86 魔城 10
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
最強機体の設計図を届けるべく旅を続け、ついに王都のすぐ側まで来た。
王都は敵の襲撃を受けていたが、ジン達はそれを完全勝利で退けたのであった――。
最も巨大な大陸に、険しい山々が連なる壁で文明圏から隔絶された地がある。
一年中吹雪が吹き荒れ、それが止んだ時だけ白銀に輝く美しくも生の無き死の幻想世界が姿を現す大地が。
雪と氷と暗雲が覆う、標高四千メートルを超えた、平地としてはこの世界でも最高度となる、誰も顧みない僻地の中の僻地。
そこに巨大な城塞があった。
禍々しく、ねじくれ、悪意と邪悪で塗り固められた、途方もなく巨大な城塞が。
この世界にある国家全ての敵である魔王軍……その首領が住まう城が。
石柱が立ち並ぶ、暗く巨大な、神殿のごとき部屋。
そこに三つの人影があった。
その三つはフード付きのローブを身に纏い、顔かたちは全くわからない。背と体格は全く同じに見える。
黄色いフードローブが鼻で笑った。
「後があろうが無かろうが、実力が無ければどうにもならん。わかりきっていた事だがな!」
言われたのは赤いフードローブ。
嘲りに対し、怒りも抗議もしない。
それどころか頷いてみせた。
「差し向けた部下が失敗した以上、言い逃れる事はすまい。次はお前がやるというなら、こちらは黙って見ている事にしよう」
それ聞いて口を挟む、青いフードローブ。
「マスターウィンドは生きているようだが……」
だが赤いフードローブは頭をふった。
「何度も失敗した以上、容赦はできん。他の部下への手前もある。戻り次第、奴は処刑する」
そう言いきったが、こうも付け加える。
「それは奴もわかっている筈。その上で戻ってくるとは思えんが」
「なんだそれは。それでいいのか!?」
呆れて訊く、黄色いフードローブ。
だが赤いフードローブはさらりと言った。
「構わんよ。負け犬の始末に手を煩わせるのも面倒。奴を見かけたらその場で処刑するよう、部下達に伝えておくまでだ」
「ふん、まぁお前の部下だ。それでいいなら俺が言う事は無い。今はスイデンに入った黄金級機設計図を奪う事が肝心だからな」
納得しているかどうかはともかく、黄色いフードローブの興味は次の戦いに移ったようだ。
そして黄色いフードローブの声に、闘志が漲ってくる。
「仮にも一国が相手だ。もはや刺客を一回ずつ送る戦いではあるまい。我が陸戦大隊が軍勢で乗り込み、設計図を力で奪い、都を更地に変えてくれるわ!」
赤いフードローブはそれを聞いて呟いた。
「例の試作体どもがいなければ親衛隊二人で落せた所へ、か」
だが黄色いフードローブは力強く言い返す。
「そうやって侮っているから足元を掬われる! ここぞという時に全力を叩き込むのだ! 二人で落せる場所を十人で叩き潰してはいけないという法は無い!」
それを聞き、今度は青いフードローブが訊いた。
「その中には自分も含めるのか?」
黄色いフードローブは、嬉しそうに、力を籠めて言い放つ。
「まぁな! 例の試作体どもも出るだろう。俺に叩きのめされてもまだ生きていたら、こちらの部下に取り立ててやろうと思っている。楽しみな事だ!」
青いフードローブは頷いた。
「ではあの国は滅ぼすと決めよう」
「おう!」
威勢よく応える、黄色いフードローブ。
赤いフードローブも黙って頷き、賛同の意を見せた。
しかし青いフードローブは付け加える。
「だが、果たして楽しめるかな?」
「ほう? どういう意味だ」
黄色いフードローブの声に苛立ちが混じる。それを隠そうともしない。
それに青いフードローブが答えた。
「我々は既に出遅れているのかもしれんぞ」
「なんだと!?」
予想外の言葉に戸惑う、黄色いフードローブ。
赤いフードローブが辺りを見渡した。
「むう、ジェネラル・アルタルフ……奴がいない」
淡々と呟く青いフードローブ。
「おそらく、既に動いているのだろう。設計図が都に持ち込まれた時点で。奴自らな……」
「お、おのれぇ!」
激しい歯軋りが黄色いフードローブから聞こえた。
赤いフードローブは小さく溜息をつく。
「スイデンの都から情報を送らせてみるか」
その時、青いフードローブが他の二人へ言った。
「静まれ。いや……控えろ」
その場の皆がそこで会話を止めた。
青いローブに従ったのではない。気配を感じたからだ。
闇に閉ざされた部屋の奥からの、強烈な、強大な……。
そこから乾いた足音が響く。
三人は黙って待っていた。
足音の主が姿を見せた時、三人はいっせいに膝をつく。
「「「暗黒大僧正!」」」
三人は足音の主、彼らの主の名を口にした。
その者――闇黒大僧正はほとんど裸だった。日に焼けた褐色の裸体は引き締まり、無駄な肉は一切無い。
着ている物は腰蓑とサンダル。そして鳥の羽を集めて作った冠。それは本人の頭より大きく、後ろに馬の鬣のごとく垂れ下がっていた。
両手には杖を持っている。捻じくれた木製の杖の先には、おそらく人の物であろう髑髏が取り付けられていた。
顔はわからない。闇と影に隠れて見えないのだ。
他の三人と異なるのは……その周囲の空間が、歪んで見えること。
陽炎のように……波打つように……あるいは色彩が滲んで混ざり合うかのように。
それはその者の放つなんらかの「気」による迫力かもしれないし、本当に空間に干渉する魔力が漏れ出ているのかもしれない。
ただ、他の者とは根本的に何かが違う。
それだけは確かだった。
人類の生息圏から遠く離れた、この時代の邪悪の中枢。
吹雪が吹きつける城塞の、その中の奥で。
旅を終えた筈のジン達に、さらなる脅威が迫っていた。
任務失敗した者を粛清した悪の組織は多かろうが、KA面ライダーAmazon(初代)では敗走した獣人を首領自らが処刑していた。
それが最初の2話に連続したもんで、アマゾンが獣人を倒したのは3話目以降だ。
この敵組織は内輪揉めで壊滅しそうだなと思っていたら、割とそれに近い展開でさらに驚きだったり。




