73 無限 5
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
王都へ向かおうとする彼らだが、先に助けて欲しい街があると告げられた。
街は既に諦めの境地。ついたジン達を敵親衛隊の無限増援が襲う――。
今日何度目かの、バイブグンザリのMAP兵器が蟻どもを包み込んだ。
『抗うか。だが無駄なこと』
マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!
『ジン。領主が食事の支度をしようと申し出てきたが……』
か細い声で告げるヴァルキュリナ。
「全部おにぎりとサンドイッチにして、、水は水筒に入れてもらってくれ。全員持ち場で食べながら戦闘。俺含む聖勇士は修理・補給のために艦へ戻った際に操縦席へ持ち込んで、出撃してから隙を見て一個ずつ食おうや」
てきぱきと指示を出すジン。
『アニキ! 手の感覚がもう無いッス!』
悲鳴をあげるゴブオ。
「足で敵を撃て。がんばれ、お前ならできる。俺は信じているからよ」
励ますジン。心温まるやりとりの中、次の増援はそこまで迫っていた。
ジン機の撃ったロングキャノンが最後の蟻を吹き飛ばした。
『抗うか。だが無駄なこと』
マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!
「チッ……タラコ入りは一つも無しか。だがこの白い切り身は美味えな」
敵が離れている間におにぎりを頬張るジン。タラコとは言ったが、この世界に本当にスケトウダラの魚卵を塩漬けにした食品が有るのかどうかは知らない。
肩の上ではリリマナがチーズの切れ端を齧っている。
『アニキ……俺、漏れそうッス』
食事中に相応しくない相談がゴブオから飛んできた。
だが出物腫物ところかまわず。ジンは嫌な顔一つせずに親身になって対応する。
「そこで出してろ。小だか大だか知らんが、どうせ戦闘中の装甲が奇麗なわけもねぇ。垂れ流したところで浴びるのは死んでいく蟻だけだからよ」
開放型の操縦席ゆえの利点を活かしたナイスアドバイス。
次の増援はそこまで迫っていた。
それから何度、蟻の群れを全滅させただろうか。
戦艦のファイヤーブレスが最後の蟻を焼き払った。
『抗うか。だが無駄なこと』
マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!
『アニキ……疲れた。眠いッス』
弱音を吐くゴブオ。
「昼を過ぎたぐらいで何を言ってる。ああ……お前は昼寝が日課だったな。まぁ寝ながら引き金をひけ」
「ムリだよォ、そんなの」
ジンの指示を批難するリリマナ。
しかしモニターで見ていると、ゴブオは焦点のあって無い目で鼻提灯を膨らませながら、蟻の頭へと散発的な射撃を繰り返している。だらしなく開いた口から汚い涎が戦艦の甲板に垂れ落ちていた。
「大体できてるじゃねぇか。別に100点は求めねぇからアレで良しとするからよ」
言って手近な蟻にビームを撃つジン。
それから何度、蟻の群れを全滅させただろうか。
BCカノンピルバグのメイスで、最後の蟻が叩き潰される。
『抗うか。だが無駄なこと』
マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!
『くっそ……いくら良コスパの魔物を召喚してるといってもMPありすぎだろ……』
苛々と呟くクロカ。
ふとジンは思い至った。
「MP消費を0にする手段はこの世界に無いのか? 消費軽減のスキルだとか、特定の魔法を無限に使えるマジックアイテムとかでよ」
一瞬は静かになった。だが次にクロカは大声を張り上げる。
『……え!? あ、有るけど! 確かにあるな。ま、まさか……マスターコルディセプスの奴は……』
『ほ、本当に消費無しで召喚しているかもしれないのか!』
慄くヴァルキュリナ。
『ねぇジン、どういう事?』
ナイナイには理解できなかったようで、ジンに訊いてくる。
「マジで無限召喚ができるのかもな、て話だ」
答えながらもジンには気づいた事があった。
(そうだとしても……無限召喚ではあるが、無制限召喚では無さそうだ)
それから何度、蟻の群れを全滅させただろうか。
昼過ぎの最も暑い日差しが弱まり出した中、クローリザードの爪で最後の蟻が斬り裂かれる。
『抗うか。だが無駄なこと』
マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!
「ああもう、なんか足の踏み場が無くなってきてる!」
文句を言うリリマナ。
一面に転がる蟻の屍。ジンの機体がそれに足を取られて激しく揺れ、肩の上の彼女が落っこちそうになったのだ。
「我慢しな。スライムだけ何百年も倒してレベルアップだとか、日が暮れるまでの正拳突きを日課にするだとか、世間様には頭が下がる御仁もいるからよ。邁進の道に近道は無ぇんだ」
言いながら砲撃だけは止めないジン。
「もゥ、そんなに修行が好きなら滝にでも打たれちゃえ! 私はお湯を浴びて寝たぁい!」
足をじたばたさせるリリマナ。もちろんそんな事を喚いても戦闘が中断されたりはしないのだ。
それから何度、蟻の群れを全滅させただろうか。
陽が傾き風に涼しさが混じり出した頃、BCクローリザードのブレードクローが最後の蟻を血祭にあげた。
『抗うか。だが無駄なこと』
マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!
『ジン! ブリッジクルーの半数がダウン寸前だ! クロカもだ!』
ヴァルキュリナの切羽詰まった声。
「回復魔法でなんとかなるだろ」
ジンからのアドバイス。
『誰もが使える物じゃない! 私含め、使える者はみな使ってる! そして私も……いや、まだもう少しは……』
後半の声は今にも途切れそうだ。責任感がなんとかヴァルキュリナを立たせているのだ。
「じゃあ10分ほどダウンさせて寝させるか。その間は起きてる奴らが倍頑張って、10分後には寝てた奴らが倍頑張るという事で」
ジンの冷静な提案。
ヴァルキュリナからの返事は無かった。
ただ微かに寝息が通信機から聞こえるのみ。
『ジン、あれで戦艦は大丈夫なの?』
心配で訊いてくるナイナイ。
ジンはCガストニアを見上げた。まだ動いてはいる。
「大丈夫だろ多分。まぁこのぐらいで翼が折れてたらマイスターへの道は遠いからよ」
それから何度、蟻の群れを全滅させただろうか。
空の端に茜色が見える中、BCバイブグンザリのソニックショットが最後の蟻を吹き飛ばした。
『抗うか。だが無駄なこと』
マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!
『あ……ジン、おはよう! 戦況はどうなっている!?』
大慌てでヴァルキュリナが訊いてきた。
「おはようさん。長い10分だったな。倍頑張ってたクルーはまだ生きてるか?」
『え……あ……自主的に交代が繰り返されていたようだ。顔ぶれが一変している……』
ジンの問いに、混乱しながら答えるヴァルキュリナ。
「なかなか優秀なクルー達だ。俺らの先行きも明るいからよ」
満足するジンの肩でリリマナがへばった声をあげる。
「なんでジンはまだ平気なのォ? ナイナイもダインスケンも」
『僕はもうヘトヘトだけど……』
ナイナイの声は確かに疲労の色が濃い。ダインスケンは『ゲッゲー』といつも通り鳴いていたが。
それから何度、蟻の群れを全滅させただろうか。
空に星が瞬き始めた頃――クロカが叫んだ。
「敵が無限にいて絶対に勝てない」という場面は昔からいくらでも作られてからきただろう。
人類文明崩壊してる級のゾンビ映画なんかもまあそれだな。
ある程度増えすぎたら食べる人間が足りなくなると思うが、あいつらはその後なにを食って生き延びるのか。
イワシ漁にでも精を出すのか。




