83 王都 6
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
最強機体の設計図を届けるべく旅を続け、ついに王都のすぐ側まで来た。
だが王都は敵の襲撃を受けていた――。
敵増援を率いる隊長機は先頭を飛んでいた。
鳥頭の翼人機・Sフェザーコカトリスであった。
『マスターウインド! あんたがこの出来損ないどもを仕留めてさえいれば!』
自分が救われる立場だと言うのに、増援へ罵声を浴びせるマスターコロン。
「じゃあそれに負けて、今にもやられそうなアンタは何なのよ! 後で酷い目にあわせてやるんだから!」
発言にカチンと来たリリマナが叫ぶ。
だが――そんな二人など無視して、マスターウインドは真っすぐジン達を目指した。
『ゆくぞ、超個体戦闘員ども』
「これからあれで呼ばれるのか? どうも、別の名前を考えたくなるな」
そう言いながらも、ジンはその場で様子を見る。
マスターコロンへ進み続ければ横から、もしくは後ろから増援に突かれる。優勢ではあっても奢る事なく、ジンはその場で迎え撃つ事にしたのだ。
増援へスピリットコマンド【スカウト】を放ち、そのデータをモニターへ映す。
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魔王軍兵 レベル25
Bダガーハウンド
HP:5500/5500 EN:200/200 装甲:1380 運動:110 照準:169
射 ダガーショット 攻撃2800 射程1―4
格 ワイルドバイト 攻撃2900 射程P1
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『増援連中は3段階改造されているようだな』
同じデータを見ながら母艦のブリッジで言うクロカ。
「要するに……問題無いってこったろ」
牙を剥く狼頭の巨人達へ、ジンは照準を合わせた。
実際、ジン達の優勢は変わらなかった――いや、先刻以上だと言ってもいい。
ダガーハウンド達もダインスケン機の動きにはまるでついていけない。ナイナイ機へ飛びかかる物もあったが、そっちにも当たらないのだ。
二人が身に着けたスキルは、実は戦意補強とEN消費軽減だけではない。
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見切り3:戦意130以上で命中・回避・クリティカル率が+15%される。
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ジンはジンで、また別の自己バフスキルを習得している。
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ガード3:戦意130以上で被ダメージが20%軽減される。
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もはやこの3機は手がつけられないと、母艦を狙う敵機もあった。
だがそれもまともな痛手は与えられず、反撃の尻尾で叩きのめされるのみ。
母艦もまたガード3の習得とフル改造を済ませてあるのだから。
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ヴァルキュリナ レベル30
Cガストニア
HP:17500/17500 EN:350/350 装甲:2500 運動:125 照準:205
射 騎獣砲撃 攻撃3700 射程P1―3
格 格闘 攻撃4500 射程P1
射 ファイヤーブレス 攻撃5300 射程1―7
格 ドラゴンタックル 攻撃5800 射程P1
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粉砕される魔王軍を騎獣の座席で眼下に眺めながら、ゴブオは上機嫌この上なかった。
(ヘッヘッヘ、次々と景気よくブッ飛ばされやがって。あそこでうだつの上がらねー毎日だった俺が、それを見下ろす日が来るなんてよ。やっぱアニキの下について正解だったわ)
蹴散らされているのが同族だとか元同僚だとか、そんな事はゴブリンにはどうでもいい事。都合のいい強者気分を味わえればそれでいいのだ。
ゴブオは喜び叫んで引き金を引き続ける。
「ヒャッハー! オレサマの手で血の雨が降るぜ! じゃんじゃん降るぜー! たーのしー!」
一方的に倒された部下の、機体の残骸の山。
その上を飛びこえ、マスターウインドはSフェザーコカトリスを降下させた。
『よもやお前達がここまでになるとは! だがこちらとて戦わねばならん!』
「来るかよ!」
叫びながらもジンは相手へ【スカウト】はまず放つ。
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マスターウインド レベル28
Sフェザーコカトリス
HP:22500/22500 EN:245/245 装甲:1970 運動:135 照準:185
格 ヘブンズソード 攻撃3500 射程P1―3
射 ブレイドフェザー 攻撃4000 射程2-7
射 ペトリフィケーション 攻撃4500 射程P1-6 機体能力全低下2
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モニターに表示された値を見たリリマナは、それが以前見た数値を上回っている事を知った。
「やっぱり強化されてる?」
「それで言うならこちらが上だ! クロカ、サポート!」
叫んで真正面から激突するジン。
『わかったよ!』
母艦のブリッジで応答し、彼女は敵機の脆い部分を分析する。
『僕らも! 行くから!』
ナイナイも、そしてダインスケンもジンの横へ駆け込んだ!
フェザーコカトリスの放つ羽の竜巻がジン機を巻き込んだ。
だがジン達が三人同時に放つ合体攻撃・トライシュートもマスターウインド機を撃ち抜いていた。
コカトリスの胸部装甲が砕け、その身が大地に落ちた。
一方、ジンのピルバグは立っていた。全身傷だらけではあるが、揺らぐ事なく持ち堪えたのだ。
ジン機のモニター表示……受けたダメージは2000足らず。強化パーツの補強もあってHP9000を超えるようになったBCカノンピルバグは、雑兵との戦闘を経てなおその威力に容易く耐えた。
そしてペトリフィケーションが持つ機能低下デバフは強化パーツ【フルコーティングアーマー】の効果により無力化されている。
一方、コカトリスは11000以上の大ダメージを受けていた。限界まで強化された合体技の攻撃力が6200に達し、ジンのかつてなく高まった気力とエースボーナスにより威力を激増させていたが故に。
かろうじて倒れず踏み止まるコカトリス。
その操縦席でマスターウインドは吐き出すように言う。
『クッ……私を完全に捉えるか!』
高い回避技術を持ち、それを跳ね上げるスキル【見切り3LV】を習得し、機体も高運動性を誇る。数々の敵を、ほぼ無傷で葬ってきた魔王軍の親衛隊。
だがその彼に、ジンはスピリットコマンド【ヒット】で渾身の攻撃を撃ち込んだ。
以前なら攻撃に防御にデバフにと、コマンドで消費するSPを考えながら戦わねばならなかった。
だが機体が限界まで強化され、新たなスキルも習得した事により、攻撃だけにリソースを費やして太刀打ちできるようになったのだ。
ジンは言う。
「雑魚でも必死になればそれなりに伸びるもんだな。俺らの場合、三人がかりで三倍伸びてるのもあるが」
その言葉でマスターウインドは気づいた。
BCバイブグンザリが次のアクションを起こしている事に。
『ジン! ダインスケン! トライシュートォ!!』
ナイナイの声と共に、他の二人が同時に動いた。
あらかじめ知っている筈のない、だが聞いてから判断していては間に合わないはずのタイミングで。
(まさに……一群にして一個!)
マスターウインドは見た。超個体戦闘員とは何を目指していたのかを。
そして知った。三つの射撃に同時に貫かれ、自機は戦闘不能に追い込まれたのを。
爆発が起こった。
コカトリスの右胸が吹き飛び、片腕が地面に落ちる。翼がかろうじて残ったのは……そしてまだなんとか動けたのは僥倖というもの。
マスターウインドは吠えた。
『私は、まだここでは死ねん!』
その気合を機体が受けたからか。
コトカトリスは再び空へ飛んだ。もはや真っすぐには飛べず、無意味に蛇行はしながら、それでも高速で都から離れてゆく。
『ちょっと! どこへ行くの! 最後まで戦って!』
哀願するような悲鳴をマスターコロンがあげた。
「さて……どうしたもんかね」
言いながらマスターコロンの機体へ距離を詰めるジン。
『ヒィ! ち、ちくしょう!』
悲鳴同然の声をあげ、彼女はSフィルシーハーピーで突っ込んできた。
内心、呆れるジン。
(勝ち目が無い事がわかっているなら降伏すればいいだろうにな)
悲しいかな、もはやヤケクソが通じるレベルの戦いではない。
フィルシーハーピー最強の武器・ダーティーサイクロンはBCクローリザードへ向かう。
だがそれはあっさり避けられた――スピリットコマンドさえ要らなかった。ダインスケンにとっては雑兵の攻撃と変わらなかったのだ。
逆に反撃の三段近接攻撃・合体技トリプルウェーブが炸裂する!
ジン機のメイス、ナイナイ機のナックル、ダインスケン機の刃が立て続けに繰り出され、ハーピーを打ちのめした。
表示攻撃力6700の三段攻撃はダメージ12000を突破し、機体は胸から腹にかけて大きく裂け、火花が派手に噴き出す。
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マスターコロン レベル28
Sフィルシーハーピー
HP:7660/20000 EN:210/230 装甲:1580 運動:120 照準:175
射 ダーティフェザー 攻撃3200 射程1―6 戦意低下1
格 ダーティクロー 攻撃3700 射程P1-2 戦意低下2
格 ダーティサイクロン 攻撃4200 射程1-3 戦意低下3
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だがそこまで追い詰められてなお、マスターコロンは逃げる素振りを見せなかった。
哀れなほどよろめきながら、なんとか空を飛んで攻撃に移ろうとする。
しかし――
『全速力で突撃せよ!』
ヴァルキュリナの指示で戦艦Cガストニアが突撃した。
背中に列を為す刃ごと敵に巨体をブチ当てる、この戦艦最強の武器・ドラゴンタックル。
弱りきったハーピーは、その一撃に牽かれ、全身の装甲を砕かれて動かなくなった。
「終わりだ。さて、今度こそ逃がさないようにしねぇとな」
言いながらジンは動かなくなったSフィルシーハーピーに自機を近づかせる。
だが――敵機を掴もうとした時、ハーピーが大爆発を起こした!
ジンのピルバグも爆炎に包まれて吹き飛ばされ、近くの地面に転がる。
だが徹底強化された重装甲は、その爆発にも耐えた。
「痛ァ……何なのよ!」
ジンの服にしがみついて怒るリリマナ。
爆発したハーピーの方は、当然のように粉々だった。
小さなクレーターを作り、その中央からはもくもくと煙が上がっている。
『あの女の人、脱出……しなかったよね?』
ナイナイが戸惑いながら呟く。
マスターコロンが機体から出た様子は無かった。
ジンは機体を起こしながら考えていた。
(脱出装置を外されていたのか。それにあのタイミングでの爆発、まさか……外部からの遠隔操作? 降伏しなかったのは、できなかったから……か?)
設定解説
超個体戦闘員 ジン
海戦大隊親衛隊の一人が、新型の強化兵士として完成を目指した「超個体戦闘員」の試作体。
試験段階能力模索型の一つであり、魔王軍が召喚・入手した異界人の能力のうち、解明がまだ不十分な物を実験・テストするためのタイプ。
各種身体能力が強化され、再生能力や魔法抵抗力も与えられてはいるが、不確かな能力を使わせるための補強であり、戦闘力強化型よりはワンランク劣る。
試作体16体のうち6体がこのタイプに造られており、有用な能力が完成品に採用される予定であった。
ジンは「我々の地球」とほぼ同じ世界から召喚されたが、ケイオスの素質がそこそこある以外は全く見るべき点の無い中年男だったので、ダメで元々の使い捨てに近いこのタイプに選ばれた。
実験された能力は「強化変身する超能力を突然変異的に発揮する可能性のある人類」の物で、右腕はその超能力変身後を再現した物。
本来は極小確率で覚醒する超能力を無理矢理発動させたため、変身機能が損なわれて元に戻らなくなっている。また作成直後は「不完全体」としての再現しかできていなかった(80話で進化、想定以上の段階に達する)。




