78 王都 1
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
王都へ向かおうとする彼らだが、先に助けて欲しい街があると告げられた。
そこでジン達を襲う、敵親衛隊の無限増援。だが長時間の激戦の末、ついにそれを撃破した――。
シャミルの街の戦いから数日。
戦艦Cガストニアは延々と続く山間の谷間を通り過ぎようとしていた。
哨戒から戻り、ジンはブリッジに上がる。
「異常無しだ。この谷を越えれば王都か」
操艦を指示しながら頷くヴァルキュリナ。
「ああ。流石にここの先には魔王軍も入りこめない筈だ。ようやく安心できる所まで辿り着いた」
それを聞き、ジンの脳裏を不吉な物が掠めた。
(……今の一言で嫌な展開になりそうな予感だが……まさか、な)
夕方、谷を抜ける手前の小さな村の側で、艦は停まった。今日はここで夜を明かし、明日、早くに王都へ着くという。
ジン達三人とゴブオ、リリマナは夕食をとるため、村へ出かける事にした。
艦の食堂は日替わりでメニューが変わるとはいえ、毎週同じ献立を繰り返す。全員、食にはうるさくない方だが、やはりたまには気分を変えたい。
村にある食堂は野外テーブルへ酒と軽食を提供する、屋台みたいな酒場だけだった。その酒と軽食も一種類ずつしかない。
村人が一仕事終えてから立ち寄る「呑み屋」であり、あちこちのテーブルには農夫達が数人ずつ固まっていた。
(魔法かロボットが関わらない分野の文明レベルは地球の中世だか近世だか程度か。ファンタジー世界の基本かもしれんが……)
そう考えつつテーブルの一つについて、とりあえず食事を注文するジン。
なんだかんだで久々に外での食事なのだ。それだけでも機嫌は上向きになるというもの。
ゴブリンやリザードマンがいるからだろう、農夫達は奇異の目を向けてきてはいる。だが面と向かって何か言っては来なかった。
ほどなく、警戒も露な肥えた親父によって運ばれてきたのは、蜂蜜色の酒と赤茶色のスープ、そしてパン。スープはペーストに近く、いろいろ具が入っているようだが――
「さぁ、食べよう!」
リリマナが嬉しそうにリンゴの切り身を齧る。彼女だけは別に果物を一皿頼んでいた。
「うん、美味しいよ!」
スープを口に運んで喜ぶナイナイ。
実のところ、艦で出る日替わり料理の方が一段上という食事なのだが……旅先で変わった物を食べる、というのは実際以上に美味く感じさせるものだ。
「どれどれ……」
ジンも食事に手を伸ばす。
まず酒に口をつけてみた。
(……梅酒だ、これ!)
本当に梅なのかどうかはわからない。だがジン程度の舌では、味も喉越しもそうとしか思えなかった。
次にスープを試す。
(カレー!? トマト入ってるカレー?)
ジンの表現できる範疇だと、そういう味である。肉は鶏としか思えない。他の具もジャガイモとタマネギだ――それらがこの世界で何と呼ばれているのか、本当はどんな動植物なのかは知らないが。
そしてパンはと言えば。
(……ナンというか、餅っぽいというか)
予想していたような食感とは全く違い、とまどいを覚えずにはいられなかった。
だがナイナイは機嫌よく食べている。
ダインスケンは普段と変わる事なくもりもり食っている。
ゴブオもいつも通り、ベチャベチャと行儀悪く食べていた。
「今日は星が綺麗ねェ」
空を見上げながらさくらんぼを齧るリリマナ。天が暗さを増すとともに、頭上には数えきれない星がちりばめたように瞬く。
「ま、こういうのも悪くはねぇか」
言いながらジンは酒のカップを手にした。既に何杯か呑んではいるが、やはり酔いはほとんど回らない。
そしてその一杯を呑んでいる途中で、カップをテーブルへ置いた。
ダインスケンも食事が終わっていないというのに、スプーンをテーブルに置く。
「こっちの都合も少しは気にしてほしいもんだがな」
面倒そうに呟くジン。
ナイナイとリリマナはそんな二人の態度に戸惑う。
「アニキ? なんかあーりやした?」
ゴブオは酒のカップを手に、呂律の怪しくなっている口で訊いた。
「奇襲は失敗か。貴様らに通用する事を期待してはいなかったが」
そう言って、近くの林の陰から姿を現す集団があった。その先頭にいる男は……
「ま、マスターウインド……!?」
ゴブオが目を剥いて呻いた。
「ここまでどうやって入り込んだんだ」
肩越しに訊くジンに、マスターウインドは不敵な笑みを浮かべた。
「時間と手間をかけて、ゆっくりとな。もしお前達が先を急いでいたら、こうして会う事もなかったかもしれないが」
はあ、とため息をつくジン。
「やれやれ……ターン数が関わる分岐でも仕込まれていたのかよ」
マスターウインドは険しい顔で言う。
「これが最後のチャンスだ。魔王軍に来い」
「断るからよ」
即答するジン。
マスターウインドの後ろにいた者達がいっせいにマントを脱ぐ。ダークエルフやスケルトンソルジャーといった、人間と同体格の、だが中級にランクする魔物達だった。
魔物の群れに出現に、農夫達が悲鳴をあげて逃げ出す。
そしてマスターウインドは――片手をあげて魔物達を止め、言葉を続けた。
「前にも言ったが、お前達の体を戻せるのは魔王軍だけだ」
「そんなの、わかんないじゃない!」
ジンの肩で憤慨するリリマナ。
だがマスターウインドは首を横にふった。
「魔王軍親衛隊に、新たな強化兵士を造ろうとした者がいてな。魔物を含む幾多の生物の細胞を用いて新種を合成した。用いられた細胞には……魔王軍が召喚した聖勇士のうち、能力的に劣る個体の物もあった。そうした試作体を16体造り、それらからデータを集め、新型強化兵士を完成させるつもりだったそうだ」
それが行われた場こそが、ジン達が眠っていた砦だったのだ。
昔のアニメを見ていると、宇宙旅行している奴らがレコードやラジカセで音楽聞いていたりする。
そういうのを見ているとSFが廃れる理由もわからなくもなし。
まぁ宇宙旅行時代のレコードやラジカセが、我々が80年代に使っていた物と同じだというわけでもないのかもしれんが。
見た目がたまたまレコードに似ているだけで現代のスマホの音楽機能を遥かに凌駕するスーパーテクノロジー円盤なのかもしれん。100万光年離れた局からの音楽を自動ダウンロードして収録できるとかな。
宇宙旅行時代になって現物を前にしないと真実はわからんのだ。




