50 黄金 8
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
この世界最強の兵器の設計図を運んでいる艦の護衛を続けるジン達は、巨大艦を集めて作られた基地へやってきた。
だが、そこに魔王軍が奇襲をかける。伝説の黄金級機も出現し、基地は壊滅した――。
スクク基地はこの世から消滅した。
そこから離れ行く竜型艦のブリッジで、ジンは冷や汗をぬぐう。
「間一髪だった、助かったぜ。で、なんで艦が変わってんだ?」
ブリッジにいたのはヴァルキュリナとクロカ、ゴブオ。そして艦のクルー達……見覚えのある顔もあるが、そうでない者も。
クロカがニンマリと笑う。
「シシシ……半分ドサクサ紛れさ。黄金級機設計図を運ぶために戦力増強する計画は前からあったけど、非常事態だから勝手に決定させてもらったワケ」
「あの場から脱出するには艦を選んでいられなかったという都合もある。後で処罰されるかもしれないが、それは私が受けるつもりだ」
ヴァルキュリナの方は喜ぶ一方でも無かった。表情は暗い。
「切羽詰まっていたから仕方ないな。ところで……ケイドはどうなった。知っているか?」
少し気になって訊くジン。
その問いにクロカも一転して言い難そうに目を逸らす。
「機体は回収できたよ。バラバラだけどまぁ直せる。明日朝一で修理するつもりさ。操縦者は、その……気の毒したな」
呆気ないものだった。
どこぞの国で最高峰の騎士であろうが、もはや屍の一片も無い。
魔法の存在する世界ではあるが、何も残っていないのでは蘇生など無理だろう――誰に聞いたわけでもないが、ジンは薄々そう感じていた。
「……この艦の能力を把握したい。見せてくれ」
「構わないが……」
唐突とも言えるジンの頼みに、ヴァルキュリナがやや戸惑いながらも備え付けられた宝珠に手を触れ、宙にステータスウインドを出す。
外観は四本足のずんぐりしたトカゲだ。
だが胴体部――特に背中は頑丈な装甲版に覆われ、そこには鋭い刃が列をなして備え付けられていた。それを見て、ジンは故郷の古代生物を思い出す。
(恐竜……鎧竜とかいう種類みたいだな)
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Cガストニア
HP:13500/13500 EN:230/230 装甲:1940 運動:85 照準:157
射 騎獣砲撃 攻撃2700 射程P1-3
格 格闘 攻撃3500 射程P1
射 ファイヤーブレス 攻撃4300 射程1-7
格 ドラゴンタックル 攻撃4800 射程P1
修理装置 補給装置
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「うわぁ、なんか前より……僕らの機体よりも強いね?」
「ですよね。俺思うんスけど、もう俺が騎獣砲で出なくてもよくないスか?」
ステータス表示を見て感心するナイナイ。ゴブオも調子を合わせ、ついでに砲座から降りられないか暗に訊く。
【騎獣砲撃】はゴブオが乗る砲座カタツムリによる物であり、この艦の本来の武装ではない。パンゴリンに比べ攻撃力の上がっているこの艦では、火力という点で他の武装に数段見劣りする事になった。
だがそんなか細い抗議に気がつきもしなかったのか、クロカが笑う。
「シシシ……この魔竜型艦Cガストニアは、あの基地にあった艦では最新型。スイデンでも指折りの上等品だから。居住性は据え置きで戦闘力は純粋にアップ。修理と補給用の装備もデフォで装備、さしずめ『戦艦』とでも呼んでいいね」
戦艦とは文字通り戦力として使う目的の艦だ。そういう意味では、この世界には「戦艦」は少ない。
魔法技術の発達により、鎧を巨大化・兵器化させる事に成功し、巨大な歩兵として使うようになったのがケイオス・ウォリアーである。操縦方法が人機一体型なのは、もともと人が着て動く物から発展したという経緯もあるのだ。
ケイオス・ウォリアーの戦いは戦士同士の合戦をそのままスケールアップさせた物なので、艦を戦力の中核に置くという戦法は発展しなかった。なにせ海戦でさえ水上・水中戦闘可能なケイオス・ウォリアーで部隊を編成し、戦ってしまうのだから。艦の攻撃や砲撃も、戦車や船に備え付けた衝角や弩を使う感覚の延長に過ぎない。
艦の分類「C」も運搬車を意味する物なのだ。
だがサイズとそれを動かすためのパワーが大きければ、戦闘力が高い艦も当然出てくる。
「白銀級機にも負けてないし……これだけ強かったら、青銅級機のケイオス・ウォリアーなんて要らないんじゃ?」
ナイナイのその疑問も尤もだった。
だがクロカはチッチッチッと得意げに指をふる。
「そうはいかないんだよなー。この艦を建造するには白銀級機を造る数倍だか十数倍だか数十倍だかの費用がかかるそうだ。戦をやるならどうしても数と力の合計になっちまうから、考えようによっちゃ戦力という点じゃ青銅級機に勝ってるとさえ言い難い。とはいえ搭載・運搬ができる移動拠点が必要だから、造らないわけにはいかないけど」
つまり「兵器」として見た場合、手放しで褒められるほど強くは無いのだ。
「ま、それでも『これからの時代は戦艦だ!』とか言う奴もいなくは無いね。大昔、竜騎士なんかドラゴン飼えるなら要らないだろとか言ってた奴らみたいな言い分だけどさ」
クロカは「言う奴」を小馬鹿にしているかのような口ぶりだった。
それまでステータスを眺めていたジンが、そこで口を挟んだ。
「メンバーの能力も再確認したい。いいか?」
だがナイナイが大きな溜息をつく。
「……僕、疲れた……」
「そうだね。私もォ」
リリマナも宙を漂いながら同意する。
ヴァルキュリナはそれを聞いて頷いた。
「そうだな。まず休憩に入ろう。詳しい話は明日の朝にでも……」
「そういう事じゃないよ!」
ナイナイが怒鳴った。ヴァルキュリナの言葉の途中で。
彼女のみならず場の全員がぎょっとして硬直する。おとなしくて気の弱い彼が、急に怒りを露わに叫ぶなどと予想もしなかったのだ。
そもそも怒るような事など何も無い場面の筈だ。
だがナイナイの激昂は止まらなかった。
声こそトーンを落としたが、その両手は感情を抑えきれず震えている。
「これからどうするのか知らないけど、僕らと関係なしに勝手にすればいいじゃないか。今日だけで僕らは何回死にそうになったのかわからないよ。けど……僕らの事はどうでもいいって、みんな思ってる」
そう言われ、ジンは貴光選隊と合流してからの事、スクク基地での事を思い出した。
「まぁ……嫌われてるようではあるな」
それは認めるしかなかった。
だが認めても……いや認めたが故にか。ナイナイは問い詰める。
「ジン! 敵に殺されそうになったのに、手当も適当にしかされなくて、なのに戦場に出たら、敵ばっかり強いのがいっぱい出てきて……嫌じゃないの? 平気なの!?」
怒り。悔しさ。悲しさ。もはや止まらない。
それをどう止めればいいか、ジンにはわからない。そもそも止めるべきかどうなのかも。
「まぁスジは通ってねぇな……」
それはジン自身も感じる事なのだ。
そしてそれを聞いて、ナイナイは……
「僕はジンがいなくなったら嫌だよ! もうこんな所、出よう! いっぱい戦ったじゃない!」
泣いて訴えた。
大きな目から、ぼろぼろと涙を零して。
止められない感情のままに。
誰も何も言えなかった。
静かになったブリッジに、ナイナイがしゃくりあげる声だけが小さく響く。
その肩を優しく叩く手が、一つ。
「ゲッゲー」
ダインスケンが鳴いていた。小さな声で。
続いてナイナイの反対の肩にそっと触れる手。ジンである。
「休憩、だったな? 部屋を教えてくれ」
ジンがそう訊くと、ヴァルキュリナが黙って頷いた。
何も言わない。その瞳には、辛さと苦しさが有りはしたが。
艦を乗り換えると改造段階を引き継ぐという不思議仕様。
まぁこれはWィンキー時代(第四次)から既にそうだったからな。
アーガマはトロイホースに強化装甲を張り付けて改造したものではないのだが、基地の整備班が気を利かせて譲渡前に強化しておいてくれたのだろう。
タダで。
やはり人と人を結ぶのは優しさ……。




