52 黄金 10
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
この世界最強の兵器の設計図を運んでいる艦の護衛を続けるジン達は、巨大艦を集めて作られた基地へやってきた。
だが、そこに魔王軍が奇襲をかける。伝説の黄金級機も出現し、基地は消滅した――。
ナイナイは頬を紅潮させながらジンを睨む。
「そんな事言って、冗談で誤魔化そうとして……ジン、どうしてまだ戦うつもりなの?」
ナイナイは確信していたのだ。
ジンがまだこの艦に残り、戦い続ける気である事に。
自分が癇癪を起したから部屋へ入ったものの、ヴァルキュリナが彼女自身を差し出そうとする前から……艦やメンバーの能力を把握しようとしていた、その時から既に。
そしてジンは、少し困ったように笑った。
「お前らにはわかっちまうか」
それに「ゲッゲー」と答える鳴き声。
ナイナイが後ろを見ると、ダインスケンもそこに着いて来ていた。
「でも、なんで戦う気なのかはわかんない……」
言いながらナイナイはジンを見上げる。ともすれば泣き出しそうな、潤んだ瞳で。
ジンは溜息まじりに頭を掻いた。
「ケイドの奴が出しゃばらなかったら、俺らは死んでたからな」
それはナイナイにとってはあまりに意外な言葉だった。
「あの人、凄く嫌な奴だったじゃないか!」
その声にはジンをも批難する響きがある。
それでもジンは笑顔のままだった。少し困ったようなままではあったけど。
「ああ。でも軍の連中には慕われてたみたいだからな。同胞には良い奴だったのかもよ」
「その軍の人達だって、嫌な人ばかりだった……」
納得できないナイナイ。少なくとも、彼に見せられた一面はそうだ。
だからジンもそれは否定しない。
「ま、そうだな。だが大半はもう死んだ連中だ。それをいくら悪し様に言っても、今俺がここで生きているのは、やっぱりケイドのバカが乱入してきやがったおかげでもある。それは変わらんさ」
否定はしない。だがそれはそれとして、助けられた事があれば無かった事にもしない。
そして廊下の壁にもたれ、天井を見上げた。魔法による照明はあっても、やはり薄暗い天井を。
「正直言えば、今でもケイドの野郎を好きになれるわけがねぇ。だからこそ、あんな嫌な奴に助けられっぱなしってのもどうにも面白くねぇ。ならどうするか……」
そしてジンなりの結論に至ったのだ。
ジンは壁から離れ、ナイナイを真っすぐに見る。
「あいつがやる筈だった大仕事を、代わりに果たしてやったら。借りは返せるし、あの世で奴は悔しがるだろうし、まぁダブルで良い事になるんじゃねぇか」
ナイナイは言葉を失った。
納得したわけではない。
だがジンの気持ちを否定する側にまわりたくもなかった。
そんなナイナイの胸の内を知ってか否か、ジンは少しお道化て肩を竦める。
「と言っても俺だけじゃどうにもならん話。俺は最強でも無敵でも無いからな。お前らが一緒に来てくれないと、お強い魔王軍には勝てんわ」
「だから一緒に来いって言うんだ」
ナイナイはぷいと横を向いた。ジンの言い分はわかったが、乗り気になれるかどうかはまた別だ。
ジンはまたポリポリと後頭部を掻く。
「無理強いはできねぇ。する気もねぇ。お前の道はお前が好きに決める事だからな。嫌ならどうしようもねぇ」
そう言ってから、またナイナイを見つめた。
今まで――この廊下の事ではない。共に目覚めて旅を始めてからだ――よりも。これまでで一番、真剣な眼差しで。
「その上で言わせてもらう。お前らが必要だ。一緒に来てくれ」
動機に共感してもらえたわけではない。ジンの勝手な我儘である。その我儘を「正しい事」だと理屈をつけるつもりはジンには無かった。
だから頼むしかないのだ。駄目で元々であっても。
そんなジンの前で、ナイナイは……。
視線を落としていた。自分の足元へ。己のつま先を眺めて。
「……故郷じゃ、馬と剣が下手な男は役立たずだったんだ。僕の部族で一番下手なのは僕だったんだ」
それでも仕事は与えられた。
働けない者を食わせていけるほどの文明レベルでは無い世界だったから。
だがそこでの扱いは――
「お前みたいな弱い男は要らないって、何度も言われた」
求められる能力が限られている、というのは辛い事だ。
そこからこぼれ落ちた者には。
「大きな人形で戦うこの世界では、僕も変わったって。強い人になったかなって、そう思ったんだ」
環境が変わった事で期待が生まれたのだ。
元が、どこまでも続く低い道だったから。
「でもそう思っただけで、あんまり変わってなかった。やっぱり僕なんか全然で、弱くて。変わったのはこの変な体だけだよ……」
その弱く苦い思いを口にして、暗に否定している。
一緒に来いというジンの頼みを。
自分に期待してくれるな、と。
それを聞いた、ジンの言い分は……
「俺にとってのお前は出会ってからのお前が全部だ。それより前は知らねぇ。どうでもいい」
ジンもナイナイの言い分を否定した。
「今のお前が俺には必要だからよ」
弱かろうが変だろうが、全てひっくるめての話だ。
「お前や俺より強い奴はこの先も出てくる。そいつらを押しのけるために、俺にはお前が要るんだ」
ナイナイは、小さく頷いた。
何度も。
声は出さなかった。
泣き声になってしまうから。
駆け引きや裏なんぞ欠片も無い交渉は終わった。
三人並んで壁にもたれ、少しの間、佇む。
やがてナイナイがちらとジンを横目で見た。
涙は収まったようだと見て、ジンは壁から離れた。
「じゃあちょいと行ってくる。お前らは寝とけ」
「ゲッゲー」
鳴くダインスケン。
「ヴァルキュリナさんは……」
そう訊くナイナイに、ジンは背中ごしに軽い声で答えた。
「寝させてもらえばいいんじゃねぇの。あちらさんが良しと言ってくれてんだからよ」
一人、目当ての部屋に来たジン。扉を何度かノックする。
最初は何の反応もなかったが、やがて根負けしたように扉がゆっくりと隙間を開けた。
中から覗き見た目が驚きに丸くなり、動揺した声が漏れる。
「え!? な、何? 夜中に女の部屋に来るなんて、お前、ちょっと……」
クロカである。ジンは彼女の部屋に来たのだ。既に就寝前だったらしく、野暮ったい灰色のパジャマに着替えてしまっていた。
ジンは「悪い」と言って頭を下げる。何がなにやらと困惑するクロカに、頭を上げるやはっきりと告げた。
「艦長さんから許可ももらってある。すまんとは思うが、ざっと話だけでも聞いてくれるか」
主人公は自分の願望垂れ流し投影するのが無料ネット小説の基本だというのを見たし
まぁそんな感じにしようと思っていた。
誰だこいつ




