85 王都 8
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
最強機体の設計図を届けるべく旅を続け、ついに王都のすぐ側まで来た。
王都は敵の襲撃を受けていたが、ジン達はそれを完全勝利で退けたのであった――。
ジン達に横から声がかかる。
「ヴァルキュリナと一緒になる気はありませんね」
それはディーン――ヴァルキュリナの婚約者の弟――本人であった。
彼が来ていた事は知らなかったが、いるなら顔を出しても当然であろう。
ジンはそれほど驚く事はなく、彼に訊く。
「兄貴の婚約者とくっつくのは嫌なのかい? ヴァルキュリナは悪い女じゃねぇと思うが」
「私は家を出ると決心した身ですので。彼女は素敵な女性だと思いますが、そういう問題ではないのですよ」
そう言ってディーンは遠くで囲まれているヴァルキュリナを見る。男性達からダンスの申し出責めにあっている彼女へ、近づく気も話しかける気もないようだ。
「それよりジン達三人は、今後もヴァルキュリナの下で国防にあたる事を期待されていると思いますが」
ディーンの言葉に、ジンの肩でリリマナがこくこく頷く。
「仕方ないし当然だよネ。この都、陥落寸前だったし。ジン達が助けなかったら首都を放棄してとんずらだった筈だし。魔王軍と人間の国、すごい力の差があるよ……今もち堪えている国は、魔王軍があちこち手広く同時侵攻しているから耐えているだけで、もし戦力を集中されたら生き残れる国なんて無いのかも」
ジンは土産の箱を風呂敷に包みながら「ふうむ」と呟く。
「よくもまぁこの世界は魔王に支配されてねぇもんだな。この世界最強兵器の黄金級機も、七つ中四つがあちらにある筈なのによ。もしかして魔王――暗黒大僧正とやらは、世界征服なんて別にする気ないんじゃねぇのか」
その言葉に、ディーンは頭をふる。
「何年も世界中相手に戦っててそれは無いでしょう。それに魔王が黄金級機を四つも確保してるなら、ますますこの国が手に入れた設計図は大きな意味があります」
そう言った後、ディーンは何やら考えながら言葉を続けた。
「制作するためにはどうしても秘宝神蒼玉が必要になるので、そうそう作る事はできませんが……近隣諸国に協力を仰げば少しは話が変わりますね。それにより、諸国との連合を作る事さえできるかもしれません。スイデン国主導で……ね」
「結局、パワーゲームになるのか?」
少し顔をしかめるジン。
その肩でリリマナも両足をぶらぶらさせる。
「なんだかなァ。もうジン達が魔王軍の本拠地にバーッと攻め込んでドカンとやっつけちゃえ。そうしたら世界は次の魔王が出てくるまで平和になるよ」
ジンは肩を竦めた。
「おいおい。相手は黄金級機が最低四機だぞ。フル改造とはいえ青銅級機と白銀級機の真ん中な機体の俺ら三人じゃ、ちと厳しいだろうよ」
そんな話をしていると、また横から声がかけられた。
「ふむ。それについてはなんとかしようという動きがあるようじゃな」
これまた聞き覚えのある老人の声。
ふり向いたディーンの顔に、サッと緊張が走る。
「国王……」
スイデン国の王その人が、供もつけずにそこにいた。
「王さま! 黄金級機をジン達にくれるの?」
期待と興奮に顔を輝かせて身を乗り出すリリマナ。
ジンは思わず苦笑い。
(転移者が無礼なのはまぁまぁよくあるらしいが、地元人のお前がそんなんでいいのか……)
だが王の方は気にした様子も無い。
「もし造れるなら考えるがな。残念ながら目途は立っておらん」
「なァんだ……」
がっくり肩を落とすリリマナを見て、王はニヤリと笑った。
「ま、新型機製造の許可申請が出ておる事が、ワシの所にも聞こえておるでな。それもお前さんらの戦艦からじゃよ」
「俺は初耳ですが……」
ジンが言うも、王はどこか楽しそうだった。
「ワシも詳しい事は聞いておらんが、ま、許可を出すよう言っておいたからの。すぐにわかるじゃろ」
だがジンは直感的に思う。
(口ではそう言っても、多少は内容を知っているみたいだな)
側のディーンは「なるほど……」と呟いて、何やら考えているようだった。
(新型機ねぇ……俺らはここで軍での仕事を終えてもいいわけだし、関係ある話でも無くなるな)
そう考えつつ、ジンはリリマナを連れてダインスケンと共にパーティ会場から出ていた。
会場はまだまだ賑わっているが、食って呑んで土産も確保してしまうと、踊る相手がいないのでは暇でしかない。だから艦の待機するドックへ引き返しているのだ。
中庭を抜ける一階の渡り廊下――壁も無く庭園の一部になっている――を、月明かりに照らされて歩きながら、ジンは呟く。
「ナイナイの奴、どこに行ったんだか」
(まぁあいつはモテるし、会場でもぼっちにはならんだろ)
そう考えて心配はしていなかったが……前方で、両手を後ろに柱へもたれている人影を見て固まった。
ナイナイが本当にドレスに着替えて待っていたからである。
薄桃色の、胸から膝下にかけての物だ。胸元や腕は花柄のシースルーになっており、腰の後ろには大きなリボンもあって、妖精のような……とでも言うべき可愛らしい物だった。
そしてジンは感づく。
今、ナイナイの体が少女になっている事を。
「……変わっちまったから、着替えてきたのか」
ジンが訊くと、ナイナイは恥ずかしそうに俯いて、頷いた。
「……でも会場には入り辛い、と」
それにも黙って頷いた。
そして逆に訊いてくる。
「……踊る相手、いなかったんでしょ……」
「まぁ、な……」
頷くジン。なぜか雰囲気に押されながら。
「……ここで、どうかな……」
ナイナイからの申し出。小さな声だが、はっきりと聞こえた。
「アッハイ」
反射的に背筋を正して応えるジン。
ナイナイは俯き加減のままジンの前に来ると、おずおずと手を差し出した。
ジンはぎくしゃくとその手をとる。
「ありがとうございます……」
なぜか敬語になってジンが礼を言うと、ナイナイは少し視線をあげてジンを見ながら、はにかむような笑みを控えめに浮かべた。
パーティ会場からの音楽が僅かに聞こえるが、それは静けさを破るほどの物ではなかった。
微かに聞こえるその音楽に合わせ、ジンとナイナイは、ゆっくりと、ぎこちなく回り始めた。互いに手を繋いで、不器用に、くるぅり、くぅるり……。
ダインスケンは尻尾でパンパンと床を叩いて拍子をとり、リリマナは宙をふわふわと舞う。
仲間内だけの小さなダンス会を、月と星だけが眺めていた。
ドラクエ7はイベント1つクリアするごとに宴会していた気がするな。
まぁあれもプレイしたのは相当昔、よって印象による不確かな記憶なのかもしれないが。
タダで呑んで食っていいというのは現実では素晴らしい時間だが、ゲームの中だと「そんなもんいいから強いアイテムくれ」になるのが難しい所だ。