77 魔城 9
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
王都へ向かおうとする彼らだが、先に助けて欲しい街があると告げられた。
そこでジン達を襲う、敵親衛隊の無限増援。だが長時間の激戦の末、ついにそれを撃破した――。
最も巨大な大陸に、険しい山々が連なる壁で文明圏から隔絶された地がある。
一年中吹雪が吹き荒れ、それが止んだ時だけ白銀に輝く美しくも生の無き死の幻想世界が姿を現す大地が。
雪と氷と暗雲が覆う、標高四千メートルを超えた、平地としてはこの世界でも最高度となる、誰も顧みない僻地の中の僻地。
そこに巨大な城塞があった。
禍々しく、ねじくれ、悪意と邪悪で塗り固められた、途方もなく巨大な城塞が。
この世界にある国家全ての敵である魔王軍……その首領が住まう城が。
石柱が立ち並ぶ、暗く巨大な、神殿のごとき部屋。
そこに四つの人影があった。
そのうち三つはフード付きのローブを身に纏い、顔かたちは全くわからない。背と体格は全く同じに見える。
その三つの側で柱にもたれ、不敵な笑みを浮かべているのは……口髭をたくわえターバンを巻いた浅黒い肌の精悍な男。曲刀を腰にさげ、アラビア風の鎧を纏った戦士。
海戦大隊長ジェネラル・アルタルフだった。
黄色いフードローブが大声で笑う。
「自信をもって送り出した部下が通じなかったのはお前も同じか!」
それを言われたのは青いフードローブだが……彼は黙ったままだ。
それに気を良くしたのか、黄色いフードローブはわざとらしく言う。
「うむ、しかし安心しろ。俺にも自信をもって推薦できる部下はいる。見ているがいい!」
しかし、低い笑い声が響いた。
馬鹿にしたような、ふざけたような忍び笑いが。
黄色いフードローブが振り向く。
笑っていたのは、ジェネラル・アルタルフだった。
「何がおかしい!」
怒鳴る黄色いフードローブ。
柱にもたれて腕組みを解き、芝居がかったしぐさでジェネラル・アルタルフは肩を竦める。
「見ていても仕方が無い。陸戦大隊の出番は無いのだからな」
黄色いフードローブは――声を荒げるような真似はしなかった。
ただ、押し殺した低い声で訊く。
「……どういう事だ……」
返答次第では血の雨がふるだろう。
それだけの怒りと殺意が容易に感じ取れる声だ。
だがジェネラル・アルタルフはせせら笑うのをやめない。
「黄金級機設計図は、もうスイデンの首都に入る。今から手下を差し向けても遅かろうよ」
黄色いフードローブは「ぬう……」と呻いた。
「そうか。そういう意味か。だがな、遅くなど何も無い」
その声に力が籠る。
「奴らの都へ殴り込みだ……この機会に叩き潰し、殺し尽くす!」
「良い案だ。だができまい」
そう言ったのは、赤いフードローブ。
「なんだと……!」
再び怒りを声に籠める、黄色いフードローブ。
それに赤いフードローブは言い放つ。
「お前は間に合わない」
「何が言いたい。だから首都へ殴り込んでやるのだ!」
黄色いフードローブが怒鳴った。
「間に合わない、とは意味がわからんな。破れたりとはいえ、マスターコルディセプスはかなりの時間を稼いだが……」
そう言ったのは青いフードローブ。
赤いフードローブが言った。
「私の部下が既に動いている。稼いだ時間を使って、奴ら試作体どもを絡めとり、二段構えの攻撃で仕留めるべくよう指示しておいた」
ジェネラル・アルタルフが「ほう?」と呟く。
「手回しの良い事だ。準備していたのだな。魔怪大隊が破れるより前に」
「そうだ」
赤いフードローブが頷く。
黄色いフードローブが苛だちの籠る声で唸った。
「次の親衛隊は前よりマシなのだろうな? まぁ俺は信用する気など無い。今から勝手に準備させてもらおう」
言われた赤いフードローブは……なんと首を横に振る。
「マシも何も、前しくじった者にもう一度やらせる」
「阿呆か!」
「意味がなかろう」
「これは冗談がきつい!」
黄色いフードローブが怒鳴り、青いフードローブが呆れ、ジェネラル・アルタルフは愉快そうに笑う。
だが赤いフードローブは、態度も声の調子も変えない。
「失敗したからこそ死に物狂いになる。後が無い者の足掻きだ」
それ聞き、他の三人はじっと彼を見た。
ジェネラル・アルタルフが窺いながら訊く。
「それで? 通じなければ?」
「死ぬだけだ」
赤いフードローブの答えは、素っ気ないものだった。
その時、青いフードローブが他の三人へ言った。
「静まれ。いや……控えろ」
その場の皆がそこで会話を止めた。
青いローブに従ったのではない。気配を感じたからだ。
闇に閉ざされた部屋の奥からの、強烈な、強大な……。
そこから乾いた足音が響く。
四人は黙って待っていた。
足音の主が姿を見せた時、四人はいっせいに膝をつく。
「「「「暗黒大僧正!」」」」
四人は足音の主、彼らの主の名を口にした。
その者――闇黒大僧正は純白のローブを、神殿の高位僧のような衣を纏っていた。青く美しいマントを羽織って。
そしてその背には翼がある。金色を僅かに帯びた、白い鳥の翼が。
その頭には後光がさしている。光の輪が豊かな金髪の後ろに輝いているのだ。
まるで天使……天上から降りた聖なる使徒である。
だがそれでいて、顔はわからない。闇と影に隠れて見えないのだ。光と輝きに満ちた存在でありながら。
他の四人と異なるのは……その周囲の空間が、歪んで見えること。
陽炎のように……波打つように……あるいは色彩が滲んで混ざり合うかのように。
それはその者の放つなんらかの「気」による迫力かもしれないし、本当に空間に干渉する魔力が漏れ出ているのかもしれない。
ただ、他の者とは根本的に何かが違う。
それだけは確かだった。
人類の生息圏から遠く離れた、この時代の邪悪の中枢。
吹雪が吹きつける城塞の、その中の奥で。
ジン達の旅にさらなる脅威が立ちはだかろうとしていた。
考えはしたがボツにした案は当然ある。
無限増援潰しに続く、次のあるあるネタは……NPCに機体を買い取ってもらったら有能機体を持って行かれた話にしよう!とか。
主人公部隊は予備の機体が全く無い貧乏チームなので上手いやり方が思いつかなかった。
あと全然「あるある」じゃなかった。30年のシリーズでもそんなん1回しかねーよというか……。




