66 帰郷 6
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
魔王軍の将軍からの攻撃を辛くも生き延び、ジン達はヴァルキュリナの故郷に着いた。
そこにも次の魔王軍親衛隊が襲撃してきたが、ジン達は増強した戦力でそれを見事撃破した――。
「しぶとい女だな……」
目の前を連行される敵女親衛隊を見て、呆れて呟くジン。
戦闘終了後、ジン達三人はCガストニアへ帰艦していた。その艦もドックに戻り、現在は整備と修理の途中。ジン達も格納庫で一休みしている所である。
格納庫には専門職の治療術師達が呼ばれていた。
無論、盛られた毒を治療するためである。
ジンとダインスケンは毒に抵抗できたものの、他の者はほとんど全員が倦怠感でろくに力が入らない状態だったのだ。
ナイナイを含めて患者が列を作り、順番に治療を受けるのを、ジンとダインスケンは適当な箱を椅子にして眺めていた。
そんなジン達の前へ、戦利品の回収班が人を連れて戻って来たのだ。
両手を縛られて連行されているのは――街を襲撃した魔王軍の隊長、親衛隊のマスターコロンであった。
だが彼女に悪態をつくジンの声には、どことなく安心した響きもあった。
なんだかんだで、敵が死なずに済んだ事にほっと安心も覚えているのである。
無論、ここまでの戦いで多くの敵兵を葬っている事はわかっている。それを気に病んでいるわけでもない。
しかし敵とはいえ死に対して完全に割り切るには、ジンの故郷は平和過ぎたのだ。
「け、ケガ人をこれ以上痛めつけたりしないでしょうね?」
怯えて呻くマスターコロン。
そこへ治療を終えたヴァルキュリナが近づいた。
「魔王軍を率いて街を襲撃した以上、相応の罪には問われる。そこは覚悟してもらう。だがこの場ですぐに私刑を始めたりは――」
だがそこへ走りよる影が一つ。
ゴブオだ! 図々しくも列の先頭に並び、治療を終えていたのである。
「ゴブリン式対雌下剋上ォォ!!」
叫んで跳んだ! マスターコロンへ、囚われの身となった女幹部へ! 血走った眼で、涎をまき散らしながら!
「ウェーイ!」
リリマナが叫ぶ! そして飛ぶ! 宙のゴブオの側頭部に矢となってドロップキックが刺さった!
「ぶべらっ!」
ゴブオが呻く! 宙でひっくり返り、床に頭から落ちた! 白目を剥いて痙攣! 嗚呼無残!
一連、僅か数秒!
ダインスケンがのそのそと動き、ゴブオを片手で掴むと、ポイと砲撃カタツムリの座席へ放り込んだ。
「敵の幹部を捕えたそうですが……」
言いながら騎士のディーンも姿を現した。
それを見て、マスターコロンの顔が半仮面の下でパッと輝く。
「あら、なかなかイケメン! 貴方とならいろいろ仲良くしちゃおうかしら?」
「あ、ああ……そうですか」
少々たじろぎはしたものの、ディーンはヴァルキュリナへ言った。
「有益な情報が手に入るかもしれません。彼女は捕えておき、後に尋問しましょう」
「ああ、頼む」
頷くヴァルキュリナ。
マスターコロンはそのままディーンに連行されていった。
体を擦りつけるようにして、甘えた声で何やら囁きながら。
(なんか慌ただしいな。そろそろ部屋に戻って……)
ジンがそう考えていると、別の足音が近づいて来る。
そちらを見てみれば、格納庫にはあまり相応しくない人物が二人来ていた。
身分の高そうな中年男女である。
男の方はやや肥えているが、柔和な笑みを浮かべており、つばの広い黒い帽子を被っていた。
着ている物も黒づくめで、葛模様が装飾された燕尾服を身に着けている。
女の方は……青い瞳に長い金髪の美女ではあるが、目つきといい表情といい随分とキツかった。
こちらは細身なうえ全身白づくめで、頭には日よけの白い帽子、着ているドレスも白い。広く大きなスカートには裾全面にやはり葛模様が装飾されている。
二人を前に、ヴァルキュリナが呟いた。
「父上、母上……」
それで二人が彼女の両親だとジンにはわかった……が、同時に疑問がわく。
(こんな所にお貴族の夫婦が?)
なにせ戦艦の格納庫である。
娘と話があるなら、この街にある実家ですればいい筈だ。
だがジンの疑問を他所に、男性――父親が娘へ言った。
「頼まれた手配はしておいた。明後日には出航できるよう段取りはしておく」
「ありがとうございます、父上」
軽く頭を下げるヴァルキュリナ。
それを見て、父親は微笑みながらも軽く溜息をついた。
「では……母さんと話してきなさい」
「はい」
そう応えるヴァルキュリナの顔が、ジンにはどこか硬いように見えた。
ジン達は部屋へ戻り、それぞれのベッドへ寝転がる。とはいえまだ就寝する時間には少しだけ早い。
各自がくつろいでいると、部屋の扉がノックされた。
「失礼するよ」
「どうぞ」
ナイナイが応えると、扉がゆっくりと開く。
その向こうにいたのは……
「ヴァルキュリナのお父さん!?」
驚くナイナイ。
ジンも意外な訪問客に戸惑いながら、身を起こしてベッドに腰掛け直した。
ダインスケンとゴブオは寝転んだままである。ゴブオはまだ興味深そうに見ているが、ダインスケンに至っては視線を向けもしない――複眼なのでどこを見ているのかわかり辛くはあるが。
そんなジン達に、ヴァルキュリナの父――フォースカー子爵は話しかけた。
「この中に『地球』から来たという者がいると聞いたんだが……」
「俺ですよ」
座ったままで応えるジン。
フォースカー子爵は期待をこめた目で、部屋の中に入ってきた。
「もしかして『日本』から来たのかね?」
評価ポイントがまた入っていました。
評価なりブクマなり、入れてくださった方に感謝します。
感謝できるというのは良い事だ。
人の親切に触れているという事だからな。
問題は親切にする方にまわれないのか、という事だが、これに関しては辛い現実しか見えないので悟りをひらいて心を落ち着けよう。




