72 無限 4
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
王都へ向かおうとする彼らだが、先に助けて欲しい街があると告げられた。
街は既に諦めの境地。ついたジン達を次の敵親衛隊が襲う――。
『ケケェーッ!』
ダインスケンのBCクローリザードが最後の蟻を裂く。
敵の増援はまたもや全滅した。
『抗うか。だが無駄なこと』
マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!
迫る蟻を破れた防壁の間から覗き見るジン。
「無限増援で押し潰す戦法だぞ、こいつは!」
『くっ……危険だが、敵の群れに飛び込んで術者を倒すしかないのか……』
そう言いつつも、ヴァルキュリナの声には躊躇いがあった。
その戦い方だと廃墟を盾にはできない。敵をかきわけるため、無駄と知りつつ蟻どもを倒しながら前進し、敵親衛隊の目の前で四方から叩かれながらの戦闘を強いられる。
それこそ敵の狙いであり、思う壺だとわかっていたからだ。
だがこの状況でそれ以外の選択肢は――
――ジンが口にした。
「いや、ここに立て籠もって迎え撃とう」
通信機から『えっ!?』と漏れたのはクロカの声だ。
『相手のMP切れを狙うわけか。いつまでかかる事やら』
だが一瞬の迷いの後、ヴァルキュリナは決断する。
『いや、この場所で迎え撃つ方が有利に戦えるのも確かだ。今しばらく、敵の増援にあえて付き合ってみよう』
話がまとまった時、次の増援は街の目の前だった。
ジンは独り、小さく呟く。
「無限増援か。なら……皆には悪いがこれは利用するしかねぇ」
小首を傾げるリリマナ。
「ジン? なんか言った?」
肩にいる彼女にさえ、聞き取れない呟きだったのだ。
BCカノンピルバグのメイスで、最後の蟻が叩き潰される。
『抗うか。だが無駄なこと』
マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!
『いくらでも出るよ……』
不安いっぱいのナイナイ。うんざりした声のクロカ。
『敵が魔力で召喚してるのは増援のうちの一匹だけだろうからね。他は仲間についてきた連中さ』
『最小限の消費で最大限の数を出せるからこその戦法か……』
ヴァルキュリナが焦りながら言う。
そんな自軍にジンは指示を出した。
「修理装置と補給装置はフル回転させるからよ。そのつもりでな」
「え? まだここに立て籠もるのォ?」
リリマナが驚いている間にも、次の増援はそこまで迫っていた。
Cガストニアの前足が最後の蟻を叩き潰す。
『抗うか。だが無駄なこと』
マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!
『なあ、ジン……その、いつまで敵の増援と戦う気なんだ?』
戸惑いながら訊くヴァルキュリナ。
逆にジンが訊き返す。
「ヴァルキュリナ。お前さんはエースボーナスを獲得したか?」
『いや。ジン達に比べて撃墜数は少なめだから……』
だいたい予想していた事である。だからジンは答えた。
「ならまだまだだな」
「ジ、ジン!?」
リリマナが驚いている間にも、次の増援はそこまで迫っていた。
今日何度目かの、バイブグンザリのMAP兵器が蟻どもを包み込んだ。
『抗うか。だが無駄なこと』
マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!
『ジン! 僕のステータスになんか変なのが出てる』
ナイナイに言われ、ジンはステータス画面を確認する。
「おお! グレートエースボーナス! よしよし、それもあったのか」
昔プレイしていたゲームと同じ用語が出て喜ぶジン。後で特典を確認せねばならない。
しかし今は戦闘中なので、ジンは敵を迎え撃つべくキャノン砲を構え直した。
『ジン?』
「俺ももうちょいでエースボーナスだからよ」
戸惑うナイナイに応えるジン。次の増援はそこまで迫っていた。
カノンピルバグのハンドビームが最後の蟻を撃ち抜く。
『抗うか。だが無駄なこと』
マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!
「やったぞ! ダインスケン、お前はどうだ?」
『ゲッゲー』
叫ぶジンに鳴くダインスケン。二人のステータス画面にはエースボーナスがある事を示すアイコンが表示されていた。
その内容は――
>
ジン
エースボーナス:援護攻撃・合体攻撃のダメージ+20%、援護防御時のダメージ-20%
>
ダインスケン
エースボーナス:援護攻撃・合体攻撃のダメージ+20%、援護防御時のダメージ-20%
>
「どういう事だ? 俺ら三人、エースボーナスが全く同じだと!?」
驚愕するジン。
昔プレイしていたゲームでは、名無し一般兵でもなければ同じエースボーナスが並ぶ事など無かったが……。
(この世界では違うのか?)
似た点が多くて感覚が麻痺していたのかと己を疑う。
考えて見れば、ここインタセクシルは無数にある異世界の一つなのだ。共通点の多い他世界もあるだろう。だが全く同じなわけもない。
そんなジンの肩でリリマナが疲れた声を出した。
「みんなエースになった? ならもうあの魔物使いを倒そうよゥ!」
だが無情にもジンは却下する。
「いや、ヴァルキュリナがまだだ」
『なぁジン、目的が少しおかしくなっていないか……?』
当のヴァルキュリナの声も疲労の色が濃かったが、次の増援はそこまで迫っていた。
『くたばれよ! くたばれってばよぉ!』
悲痛な叫びをあげるゴブオの騎獣砲撃が、弱った最後の蟻にとどめを刺した。
『抗うか。だが無駄なこと』
マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!
『ジン、私もエースボーナスが出たぞ……』
『撃ったのはオレなんですがねぇ……』
疲れたヴァルキュリナの声に、同じぐらい疲れたゴブオの声が重なる。
ジンは急いでヴァルキュリナのステータス画面を確認した。
>
ヴァルキュリナ
エースボーナス:スピリットコマンド【ブレス】が【ホープ】になる
【ホープ】味方一機に有効。HP50%回復、状態異常を解除。次に倒した敵からの獲得資金と経験値が200%になる。
>
「なにぃ!? 凄いぞヴァルキュリナ、俺が女でレズなら惚れるところだ!」
『あ? うん? 喜んで貰えているなら光栄だが……』
『ジンはすぐ変な事言う』
大喜びのジン。反応に困るヴァルキュリナ。むすっとした声で呟くナイナイ。
『全員エースとはたいした部隊になったもんだ。満足したか?』
クロカのだるそうな声。だがジンは――
「グレートエースボーナスがまだだからよ」
次の増援はそこまで迫っていた。
クローリザードのスケイルシュリケンが最後の蟻に突き刺さった。
『抗うか。だが無駄なこと』
マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!
『ゲッゲー』
「おう、俺もようやくグレートエースだぜ!」
鳴くダインスケンに喜び応えるジン。
『アニキ、そろそろ決着つける時じゃねッスか? そッスよね? そうですよねェ!?』
ゴブオが疲れた声で訴える。
一瞬考えるジン。
「いや……ヴァルキュリナ、そっちはまだグレートエースじゃないな?」
もごもごと口籠ってから返事が来る。
『……確かにまだだが……ジン、その……クルーもだいぶ疲弊していて……』
「よし、もう一踏ん張りだからよ」
即答するジン。次の増援はそこまで迫っていた。
『あぁ! おぉ! うぅ!』
なんかギリギリな叫びをあげるゴブオの騎獣砲撃が、弱った最後の蟻にとどめを刺した。
『抗うか。だが無駄なこと』
マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!
『ジン、グレートエースだ……』
『アニキ……腕が痺れて感覚がねぇッス』
声を絞り出すヴァルキュリナとゴブオ。
「おう、お疲れ。よくやってくれた。お前らはそこらの連中とは違うと俺は信じていたぞ」
いけしゃあしゃあと労うジン。
『これで万全だね!』
ナイナイの声には安堵があった。
しかしジンは――
「ところでクロカ。俺らの機体三機と戦艦を10段階目までフル改造するとして、資金は足りるか?」
奇妙な沈黙がジン達の間に満ちた。
やがて物凄く嫌そうに、クロカから返事が来る。
『……10段階改造には一機90万~100万の資金が必要なんだぞ。今4段階目まで改造してるけど、差額は76万以上だ。それが4機ぶんだぞ? 量産型ケイオス・ウォリアーや巨大モンスターを1機倒しても2000から4000程度だぞ……』
操縦席で頷くジン。
「つまりまだなんだな? なら決まった」
『その決まりは聞きたくねぇ!』
クロカが叫ぶ。
次の増援はそこまで迫っていた。
最近は資金を稼ぎやすくなったし、周回持ち越しができるので全滅プレイをわざわざやる必要も無くなった。
昔は攻略本にさえ「ここで幸運サイフラッシュを撃ってから戦艦をバスターランチャーで吹っ飛ばせ」とか書いてあったもんだが。
ノーセーブで半日同じ面を繰り返していたとか、今の若者が聞いたら古代の宗教儀式のように感じもするだろう。




