67 帰郷 7
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
魔王軍の将軍からの攻撃を辛くも生き延び、ジン達はヴァルキュリナの故郷に着いた。
襲撃してきた魔王軍親衛隊を倒したジン達。そこへヴァルキュリナの父親が訊ねてきた――。
フォースカー子爵は期待をこめた目で、部屋の中に入ってきた。
「もしかして『日本』から来たのかね?」
その質問でピンとくるジン。
「はい。もしかして貴方も?」
訊ねながらも、おそらくそうなのだろうと半ば確信していた。
だが次にフォースカー子爵が出す質問は予想の範囲外だった。
「……怪獣や怪人が街を襲い、それを迎え撃つヒーロー達がいたか?」
「え? いや、そういう事はありませんでしたが……」
あるわけがない。突飛な質問に戸惑うジン。
だがフォースカー子爵は落胆し、肩を落とした。
「そうか。では私とは違う地球か……」
それでジンは思いだした。
この世界には様々な地球から――人が乗れるロボットがある地球や、核の炎に包まれて無法の荒野と化した地球からも、召喚魔法で呼び込まれた者達がいる事を。
(この人も並行世界の地球から……)
ならば怪獣や怪人が人々に害をなさんとし、それと戦う戦士達がいる地球も有っておかしくはない。
おそらく――いや確実に、フォースカー子爵はそんな地球から来たのだ。
そこでふと気づき、今度はジンが訊く。
「異世界から召喚された者という事は、貴方も聖勇士?」
子爵は頷いた。
「そうだ。そして二十数年前、当時の魔王軍と戦いもした」
(なんか……この世界って、ずっと魔王軍がわいて出るのな……)
変な所で感心してしまうジン。
だが子爵は苦笑する。
「まぁ私はこの地を守るのが精一杯で、魔王を退治した最強の勇者達一行とは何の縁も無い脇役だったがな。故郷で見たヒーロー達のようには、全然なれなかったよ。風のように現れ、炎のように戦い、私達にとっての光のような……あんな風には、ね」
そこで窓から、街並みを眺めた。
「それでもこの街を守る事はできた。その手柄を認められて、フォースカー子爵家に婿入りするよう求められたのだ」
そこでジンは一つ思い至る。
「ならヴァルキュリナは地球人とのハーフ……!」
頷く子爵。
「そうだ。そしてあの子はこの地を守った聖勇士の血を引く者として、それに相応しくあろうとしている。女だてらに神官戦士となり、軍に入ってまでな」
そう言いながら、子爵はどこか浮かない顔だった。
「自分の道を自分の意思で決めてるって、凄く良い事だと思います」
二段ベッドの上から、遠慮がちにではあるがナイナイが言う。
それに子爵は頷いた……一応は。
「そうだな。だが妻はそれを苦く思っている。私も……あまり喜んではいない」
そしてどこか遠い目になる。
「大きな活躍はできず、脇に甘んじるしかなかった男を意識して、危険な道を選ばなくても……な」
その言葉で、ジンには察する事ができた。
彼は自分の実績に満足していない事が。
それは当時の主力と比べてかもしれないし、自分が見積もっていた自分の可能性と比べてかもしれない。
どちらなのかはわからないが……彼はきっと、過去に悔いか不満があるのだ。
この世界に来る前の来雅仁みたいに。
だからかもしれない。
ジンは黙っていられなかった。
「とはいえ、ヴァルキュリナがその道を選ばかったら、俺達はまだ目覚めてもいませんでした。そんな俺達が彼女の道を否定はできませんよ」
寝転んで上を見たまま、ダインスケンが「ゲッゲー」と鳴く。
それが肯定の意である事が、今のジンにはわかった。
それに励まされる思いで、さらに言葉を続ける。
「この街を守るのが精一杯だったと言いますがね、上等じゃないですか。俺らもついさっき、必死に戦ってやった事ですぜ。自分らのやった仕事に自分で泥をぶっかけたくはない。価値のある事だと言いましょうや」
どこか必死な――あるいは一生懸命な――ジンに続き、ナイナイもベッドから降りて声をかける。
「あの、子爵様。貴方に助けられた人にとっては、貴方こそ勇者だったと思います。それがこの街の人達で、ヴァルキュリナさんはこの街で生まれて暮らして、だから……その娘だって事、すごく大切なんじゃないかなって……」
しばらく、子爵は黙って聞いていた。
だが小さく肩を竦める。
「困ったな。君達を利用すれば、あの娘を止められるかもしれないと期待してみたのだが」
そう言う顔は、穏やかに微笑んでいた。
ジンも笑ってみせる。
「その期待は無理ですが、今の任務達成の期待なら少しはできそうですぜ。黄金級機設計図を王都に届けるのは二十年前の英雄にも劣らない大仕事じゃないですかね。それをヴァルキュリナの指揮下でやってみようと、俺らは思っているんで」
そう言われた子爵は、困った顔で笑いながらわざとらしく溜息をついた。
「娘を守ってくれよ?」
親指を立てて見せるジン。
「そちらの期待になら、任務失敗してでも応えたいですからよ」
「がんばります!」
いつになく溌剌とナイナイも応えた。
翌日。
ジン達が食堂で朝食をとっていると、ヴァルキュリナも姿を現した。
彼女が側を通った時、ジンは話しかける。
「おはようさん。お母さんとはよく話したか?」
「ああ。いつも通り、平行線で終わった」
あまりよろしくない内容である。
だがヴァルキュリナの顔は、嫌がる様子もなく、腹を立てた様子もなく、嘆いている様子も無かった。
むしろ……どこか、さっぱりした所があった。
昔から何度も話した事で、互いに変わらない言い分なのである。
聖勇士の子でありたい娘と、この世界の女性としての幸せを望む母親との。
ある意味、親子のコミュニケーションなのだ。
自分が口を挟むべきでないラインを感じたジンが言う事は一つしかない。
「そっか」
納得するだけだ。
ヴァルキュリナが朝食の乗ったトレイを受け取りに離れる。
その背を眺めながら、テーブルの上でリリマナが考え込んでいた。
「ヴァルキュリナも結婚すれば戦士をやめるかなァ」
「そりゃまぁ多分そうだろうが……そうなると兄貴の代わりに、あのディーンて男へ嫁入りでもするのか」
言いながらジンはディーンの事を思い浮かべる。
彼は兄と違い、ジン達に敵意や蔑視を向けた事は無い。ジンにしてみれば嫌う要素は全く無い。
家を継げないので軍にいる……と言っていたが、兄のケイド亡き今、やはり家へ戻るのではないだろうか。そうすれば家同士の結び付きという側面が強い婚姻を、ディーンが夫となって継ぐのはないかと思えた。
その割にはディーンにもヴァルキュリナにもそれらしい雰囲気が無いので、思い違いかもしれないが……。
ジンが考えていると、リリマナがその顔を覗き込んでくる。
「それだとこの街から出る事になっちゃいそう。やっぱり誰かさんがお婿入りしてあげればいいんだよ」
「だとよ、ナイナイ」
矛先を逸らすジン。
ナイナイはむすっと不機嫌になる。
「ジンはすぐそんな事言う……」
朝食を平らげたダインスケンが「ゲッゲー」と鳴いた。
ジン達がそんな話をしていると、当のディーンが何やら焦った様子で食堂へ入ってきた。
足早にジン達の隣のテーブルへ向かう――そこではヴァルキュリナが食事をとっていた。
彼女の側に来て、ディーンは頭を下げる。
「食事中にすいません。あの女親衛隊――マスターコロンが、いなくなりました」
「なんだって!?」
そう叫んだのはジン達だ。
思いがけない報告に驚き、思わず声に出てしまったのである。
そんなジン達へ振り返り、ディーンは話を続けた。
「申し訳ない。これから兵士を率いて捜索に入ります。というわけで私はこの街から動けません」
「いや、結構。必要な人員も揃いました。我らはこれより王都に向かいます」
そう答えたのはヴァルキュリナだ。
だがディーンが言うには――
「それなんですが……重ねてすいません、寄って欲しい所があるのです」
ガキの頃は移動基地に憧れ、若い頃はキャンピングカー生活をマジに検討した事もある。
まぁ結局いろいろあって下町の一画にいるわけだが。
そもそもあちこちふらふらしながら食っていけるような能力も無いしな。
怪傑ZUバットは町から町へ流離っていたようだが、何して日銭を稼いでいたのか。
設定・私立探偵だが、依頼はどこで受けていたのか。
そもそも探偵業をやっていたシーンはあったのか。
なんでスーパーヒーロー作戦2作であんなに優遇枠だったのか。
何から何まで謎だらけの作品だった。




