65 帰郷 5
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
魔王軍の将軍からの攻撃を辛くも生き延び、ジン達はヴァルキュリナの故郷に着いた。
しかし息つく暇なく、食事に毒が盛られ、次の魔王軍親衛隊が街を襲う――。
「なんだこのクソ武器は!」
敵を衰弱させる武器しか持たない敵機へ怒鳴るジン。
マスターコロンは実に愉快だと言わんばかりの高笑いをする。
『アハハハ! ハーピーには魔力で敵を弱らせる種も多いのよ』
嘲笑いながら急降下をかけるSフィルシーハーピー。
その足の剣呑な鉤爪がジンのBCカノンピルバグを襲った!
『ここは! せめて僕が!』
必死に割り込み盾となる、ナイナイのBCバイブグンザリ。
その装甲に爪が食い込む。そして爪から流し込まれる薬液が機体内で気化・拡散し、機体と感覚の多くを一体化させているナイナイにも作用した。
吐き気を催す酷い悪臭が体を巡る、想像した事も無い苦痛!
『う、はぁっ!』
身悶え苦しむナイナイ。
自ら割り込んだとはいえ防御態勢はとっているのに、モニターに表示されたダメージは2000に達していた。
『苦しいのは今だけよ! 後でたっぷり、気持ち良くしてあげるから!』
高らかに笑うマスターコロン。
しかしその機体が強烈な衝撃に打ちのめされた!
『うう!? この威力は?』
激しい衝撃でハーピーの羽が飛び散った。バランスを崩し、マスターコロンは必死に体勢を立て直す。
彼女の眼前のモニターに表示されるダメージ、4800以上……!
同じ値を自機のモニターで確認するジン。
ハードメイスを叩きこんだBCカノンピルバグを、重々しい響きをたてて着地させた。
「合体技じゃなくても、まぁそこそこダメージは通るな。俺らの機体も強化されてるからよ」
『こ、この私に当てた事はまぁ褒めてやるわ……!』
「ありがとさん。だがそれ程でもねぇ」
必死で余裕を保とうとするマスターコロンに、ジンは軽口を叩いた。
実の所、機体が表示した予測命中率は30~40%程度±武器の補正率である。これをヴァルキュリナの【指揮】に頼って上げた所で、60%前後ぐらいにしかならないだろう。
そこで当然、ジンはスピリットコマンド【ヒット】によって無理やり当てたのである。
だがそんな事はマスターコロンも薄々感づいていた。
『スピリットコマンドはSPを消耗するもの。それでこの半端な火力を当て続けるなんて、ずっと繰り返せる事ではないわ! 私を倒すまで延々と使える筈が……』
「かもな。だが俺は一人じゃないからよ」
ジンが言うや、フィルシーハーピーを襲う影がまたも宙へ跳ぶ!
咄嗟にハーピーは上空へ飛んだ。
だが影――ダインスケンのBCクローリザードが宙で交差し――リザードの着地から数秒遅れ、ハーピーが墜落する! 地上近くでなんとか宙に留まったものの、胸部の装甲が大きく切り裂かれていた。
受けたダメージはジンからの一撃と同等以上。
『こ、このトカゲ! 獣が調子に乗るんじゃない!』
怒鳴りながらハーピーを羽ばたかせるマスターコロン。無数の羽が発射され、鋭い手裏剣となってクローリザードを襲った!
だがクロリーザードは俊敏に飛び退き、手裏剣の乱れ撃ちをことごとく避ける。
スピリットコマンド【フレア】による超回避力……2つのコマンドで命中と回避をどちらも100%にできるダインスケン。SPが底を尽きない短時間の間なら、白銀級機を圧倒する事さえ可能だ。
「そろそろ終わりが見えたな!」
「い、いっけェ!」
ジンが再びメイスで打ちかかり、肩の上でリリマナが苦しい息を吐きながらも発破をかける。
『ひぃっ!』
悲鳴をあげて逃げようとするマスターコロン。だが【ヒット】によって必中となったハードメイスが無情にもその背を打ちのめす。
装甲と羽が、またもや砕けて飛び散った。
だが――まだハーピーは落ちなかった。
表示されるHPは残り1000程度。瀕死である。
だがまだ動けたのだ。
『お、おのれぇ! だけど防御にコマンドを使うSPはあるかしら!? さあ、受けなさい!』
銀の鎧を纏う、長髪の女の貌・大きな翼・剣呑な鉤爪をもつ人造魔獣。それが翼を広げて高速で回転を始めた。機体を中心に生じた竜巻が、悪意をもってジンのカノンピルバグを襲う!
フィルシーハーピー最強の武器・ダーティーサイクロンが放たれたのだ。
それはジンのピルバグを覆い、包み、全身を切り裂いた!
そして破損個所から風に乗って入り込む毒素。感覚を一体化させているジンの神経を容赦なく蝕もうとする!
「なるほど。こりゃキツイ。だがまぁ耐えられるからよ」
振動する操縦席で呟くジン。
表示されたダメージは3000以上、決して小さくは無い。しかし修理装置でHPを保ち続けたジン機にとって致命傷でもない。
さらに――
『な、なんで? 奴の戦意が低下しない!?』
モニターの表示を見ながらマスターコロンは驚愕していた。
毒の浸食により低下する筈のジンの戦意値はまるで減らず、130以上の高い値を維持していたのだ。
それは本人も理解していた。その原因も。
「完成していたのか。デバフ無効アイテムが」
ジンが見た自機のステータス画面によると、装備されているアイテムに見慣れないパーツの名前が表示されている。
クロカが精彩を欠く顔で、無理矢理ニタリと笑って見せた。
『前々から注文されてたからね。装甲とHPも上がるからジンの機体にはもってこいだろ?』
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フルコーティングアーマー:装甲+300、HP+1500。敵武器の特殊効果を完全無効。
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機体の装甲は2110、最大HPは7750に達している。
敵の量産機から掠り傷しか受けなかったのは、このアイテムによる強化もあったのだ。
「着々と進んでいるな。俺達が……勝つための下準備が」
呟くジン。
一方、マスターコロンは壊れる寸前の自機を急浮上させようとしていた。
(な、なんで!? 奴らの情報に基づいて、勝てる手をうった筈なのに――)
だがその背に衝撃!
機体が傾き、ついに地に落ちた。
『や、やったぁ……』
疲れ切った声を漏らすナイナイ。
ピルバグとハーピーの攻防の最中、スピリットコマンド【コンセントレーション】まで使って狙いをつけていた衝撃波の一撃。その援護攻撃が弱り切った敵機にトドメを刺したのである。
ほぼ無の気力で撃たれた非力な射撃ではあったが、瀕死のハーピーを叩き落とす威力はなんとか足りた。
墜落したハーピーから飛び出す脱出装置が見えた。
ハーピーはそのまま地に伏し、そして爆発。
『改造されたとはいえ青銅級機で、ランクBで……合体技頼りだと聞いていたのに……情報と違うじゃない……なんかズルい……』
飛び出して転がった座席の側で、仰向けに倒れたまま呻くマスターコロン。
ジンは一息ついてから、彼女に聞こえるよう通信機ごしに外へ声を送った。
「悪いな。あんたが聞いた時点の俺達より進歩していてよ」
「主人公なのに脱力係」というのはある種のギャグのつもりで作った設定だが、30にはマジでそんなキャラがいるそうな。
全く、現実はワシの小賢しい知恵など軽々と超えていきよるわい。
おのれチクショウめ。30になにか変なバグでもおきねーかな。
例:鉄也が二体に分裂して増援に来る。合体ムービーで全く別のキャラの物(しかも敵)が差し挟まれる。強制敗北戦闘なのに敵が弱すぎて負けられない。等。




