
だが甲冑で完全武装した者はいない。鎧・馬・ケイオスウォリアー……それらを使った本格的な訓練は都の郊外で演習として行うのであり、城の庭で行うのはそれまでのトレーニングなのだ。
ジン達はそのさらに隅で訓練を始めた。
走りこみ、筋トレ、打ち込み、組手……内容はまぁ地味な物である。周囲で行われている事と大差は無い。
まぁジンとダインスケンは騎士達と違い素手だったが。
なにせ二人とも、自分の腕や爪より強い剣が見つからないのだ。
一度、城の武器庫から「+1ソード」という魔剣を一本ずつ貰いはしたのだが……試しにジンが殴ると簡単に砕け、ダインスケンが爪と打ち合わせると真ん中から折れた。
+2以上の魔法の武器は貴重品だというので、二人はもう武器に頼る事はやめにした。
組手も二人で軽く行う。その頭上でリリマナが「がんばれー」と応援していた。ゴブオは退屈そうに見ているだけだ。
ナイナイは格闘戦が苦手なので、得意の投擲を練習していた。壁の石から的にする物を決め、離れてナイフを投げる。
腕前はかなりの物で、石の壁にナイフが刺さり、そのナイフを次のナイフが弾き飛ばし、同じ所に次のナイフが刺さり……まるで曲芸のようだ。
それが面白かったのか、後ろで見ている少女二人はナイフが飛ぶ度に拍手や喝采を飛ばした。
だが――それが良くなかったのだろう。
騎士達の何人かがジン達に詰め寄って来たのだ。険悪な雰囲気を隠そうともせずに。
「君らの功績は認める。だがここを遊び場にするのはやめてもらおうか!」
若く精悍な目つきの鋭い騎士が怒鳴った。
反射的にナイナイは少女二人を背に庇う。リディアは不満も露わにぷいと横を向き、ルシーナはおどおどと身を縮めた。
(ちと煩かったか。まぁここは穏便に退いてやればいいだろ)
そう判断し、ジンは組手をやめた。
「了解。ここまでにするわ」
そう言って騎士達に背を向ける。
だが何人かがここぞとばかりに叫んだ。
「もう来るな! 常識の無い余所者め」
「魔物同士で群れるなど汚らわしい……」
「都を出て相応しい所へ失せろ」
下に出れば調子に乗る者はいる。また、大きな手柄を立てればやっかむ者も出る。
そして防衛に勤めていた騎士達にとって、ジン達に救われた事は自分達の力不足を突き付けられたような物だった。
さらに――わかり難いから仕方がないが――ジン達の身の上も正確には伝わり切っておらず、魔王軍の裏切り者だと思っている者も、都を守った一番の立役者はヴァルキュリナでジン達はその部下でしかないと思っている者も多いようだ。
ただ騎士達の全員がそのような態度だったわけではない。
「おい。背を向けた相手にそのような……」
そう言って窘めようとしたのは、意外にも最初にナイナイへ怒鳴った騎士だった。
だが調子に乗れば止まらない者もいる。
「ゴブリンにリザードマンにおかしな片腕、男と女の混ざった悪趣味な体。そんな気持ち悪い連中に縋るなど伝統ある我が国の名折れだ」
それを聞いてジンが振り返った。
「じゃあお前が名を守ってみるか。代わりにヘシ折れるのはお前の体で、それは俺がやるんだがな……」
最後に罵った騎士へ大股で迫る。
一転、その騎士は青ざめて後ずさった。
助けを求めて慌てて周囲を見るが、一緒に文句をつけていた騎士達は一様に目を逸らし、加勢しようとはしない。
騎士が恐怖で冷や汗を流す。
ジンの相手を一人でする度胸など無かったのだ……。
忍びとは見えない悪を倒して平和に変えること。
30にZIライヤネタがあって思わずこちらもニコニコである。
スタッフに直撃世代がいたのであろうな。