82 王都 5
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
最強機体の設計図を届けるべく旅を続け、ついに王都のすぐ側まで来た。
だが王都は敵の襲撃を受けていた――。
「さぁて……やり易くなったからよ」
嘯くジン。巨大な骸骨兵士どもの群れは目の前に迫っている。
「ぶちまかしてくれ!」
『うん、任せて!』
ジンの声にナイナイが応えると、BCパンゴリンから放たれた魔力の結界が敵群を包み込んだ……!
『いきなりMAP兵器!?』
驚愕するマスターコロン。
四対のアンテナから放たれた高周波振動の魔力により、範囲内のシックルスカルはことごとく爆発し、吹き飛んだ。
「さっすがァ! とことん強化してるだけあるね!」
ジンの肩ではしゃぐリリマナ。
満足げに頷くジン。
「取得したスキルもバッチリだな」
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ナイナイ レベル30
BCバイブグンザリ
HP:7000/7000 EN:232/280 装甲:2000 運動:150 照準:205
格 アームドナックル 攻撃4200 射程P1-2
射 ソニックショット 攻撃4200 射程1-5
射 デストロイウェーブ(MAP) 攻撃5000 射程1-5
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MAP兵器・デストロイウェーブは、本来は必要戦意 120、消費EN80の、強力ではあるが使い難い武器であった。
だが改造を進めるうちに能力がより特化・強化され――この世界では『カスタムボーナス』と呼ばれる。これまたジンが昔遊んでいたゲームと同じだ―― 戦意 110、消費EN60に高効率化していた。
さらにジン達は今まで入手したCOCPを費やし、皆が新スキルを取得していたのだ。
闘争心3:戦意+10。グレートエースボーナスと合わせ、ジン達は出撃直後から戦意120を発揮する。
戦意限界突破3:最大戦意+20。ジン達は戦意が170まで上がるようになった。
戦意+ATK:援護攻撃も含め、敵へ攻撃した時に戦意が余分に上がる。
Eセーブ2:武器の消費ENが80%になる。
戦意の高まりは攻撃力・防御力に影響し、一定以上で発動するスキルもある。
これまで敵親衛隊への戦意・スキル対策に四苦八苦してきた事も踏まえ、そこを中心に強化したのだ。
これにより、ナイナイはBCバイブグンザリ最強の武器・MAP兵器を出撃直後から撃てるようになっていたのである。
「回復能力があろうが、ワンパンで吹っ飛ばせば関係ねぇな」
シックルスカルどもの残骸を踏み越えながら呟くジン。残る敵の方へ無造作に進む。
一方、ジンのBCカノンピルバグとは別方向へ、ダインスケンは自機を進めた。その後ろには母艦Cガストニアが続く。
そんな二機へ、MAP兵器の範囲外にいた敵が殺到してきた!
だが挑みかかった魔王軍の機大は次々と破壊され、地に転がる羽目になった。
彼らの放つ攻撃は、刃は、矢は、ジンの機体に半分ほどしか当たらない。
当たった攻撃も装甲で弾き返され、掠り傷しかつけられない。
モニターに表示されるダメージ値がせいぜい二桁で、それもジンの戦意が高まるとともに10――被弾を示すだけの最低値――になるのを見て、リリマナが感心して呟く。
「これじゃ負けようがないよ」
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ジン レベル30
BCカノンピルバグ
HP:9350/9500 EN:256/280 装甲:2800 運動:135 照準:205
射 ハンドビーム 攻撃4200 射程1-5
射 ロングキャノン 攻撃4700 射程2-7
格 ハードメイス 攻撃5200 射程P1
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そしてキャノン砲やメイスの一撃で、敵は容易く粉砕されてゆく。
まさに無人の野を行くがごとしであった。
ダインスケンの方でも、魔王軍は次々と駆逐されていった。
こっちはBCクローリザードに傷さえつかない。攻撃が当たらないのだ。
矢継ぎ早に繰り出される敵の攻撃をことごとく掻い潜り、その爪で敵を斬り裂いてゆく。両断された敵機が無残にも大地に転がった。
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ダインスケン レベル30
BCクローリザード
HP:7500/7500 EN:280/280 装甲:2100 運動:170 照準:205
射 スケイルシュリケン 攻撃4200 射程P1―4
格 ブレードクロー 攻撃4700 射程P1―2
格 スラッシュレザー 攻撃5200 射程P1―1
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敵からの被弾予測値が0%――速度の絶対値が違い過ぎて当たらない――とモニターに表示されるのを見て、Cガストニアのブリッジでクロカが呟く。
「援護防御の出番は当分なさそうだな……」
『な、なんなの、こいつらのこの強さは!?』
雑兵を一方的に蹴散らしながら自分の方へ止まる事なく接近するジン達へ、マスターコロンは戦慄していた。
かつて敗れた相手ではある。だがここまでの強さではなかった筈だ。
「悪いな。全機、限界まで改造済みだからよ。前と同じと思わない事だ」
「いけいけ、どんどん!」
軽く返すジン。その肩ではしゃぐリリマナ。
『そ、そんな!』
操縦席でマスターコロンは必死に首をふった。そうすれば悪夢が覚める、と無意識に思いでもしたのだろうか。
だがジン達は遠慮なく彼女に詰め寄る。
最後のBボウクロウがジン機の頭上から襲い掛かり、ダガーを突き立て……装甲に引っかき傷しかつけられず……反撃のメイスを食らって宙で爆散した。
もはや雌雄は決したかに見えた。
だがヴァルキュリナの声がブリッジから飛ぶ。
『ジン! 敵増援だ!』
平原の向こうから土煙とともに迫る機影の群れ――狼男のようなBダガーハウンド。
性能は低めながら、量産し易さと地上での移動力に優れた機体である。
それを率いる隊長機は先頭を飛んでいた。
鳥頭の翼人機・Sフェザーコカトリスであった。
「マスターウィンドなの? あいつ、生きてたんだ! それにしたって大ケガしてる筈なのにィ!」
「俺ら同様、治療して来たんだろ」
納得いかないリリマナにジンはそう返す。
再会の早さはともかく、生きていた事自体にはジンは驚いていなかった。
(そう簡単にくたばってくれる奴なら、こっちも散々苦労させられてねぇよ)
そんなジンの方へ、フェザーコカトリスは真っすぐ飛んで来た。
設定解説
超個体戦闘員 ナイナイ
海戦大隊親衛隊の一人が、新型の強化兵士として完成を目指した「超個体戦闘員」の試作体。
繁殖能力補強型の一つであり、雄と雌の機能を単体で賄う。
これはある種の魚類や昆虫の能力に着目したもの。
この能力タイプは「超個体戦闘員」を魔物の種として確立させるための物で、完成した暁には改造手術に頼る事なく超個体戦闘員同士で繁殖して数を増やし続ける予定であった。
目指す能力を試験する事を第一目的としたため、戦闘力はさほど増強されておらず、試作体の中でも最底辺に近い。
繁殖能力補強型は試作体16体のうち2体しか造られておらず、ナイナイはその片方である。
もう片方は雌雄同体型で、己のみでの単性生殖の実験も兼ねていた。
ナイナイは文明レベルの低い地球の騎馬民族であったが、それなりに器用な以外に特筆すべき能力は持っていなかった。
ケイオスの素質だけはそこそこあったので、超個体戦闘員の試作体にまわされ、余った枠に入れられる形で繁殖能力補強型に選ばれた。