54 新生 1
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
この世界最強の兵器の設計図を運ぶ彼らを襲ったのは、その最強兵器に乗った魔王軍の将軍だった。
絶体絶命の状況から辛くも生き延びたジン達は、生き延びるために新たな手段を探る――。
朝。
ジンが目を覚ますと、驚いて自分を見つめているヴァルキュリナと目が合った。
「おはようさん」
「あ……おはよう」
そう応えたものの、ヴァルキュリナは戸惑って辺りを見渡す。
ここはジン達があてがわれた部屋。
左右の壁に二段ベッドが設置され、片方の上段には毛布に包まれたゴブオ、その下段に目を開けたまま鼻提灯を膨らましているダインスケイン。
反対側のベッドの上段にすやすやと寝息を立てるナイナイ。その下段に下着だけで布団を被って寝ていたのがヴァルキュリナだ。
「なぁ、ジン。その……なぜ貴方が床で?」
ジンは毛布にくるまり、床に転がっていた。胸元にはリリマナが潜り込み、毛布とジンの服に包まれるようにして眠っている。
「俺のベッドにあんたが寝てたからだが。他の奴らにあんたと寝てろとは言ったが、俺の考えた意味とはちょっとだけ違ったな……」
「ゲッゲー」
いつの間に起きていたのか、ダインスケンが鼻提灯を引っ込め首をジンの方に回して応える。
部屋に戻った時、皆をベッドに押し込んで消灯したのがダインスケンである。
ジンの言った通り、皆で仲良く寝るためだ。
素直な事は薄汚れた文明人の中で貴重な美徳なのだ。
朝食を終えてから、クルーの大半がブリッジに集まる。
彼らを前にヴァルキュリナが呼びかけた。
「皆、集まったようだな。これより今後のため会議を始める。まず目的だが、この艦は首都を目指す。そこで王宮に黄金級機設計図を納める」
改めて宣言するヴァルキュリナ。
しかしわかりきっていた筈のその言葉に、動揺ゆえのざわめきが少なからず起こった。
それにジンは違和感を覚えたが、ヴァルキュリナは言葉を続ける。
「もちろん、魔王軍は追撃をやめないだろう。基地が消滅して設計図が失われたと思い込んでくれれば別だが……そうでない事を我々は想定しなくてはならない。そのための戦力強化についてジンから提案があるとの事だ」
そこで手をあげ、発言するクルーがいた。
まだ若い青年乗員が、やや遠慮がちながらも言う。
「あの、強化もいいんですが……クルーには成り行きで仕方なく乗艦している者も少なくありません。軍の正式な許可も貰わないで重要な任務につくというのも、ちょっと」
その隣にいた女性乗員が訴える。
「最寄りの基地へ行きませんか? 人員を正当な手続きで決めてもらった方がいいと思います。ケイオス・ウォリアーに乗れるのも、そこの雇われ部外者しかいませんし……」
無論ジン達の事だ。
新鋭艦を入手できた所までは運が良かったのだが、ケイオス・ウォリアーに乗れる兵士は不運な事に他にはいないのである。
戦える者は基地を守るために出撃し、基地と運命を共にしてしまったのだ。
彼らの意見を聞きはしたが、ヴァルキュリナは言った。
「その意見は参考にさせてもらう。だがどこへ向かうにしても敵と遭遇する可能性はある。だから戦闘の準備は必要だ」
「そんな! 正規の騎士が一人もいないままなんて無茶です!」
クルーの一人が腹を立てて抗議する。
フン、とジンは鼻を鳴らした。
「ああ、無茶だ。だが泣きをいれれば敵は来ないでいてくれるのか。そんな弱い甘えは捨てて埋めろ」
その言葉に別のクルーが反感を剥き出しにする。
「どうして正規の軍人でもないあんたがそんな口を利くんだ!」
それに対し、ジンは――
「なら部屋に引き籠ってろ。次に文句を抜かした奴は顎を割って黙らせる。いいな、ヴァルキュリナ」
そう言って、異形の右拳を腰溜めに握りしめた。
ギリギリ……とでも形容すべき、革を締め付けるかのような音が低く響く。
その険しい目は、昨日までのジンとは明らかに違った。断固とした口調に相応しい、煮えた激情が奥底に流れる固い意志が窺える物だ。
「わかった」
静まり返ったブリッジにヴァルキュリナの声が通る。
その言葉が無くとも、決意の差を越えて盾突く度胸があるクルーなど一人もいなかったが。
ジンは説明を始めた。
「予定では白銀級機のSランスナイトを修理して使う事にしていたらしいが、あれは俺達の三機を強化する資材にしてもらう」
「貴光選隊の隊長機を!? 量産機の部品にするなんて……」
思わず叫ぶ兵士が一人。彼にとってはあり得ない事だったのだろう、先ほどのジンの警告があったにも関わらず、その言葉が出てしまった……言ってから慌てて手で口を塞いだが。
そのクルーの背を棒で嬉しそう突きまわすゴブオ。
「アニキ! 逆らったのはこいつですぜ! 血祭にするなら手伝うっス」
それを横目で見ながら溜息をつくクロカ。
「量産機の部品にするんだよな、こいつらは。わざわざ夜中にそれを言いに来るなんてなー」
肩を竦め、視線をジンへと向けた。
「言っておくけど、Sランスナイトのパワーが33%ずつ貰えるなんて思うなよ? 効率的にはもっと落ちるからな?」
しかし言われたジンは断固とした口調で返す。
「だが一機だけ突出させても俺達には合わないからな。現状、俺達が使うという前提ありきで、それに最も合った形にしてもらいたいからよ。ついでに今まで倒した敵白銀級機のパーツも、流用できる物が残っていたら使ってくれ」
「はいはい。了解~。できるよ、できますともさ!」
諦めて、ふざけたようなヤケになったかのような返事をするクロカ。
まぁ両方なのだろうが。
機体解説
Cガストニア
ジン達が新たに乗る事となった、魔竜型ケイオス・ウォリアーに分類される戦艦。飛行能力の無い地竜を模して造られており、地球でいうヨロイ竜ガストニアに酷似した外観をもつ。
飛行できないので移動速度は速くはないが、そのぶん長時間活動できるので、交代制が組めるだけのクルーがいれば一日当たりの移動距離は決して短くはない。
格闘戦では尻尾を振り回し、遠距離へは火炎のブレスで対応。
最大の武器はホバー機能(本来は河川を渡るための物で短時間しか使用できない)を利用しての体当たりで、体左右の刃と巨大な質量が剣呑な武器と化す。
この時、一応体内への衝撃は和らぐようアブソーバーを効かせた構造にはなっているが、それでも大なり小なりケガ人が出る事は前提の武器であり、クルー達からの評判は決してよろしくない。