80 王都 3
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
最強機体の設計図を王都に届けるべく旅を続け、無限の増援を繰り出す敵をも打ち倒した。
ついに王都のすぐ側まで来たものの、幾度も戦った強敵が立ちはだかる――。
田舎村の片隅に、突如として生まれた血みどろの地獄。
屋台の陰で頭を抱えて震える店主以外、村人は全て逃げ去っていた。ゴブオも一緒に逃げてしまってどこにもいない。
その戦いの中、夜空に退避していたリリマナが悲鳴をあげた。
「ジン!」
マスターウインドの鋭く素早い連続蹴りを受け、ジンがほぼ真横に吹っ飛ばされたのだ。
ぶつかったテーブルが派手な音を立てて壊れる。
だが――マスターウインドもまた吹っ飛ばされ、地の上を転がっていた。
身を起こすも、胸を押さえて膝をつく。
そこに入ったジンの一撃が、それだけのダメージを与えたのだ。
「こ、この男……!」
呻き驚くマスターウインド。
以前は優勢だったというのに……この場で互いに与えたダメージは互角だ。
ジンも少々ふらつきながら立ち上がり、改めて身構える。
「まさか、手加減してるだとか様子見だとか今から本気出すだとか……しょっぱい事は言わないな?」
ジンは理解していた。いまだにスピードではマスターウインドに分がある事を。
だから多少防御に隙ができても、敵の攻撃へ捨て身でぶつかっていったのだ。相打ち覚悟で攻撃をぶつけ合わないと、ジンの拳はまともに命中しないと踏んで、だ。
そして――ジンの思惑は大体当たった。
「まぁ言論は自由だから、言うのはあんたの勝手だが」
ジンはマスターウインドへ大股で近づく。
マスターウインドはギリリと歯を食いしばって立ち上がった。
「随分と、腕をあげたものだな……」
その形相にもはや余裕は無い。
一方、ジンは不適な笑みを浮かべた。
「ちょっと前に敵千匹斬りで鍛えましたからよ」
「ええい!」
叫んで跳躍するマスターウィンド。夜空へ、周囲の家屋などより遥か高く跳び上がる!
「はぁっ!」
ジンも跳んだ。敵を追って跳んだ!
天空で激突する両者!
また一匹、魔王軍の兵士が首を刎ねられて倒れた。
もはや半数をきった敵群を前に、ダインスケンが「ケケェーッ!」と吠え声をあげる。
彼自身、無傷では無いのだが――兵士達は見た。その体に刻まれた傷が、新たな鱗と皮に覆われて急速に塞がるのを。
「こ、こいつ、再生能力持ちか!」
有角の鬼戦士が慄いて叫んだ。
ジンとマスターウィンド。空中で交差した二人が着地する。
マスターウインドは……地面に降り立ったものの、また膝をついた。
対峙するジンは……よろめきはしているが、立っている。
互角のダメージをぶつけ合う両者に、徐々に、だがはっきりと、差が生まれつつあったのだ。
荒い息を吐きながら立ち上がるマスターウインドを前に、ジンは言う。
「言論は自由だから勝手に言わせてもらうが……既に俺の勝ちだからよ」
「なにぃ!?」
怒りでジンを睨みつけるマスターウインド。
耐久合戦となれば互いに消耗は避けられない。
だが――ジンにもダインスケンほどでなはいにしろ、再生能力があったのだ。瞬時に傷が塞がったりはしないが、打撃からの回復は本人が思っている以上に早かった。
この能力が、今、二人の形勢を傾けている……!
今まで本人さえ気づいていなかったが……重傷から安物のポーション一つで回復したのも、十数時間の戦闘をこなせたのも、毒への抵抗力も、酒程度のアルコールで酔えないのも、全てこの能力があったからだったのだ。
この能力をようやく自覚したものの、しかしジンが勝利を確信しているのは、むしろ別の理由だ。
「こっちは三人だぞ。俺一人と五分な時点でお前に勝ちは無いだろうが」
そう言ってチラと仲間を横目で見るジン。
魔王軍は最後の兵士がダインスケンと戦っている最中だった。後ろ回し蹴りを受けて吹き飛ばされている兵士の命など、もはや風前の灯火であったが。
(バカな!? 以前のこいつらなら確実に仕留める事ができた筈……!)
避けられない敗北を前に愕然とするマスターウインド。
ジン達と直に手合わせした経験から、必勝を確信した戦力である。それがこうも完全に敗れるとは?
「俺は……こんな所で死ぬわけにはいかん!」
余力を振り絞り、マスターウインドは構えた。
対するジンの右腕が炎を吹いた。
いや……違う。右腕を覆う甲殻に亀裂が走り、そこから紅に輝く粒子が噴き出している。炎のように、霧のように、煙のように。
甲殻が割れた。砕けて落ちた。脱皮した下から出て来た新たな腕は、肩と拳が赤く染まっている。それが紅炎のような粒子を纏っていた。
(こいつは……これまでの経験で、己の力を完全に使えるようになったらしいな)
それがわかってなお、マスターウィンドはジンへと走る。
「舞葬琉拳奥義・死酷鳥飛来!」
両の手刀が刃と化しジンを襲った!
「こちとら難しい名前は思いつかんからよ。バーニングパンチ……で、まぁいいだろう、よっと!」
敵に対し、ジンは真正面から拳を繰り出す!
刃と炎が激突した!
手刀は鎧を裂き、敵の両肩を斬ろうと食い込む。
炎は敵の胴体のど真ん中を打った。
そしてマスターウィンドは吹っ飛んだ。
ほとんど地面に水平に。人間の体が、真横に、どこまでも。
それは後方にあった納屋にぶつかり、壁をブチ破り、反対側から飛び出した。
納屋の裏にあった川へ、水柱を立てて落ちるマスターウィンド。
波紋が広がり――静かになった。
ジンは傷口を押さえ、敵が浮かんでこない事を確認する。
その後ろで、最後の魔王軍兵士が投げナイフを受けて倒れた。
「か、勝った……勝ったじゃん、ジン!」
宙で安堵と喜びにはしゃぐリリマナ。
一方、ジンは傷口を押さえたままじっと黙っている。
ナイナイがジンを見上げた。
「ジン? 何を考えてるの?」
「うん、いや……既にスイデン国内に入っているのに、厄介な奴と連続で遭遇するもんだと思ってな」
前回戦った無限増援の使い手・マスターコルディセプスの事も、ジンは思いだしていたのだ。
(敵の幹部クラスがほいほいうろつけるって、どういう事だ? 抜け道でも造られてるんじゃねぇのか)
実際にどうなのかはわからない。
だが安全圏に入ったというヴァルキュリナの言葉が、完全に覆された事はわかった。ジンの悪い予感が当たった事になる。
店もメチャクチャでもはや食事どころではない。ジン達は艦へと戻る。
だが帰還を報告するためにブリッジへ入るや、ヴァルキュリナが焦りながら大声をあげた。
「すまない、急いで支度してくれ! これより王都へ急行する!」
「あ、ああ。別にいいが……そんなに慌ててどうした?」
戸惑うジン達に叫ぶヴァルキュリナ。
「王都が! 襲撃されているんだ! 魔王軍に!」
最奥の最重要拠点へ、敵の軍が直接乗りこんできたのである。
「はあぁ? マジでこの国の防衛はどうなってんだ!?」
ジンは思わず叫ぶ。
悪い予感が二度も続けて的中した。
魔力値9999無詠唱魔法ドカーン!とか今のファンタジーの主人公がやってるのを見て
「それに劣らぬ強さをワシも主人公に持たせてやらんとな。どうせならもっと直感的に分かり易い物にしたいが、さて……」となり
頑張って考えた。
バーニング弁当ガツガツ!ゴールドよりも光る一瞬を!破壊する!深く息を吸う!




