69 無限 1
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
魔王軍の将軍からの攻撃を辛くも生き延び、ヴァルキュリナを襲撃した親衛隊も退けたジン達。
王都へ向かおうとする彼らだが、次に向かって欲しい地があると告げられた――。
ディーンからの頼みで、Cガストニアは山中へわけ行っていた。王都へは地図上に弧を描くようなルートで遠回りする事になる。
向かう山中に目指す街がある――魔王軍に攻められ、危機に瀕している街が。
日課のトレーニングを終えたジン達は格納庫へ入る。自分達の機体をチェックしようと近づくと、その前に整備を終えたクロカが側に来た。
「とりあえず4段階目までは改造しといたよ」
「ありがとさん。限界の半分近くまでは強化できたか」
礼を言いながら、ジンは自機を眺め、ついでに訊ねる。
「それで、デバフ無効のあのアーマーだが。あと二個、いつできそうだ? 素材……COCPとかいうのは足りてるか?」
クロカは渋い顔を見せた。
「あれ、量産するのは無理なんだが」
強力なアイテムを作成する場合、特殊な素材が必要になる事や特殊な条件下でないと造れない事がある。
あらゆる特殊効果を無効……などという強力な装備は、そうそう数を増やせる物ではないのだ。
(となれば、あのマスターウインドがまた襲ってきた場合、装備した一機以外は攻撃を喰らわないように立ち回る必要があるな……)
考えるジン……それが難しい事はわかっているが。
「みな、今のステータスを再確認しよう。今後の作戦に関わるからよ」
仲間達にそう言って、ジンはクロカに頼み、現在のステータスを彼女手持ちの魔法板に表示してもらった。
>
ジン=ライガ
レベル22
格闘190 射撃188 技量209 防御173 回避115 命中135 SP104
ケイオス4 底力7 援護攻撃1 援護防御1 H&A
【スカウト】【ウィークン】【ヒット】【プロテクション】
【スカウト】まだ交戦していない敵のデータを参照できるようにする。
【ウィークン】敵1体の戦意を10低下させる。
【プロテクション】短時間の間、被ダメージを75%軽減する。
【ヒット】次の攻撃を確実に命中させる。
>
「攻防に使えるコマンドがやっと揃ったか……異世界スローライフならちょいとした流行りだが、スローペースってのは望まれてない筈なんだがよ」
ため息混じりのジン。
異世界で勇者をやるべく選ばれた者なら、そこら辺は最初から完全以上にできて当然だと思っていたが――
(やっぱ俺はこの世界の救世主なんぞじゃないらしいな)
なる気があったかどうかはともかく、なれないというのは面白い物ではない。
>
ナイナイ=テインテイン
レベル23
格闘180 射撃192 技量208 防御155 回避137 命中140 SP106
ケイオス4 底力5 援護攻撃1 援護防御1
スピリットコマンド【フォーチュン】【トラスト】【コンセントレーション】【フレア】
【フォーチュン】次に倒した敵からの獲得資金が200%になる。
【トラスト】味方1体のHPを2000回復。
【コンセントレーション】短時間、命中率・回避率が30%増加する。
【フレア】一度だけ敵の攻撃を確実に回避する。
>
「いいのか悪いのか、僕、よくわからないなぁ」
数値化された自分の能力を見つつ、首を貸しげるナイナイ。
だがジンが力強く言い放つ。
「安心しろ、ナイナイが一番優秀だ」
「え? ほんとに?」
ぱあっと顔を輝かせるナイナイに、ジンは笑顔で頷いて見せた。
「ああ。二十年以上の保証があるから信じろ」
資金倍増コマンドを習得し、一流半以上と言える能力を有するならば、能力は超一流でも戦闘しかできないキャラクターを蹴落として一軍の座を得る。
ましてやその一流半がカワイイ美少女キャラならもはや不動。これはジンが昔プレイしていたSRPGシリーズから学んだ完全なる事実である。
悪いなKUワトロさんよ、あんたの席主力枠にねーから。ぷるぷる。
まぁナイナイが美少女かというと少しややこしい話にはなるが……。
もちろんナイナイはジンの根拠なぞ知るわけもない。
「……? まぁ信じるけど……」
とはいえ戸惑いながらもそう言うぐらいには、ナイナイはジンの事を信頼していた。
>
ダインスケン
レベル22
格闘192 射撃175 技量208 防御155 回避136 命中132 SP104
ケイオス4 底力6 援護攻撃1 援護防御1
スピリットコマンド【ヒット】【フレア】【アクセル】【ダイレクトヒット】
【ヒット】次の攻撃を確実に命中させる。
【フレア】一度だけ敵の攻撃を確実に回避する。
【アクセル】短時間、自機の移動力を増加する。
【ダイレクトヒット】次の攻撃に、敵の防御スキル・バリアを無効化する能力を与える。
>
「相変わらず戦闘力ではお前がトップなのな……」
ダインスケンのステータスをジンが横目で眺めながらそう言うが、当の本人は「ゲッゲー」と鳴くだけだ。
「レベルが上がってみんなケイオスレベル4、スピリットコマンドも4つか。だいたい足並み揃えて腕前が上がってるな、俺ら」
各人のステータス画面を眺めてから呟くジン。
「そしてナイナイもダインスケンも、特にヤバい攻撃には100%の回避ができる、と。よしよし。しかし……俺だけが良くねぇな」
そう言って顔をしかめる。
ジンにも防御系コマンド【プロテクション】はあるが、これは持続が長い代わりに消費が大きい。ナイナイ・ダインスケンともに【フレア】を一度使うとSPを15消費するが、ジンは【プロテクション】一度で30消費する。
また受けるダメージが25%まで落ちるものの、0にできるわけではない。瀕死の時ならやられる可能性も少しはある。
強敵を相手にする場合の防御面において他の二人より一歩劣っている――ジンはそう感じていた。
だがそこにリリマナが口を挟む。
「ねぇねぇ、だったら私が新しく覚えたコマンドがあるよォ!」
リリマナが言うと、クロカがそのステータスを板に映した。
>
リリマナ レベル22
SP76 スピリットコマンド【サーチ】【ガッツ】【ウィークン】【フォーティテュード】
【サーチ】隠された物のあるMAP上のポイントを発見する。
【ガッツ】自機のHPを最大値の30%回復する。
【ウィークン】敵1体の戦意を10低下させる。
【フォーティテュード】次に被弾した攻撃のダメージを87.5%軽減する。
>
最後のコマンドを見て目を丸くするジン。
「一発だけダメージ1/8に抑える……これがあるのか」
「今のピルバグの装甲でこれなら、どんな攻撃にも耐えられるよ!」
自信満々で言うリリマナ。
「確かに……な」
納得するジン。
これでBCカノンピルバグが耐えられない相手なら、どの道勝ち目など無いだろう。
安堵するジンをナイナイがつつく。
「ねぇジン。僕のステータスに変な事が表示されてたんだけど……」
「そうだっけ?」
言いながらクロカがナイナイのステータスを映した。
その一部をナイナイが指さす。そこには――
>
エースボーナス:援護攻撃・合体攻撃のダメージ+20%、援護防御時のダメージ-20%
>
「そうか! お前だけは撃墜数が60機を超えたもんな」
納得するジン。
戦闘の度にMAP兵器を撃つナイナイは、ジンやダインスケンより遥かに撃墜数を上げていたのだ。
多くの敵と戦ううちに、当然、戦闘のコツを飲み込んでいく事になる。
強敵との闘いは密度の濃い経験となり、一度で飛躍的に技術を向上させうるが、多くの敵を相手にした場数はまた違う角度から腕前を鍛えるのだ。
それをこの世界の魔法で視認できるよう表現したのが『エースボーナス』である。
個人個人によって得意な戦い方は違うので、この能力は膨大な種類があり、数十人の人員を抱える部隊でもほとんど重複する事は無い。各人の個性が最も出る能力の一つなのだ。
ナイナイのエースボーナスを目の当たりにし、ジンは浮かれて呟いた。
「いいぞ。なんだか上り調子だぜ」
実際、ジン達の戦い方には非常に適した能力である。
喜んで貰えて嬉しいのだろう、ナイナイもにこにこと微笑みを浮かべた。
「そうなの? なら次の街が襲われても、今の僕達ならきっと守れるよね」
「シシシ……その言葉は悪いフラグかもよ。それに私らが立ち去ってから襲われるパターンがあるかもな。次の街の領主の運が悪かったらそうなるねぇ」
一人意地悪く、クロカだけがニタニタ笑っていた。
そしてジン達は次の街へ着く。
軍のトップエースも序盤に登場した時はレベル10台。
名無し兵士も終盤に登場する奴らはレベル40台。
みな、時間とともに経験を重ねて腕前を成長させているのだな。頭が下がる思いである。
新兵達はどこにいるのだろうか。
もちろん、終盤の主人公部隊がうろつくような激戦区とは遠く離れた戦場なのだろう。
毎ターン繰り返しストナーとハイメガが炸裂するような場所に昨日教習所を卒業した小僧が一般量産機に乗って来たら、流れ弾(無改造MS即死級)に当たってMAPに表示される前に爆発してそうだ。




