68 魔城 8
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
魔王軍の将軍からの攻撃を辛くも生き延び、ヴァルキュリナの故郷を襲撃した親衛隊も退けたジン達。
ヴァルキュリナの両親に見送られ、次の地へと旅立つが――。
最も巨大な大陸に、険しい山々が連なる壁で文明圏から隔絶された地がある。
一年中吹雪が吹き荒れ、それが止んだ時だけ白銀に輝く美しくも生の無き死の幻想世界が姿を現す大地が。
雪と氷と暗雲が覆う、標高四千メートルを超えた、平地としてはこの世界でも最高度となる、誰も顧みない僻地の中の僻地。
そこに巨大な城塞があった。
禍々しく、ねじくれ、悪意と邪悪で塗り固められた、途方もなく巨大な城塞が。
この世界にある国家全ての敵である魔王軍……その首領が住まう城が。
石柱が立ち並ぶ、暗く巨大な、神殿のごとき部屋。
そこに四つの人影があった。
そのうち三つはフード付きのローブを身に纏い、顔かたちは全くわからない。背と体格は全く同じに見える。
その三つの側で柱にもたれ、不敵な笑みを浮かべているのは……口髭をたくわえターバンを巻いた浅黒い肌の精悍な男。曲刀を腰にさげ、アラビア風の鎧を纏った戦士。
海戦大隊長ジェネラル・アルタルフだった。
青いフードローブが静かに言う。
「実力を信頼していたようだが、あの女では通じなかったようだな……」
黄色いフードローブが愉快そうに笑った。
「あんな小細工に頼るような小物では仕方がなかろう! くだらない部下が消えた事をむしろ喜べばどうだ?」
赤いフードローブは――ただ、黙っている。
黄色いフードローブは上機嫌で話を続けた。
「やはり頼れるのは力よ。戦力であり暴力よ。魔王軍にいてそれがわからんのがおかしいのだ。次は再びこの俺の部隊が……」
しかし青いフードローブが口を挟む。
「奴らは既に我が部下の地へと向かっている」
「ぬう!?」
黄色いフードローブが忌々し気に唸る。
柱にもたれるジェネラル・アルタルフが皮肉めいた笑みを浮かべた。
「ああ、あの男が仕事をしたようだな。あんな奴でも一応は役に立つという事か」
しかし青いフードローブは落ち着いたものだ。
「それで面倒な敵が片付くのなら問題は無い。そして例の試作体三匹は次で息絶えるだろう。次に奴らとぶつかるのは、暗黒大僧正から直々に力を授かった者だ」
「なにィ!?」
「なんだと!?」
「貴様!?」
他の三人は驚愕する。
赤いフードローブが疑うように言った。
「そんな奴があの国に配置されているだと?」
青いフードローブは当然のように答えた。
「そうだ。今でも潜伏している」
黄色いフードローブは忌々し気に問う。
「それならばスイデン国にもっと致命的な打撃を与えられたのではないのか?」
青いフードローブはただ一言。
「くだらん」
「どういう意味だ!」
激高する黄色いフードローブ。
それに対し、青いフードローブは呟く。当然のように。静かな声で。
「そもそも魔王軍が総力をあげれば、いかな国家でも滅ぼす事ができる」
それを言うと他の三人は黙った。
一瞬の静寂が訪れた空間で、青いフードローブは告げる。
「暗黒大僧正が命令すれば滅ぼす。その時が来るまでは留まらせておく。それだけだ」
「確かにな」
そう言って認めたのは、柱にもたれるジェネラル・アルタルフ。しかし、彼はこうも付け加えた。
「だが忘れてはいないか。滅ぼせという命令が無くとも、魔王軍の敵をいかに叩きのめすのも我々は自由だ。その権限が与えられている事をな」
青いフードローブは、それを否定しなかった。
「ならば貴様が勝手にやればいい。だがあの試作体三匹を葬るのは我が軍だ」
ふん、と鼻を鳴らすジェネラル・アルタルフ。
「ほう、そうか。ならば勝手にやらせてもらおう。貴様が信頼しているその部下がやられた後でな」
言われた青いフードローブは、ほんの僅か敵意の籠った声で問いただした。
「暗黒大僧正が与えた力を疑うと?」
「だがその力をふるうのは貴様の部下に過ぎんのだろう?」
そう言ったのはジェネラル・アルタルフではない。赤いフードローブが口を挟んだのだ。
再び無言の時が訪れた。
四人は睨みあいを始めたのだ。自分以外の三人へと、探るような視線を向けあう。
その時、青いフードローブが他の三人へ言った。
「静まれ。いや……控えろ」
その場の皆がそこで会話を止めた。
青いローブに従ったのではない。気配を感じたからだ。
闇に閉ざされた部屋の奥からの、強烈な、強大な……。
そこから乾いた足音が響く。
四人は黙って待っていた。
足音の主が姿を見せた時、四人はいっせいに膝をつく。
「「「「暗黒大僧正!」」」」
四人は足音の主、彼らの主の名を口にした。
その者――闇黒大僧正は王族を思わせる豪華なローブを纏っていた。髪も丁寧にカールされた、貴族然としたものだ。
だがその頭には……二本のねじくれた角が生えている。背には蝙蝠を思わせる羽が。背中の向こうには先の尖った尻尾があった。
魔界の貴族を自称する、高位の悪魔が好む古典的な姿である。
顔はわからない。闇と影に隠れて見えないのだ。
他の四人と異なるのは……その周囲の空間が、歪んで見えること。
陽炎のように……波打つように……あるいは色彩が滲んで混ざり合うかのように。
それはその者の放つなんらかの「気」による迫力かもしれないし、本当に空間に干渉する魔力が漏れ出ているのかもしれない。
ただ、他の者とは根本的に何かが違う。
それだけは確かだった。
人類の生息圏から遠く離れた、この時代の邪悪の中枢。
吹雪が吹きつける城塞の、その中の奥で。
ジン達の旅にさらなる脅威が立ちはだかろうとしていた。
評価ポイントが100に達しておりました。
どうもありがとうございます。正直、3桁に届くとは思っておりませんでした。
ストーリーの残りもストック分の約7割を消化しており、そこから先は数日に一度のゆっくり更新になりますが、まぁそれまででもお付き合いいただければ嬉しく思います。




