61 帰郷 1
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
この世界最強の兵器の設計図を運ぶ彼らを襲ったのは、その最強兵器に乗った魔王軍の将軍だった。
辛くも生き延びたジン達を敵が追撃する。だがジン達には既に新たな力があり、それで敵を退けた――。
白銀級機のタッグを倒してしばらく、魔王軍との交戦は無かった。
とはいえ全く戦闘が無いわけではない。この世界には大型の魔物が何種類も生息しているからだ。
だがジン達が総力をあげて戦うような、強力な物がそうそう居るわけではない。大概は戦艦Cガストニアの武装だけで十分、索敵で誰かが出撃しているなら手伝う……といった程度で対処できた。
「今日は何にも出ないみたいね」
戦艦から少し先行するBCカノンピルバグの操縦席で、ジンの肩で足をぶらぶらさせるリリマナ。
「ま、油断するのはもう少し後でな。また苔の生えた巨人が出ないとも限らないからよ」
そうは言いながらも、ジンにも緊張している様子は無かった。
ジンが言っている巨人とは、少し前の夜中に奇襲をかけてきた大地巨人の一種である。巨人とはいえケイオス・ウォリアーに比べれば頭二つほど小柄であり、奇襲もレーダーで発見できた事もあり、全く苦戦はしなかった。
全く、平穏な事だ。起動しないゲームに歯軋りして休日を過ごす哀れな奴もこの世にはいるのに。畜生めが。
(しかし巨大モンスターには妙にカビの生えたような奴が多いな?)
土のような肌の巨人達は苔のような物が顔面を覆い、マスクのようにさえ見えた。
その前の恐竜は頭にキノコの傘みたいな物があったし、キクラゲのような物が胸を覆っている巨鳥もいた。
この世界のモンスターにはそういう特徴が当たり前なのかと思いきや、リリマナやクロカはそれを否定した。となると最近そういうモンスターが増えたという事になるが――
(変な病気か、改造でもされたか。となると魔王軍が噛んでいるのか?)
そう疑ったところで、今、ジンに何ができるわけでもないが。
「ジン、見えたよ!」
考え事をしているとリリマナが声を弾ませる。
戦闘MAPに街のアイコンが表示された。機体の眼をこらして見ると、遠くに高い壁といくつかの尖塔、城のような物があった。
ジンの聞いていた話によれば、あれが今日辿り着く街で――
「あったぞ。確かホウツとか言う……ヴァルキュリナの故郷だったな?」
『ああ、そうだ。艦が追いつくまで、そこで待機するように』
応えるヴァルキュリナの声にもどこか嬉しそうな響きがあった。
聖都ホウツ。
古くからある都市で、現領主はフォースカー子爵。しかし元々は戦神の一柱、味方と規律を守る神ウルスヤの神殿が中心となって興った街である。そのため今でも同神の信仰が盛んであり、統治者の一族からもウルスヤ教団に入信する物が常にいた。
またスイデン外周に位置し、東の入り口にして外部からの侵攻を止める砦でもある。そのために軍の施設も充実しており、外壁に設置された大門から陸上艦用ドックに入る事もできた。
街へ近づきながら通信を入れるヴァルキュリナ。
ほどなく街の門が開き、一機のケイオス・ウォリアーがやってくる。
白銀の甲冑に身を包んだ騎士のようだった。手には巨大な槍を持ち、それも銀色に輝いている。
「似てるな……」
思わず呟くジン。その機体はかつて貴光選隊隊長・ケイドが乗っていた、Sランスナイトに酷似していた。
その機体から通信が入る。
『お久しぶりです、ヴァルキュリナ殿』
モニターに操縦者の顔が映し出された。
二十代の前半であろう、線の細い、いかにも貴族風の優男である。その容貌もケイドによく似ていた。
だがこの青年は銀髪であり、目は切れ長というよりもかなり細い、いわゆる『糸目』と言われる物である。また不愛想だったケイドと違い、愛想の良い笑顔を浮かべていた。
『久しぶりですね、ディーン殿。案内をお願いします』
そう応えるヴァルキュリナ。二人が知人同士である事は、それを見れば明らかだった。
Cガストニアは外壁内のドックへ入った。併設された基地へクルー達は下船する。
基地――石造りの砦の中で、ジン達はヴァルキュリナに案内の青年騎士を紹介された。
「ディーン=クイン……ケイドの弟だ」
にこやかに「よろしく」と挨拶する青年騎士。
ジン達は戸惑いながらも挨拶を返す。
黙っているわけにもいかないと、ヴァルキュリナはケイドの末路を語った。
「そうですか。兄が……」
そう呟く青年騎士――ディーンの顔からは、流石に笑顔が消えていた。
「すいません、まだ実感がわきません。突然の事でどうすればいいか……。ともかく、その話を軍の、もっと上の方へ報告しましょう」
そう言うディーンからは、怒りや嘆きは全く見受けられなかった。
(兄貴が死んだのに、随分と腹の座った奴だな。職業戦士の兄弟ならこんなもんなのか……?)
内心、ジンは感心していた。やはり21世紀の日本人と、日常的に怪物と戦っているファンタジー世界の戦士達とでは、メンタリティに違いがあるのかもしれない……と思いながら。
ヴァルキュリナとディーンが軍の上官へ報告と相談に行く。
ジン達は行く必要無しという事で、格納庫で機体の整備に付き合う事にした。部屋で休んでいても良いとは言われたが、本でも読むか寝るぐらいしかする事が無い。
「ま、助かるよ。なんせ人がいなくてなー」
ジン達の申し出にクロカは力なく笑う。Cガストニアの格納庫は、一目でわかるぐらい人が減っていた。
「元々成り行きで仕方なく乗りこんでいた奴は、整備員にも少なくなかったみたいだわ。まぁこの街はヴァルキュリナの親元、お膝元だから、フォースカー子爵の一声ですぐに人員は補充される筈だけど」
クロカと僅かな整備員とともに機体の調整を行うジン達。操縦席で両腕の稼働チェックをしていると、格納庫に見覚えのある男が入ってきた。
ディーンである。ヴァルキュリナの姿は無く、彼一人だ。
ジンは機体から降りる。ディーンはそれを見とめて近づいてきた。その顔には笑顔が既に戻っている。
「忙しいならお構いなく。魔王軍親衛隊の白銀級機に何度も勝利したという機体を見たかっただけですから」
「その機体の事で、貴方に話しておいた方がいいと思う事があってな……」
ジンは話した。
Sランスナイトを分解し、自分達の三機への改造資材にした事を。
「兄上の機体が、これらに……」
呟いてジン達の機体を見上げるディーン。
「わ、私は反対しましたよ!? いやマジで! コイツがやれって言いましたし!」
側にいたクロカが大慌てでジンを指さす。
ケイドの弟という事は、ディーンもまた有力な公爵家の人間。一整備員のクロカにとって睨まれたく無い相手だ。
「ちょっと、クロカ! ジンが悪いって言うのォ?」
翅を羽ばたかせながら講義するリリマナ。
だがジンはそんなリリマナを宥めた。
「言うな。嫌がられる事を通したんだから、悪いとすりゃそりゃ俺だろ。日和る権利ぐらいクロカに有るわな」
だがディーンは苦笑混じりの笑顔で言った。
「勘違いなさらぬよう。私はそんな事で恨み言は申しませんよ。戦場は生き物で、まず勝つ事が大切です。貴方達が魔王軍に倒されても、どうせ兄上の機体は失われていました。ならば戦うために使われた方がよほどSランスナイトの名誉になる」
これにはジンの方が拍子抜けする程だ。
(マジで話せるな……)
必要だからした事であり、ケイド機を勝手に使った事が悪い事だとは思っていない。
だが遺品を勝手に使われた遺族が腹を立てても仕方が無いとは思っている。だからディーンに文句を言われても、ここは謝るつもりであったのだが……。
ジン達が話していると、ナイナイとダインスケンもやってきた。
「ディーンさんも貴光選隊なんですか?」
ナイナイに訊かれ、ディーンは頭を振る。
「いや、私は違います。誘われはしたが、兄上に面倒を見てもらう気は無かったのでね。兄上と違って家は継げない身ですし、一人の騎士として軍で戦おう。そう思っているのですよ」
そう言ってからディーンは手を振った。
「では、ここらで。祝賀会の用意をしておきますので、夕食の時にまた声をかけに来ます」
「何か祝い事が?」
ジンが訊くと、ディーンはくすりと笑い声を漏らした。
「そういう訳ではありませんが、そうとも言えますかね。なにせヴァルキュリナ殿が故郷に帰って来たのですから、一晩ぐらい宴会があってもいいでしょう。黄金級機設計図を手に入れた、その任務達成の前祝いにもなりますしね」
その話を聞きながら、少し離れた所にいたゴブオが恨みがましい視線を向ける。
「アニキ達はいいっスね。どうせ薄汚いゴブリンは独りで留守番でさ……。せめて土産は持って帰ってくださいよ。デカいタッパは渡しますから」
そんなゴブオに、ディーンは微笑みを崩さず声をかける。
「君も来ればいい」
「ゴブリンも!?」
言われたゴブオの方が驚愕。
地位のある人間がゴブリンに友好を示すなど、この世界の常識では考えられない事だったのだ。
DDしかやれないならDDのガチャでも回そうかと思ったらピックアップ2機とも自分の使って無い機体だった。
課金せずに済んで良かったぜ!!怒!!
遅ればせながら前パートの敵機の設定。
機体解説
Sダイヤハーキュリー
白銀級の巨人型ケイオス・ウィリアー。ダイヤのごとく輝く頭部装甲と手持ち武器がいっさい無いのが特徴。
操縦者が格闘技 (プロレス)の達人であるため、近距離においては敵を掴んで殴り飛ばすナックルアロー系の打撃技を打つ。
しかし機体の武装としては射撃武器が本命であり、目から撃ちだす光線が主兵装。最大出力で発射した時の威力は半端な純エネルギー耐性のモンスターを1秒で蒸発させる。
なお「光線は毒霧などと同じ隠し凶器の一種なのでプロレス技」というのは操縦者の弁。




