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異世界スペースNo1(ランクB)(EX)(完結編)  作者: マッサン
第1次 旋風覚醒編
43/353

43 黄金 1

異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。

彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。

スイデンの精鋭騎士隊は壊滅、敵はジン達がこの世界最強の兵器の設計図を運んでいる事を明かす。

全てに納得したわけではないが、それでもジン達は設計図の運搬を引き受けるのだった。

 翌日。

 また本を借りるため、ジンは艦長室を訪れていた。軽くノックし「ジンだ」と告げると、すぐに「どうぞ」と許可が出る。

 中へ入るジン。それほど広い部屋ではないが、一人用のベッドも事務机も、いくつかの本棚もある。ヴァルキュリナは机で書類を見ており、ジンを見ると軽く頷いた。

 ジンは本棚の一つに近づく。そこには仕事と特に関係の無い本が入っており、本はそこから借りていた。


 しかしその日、なんとなく気になっていた事を、ジンはヴァルキュリナに訊いた。

「そういえば、婚約者さんの容態はどうだ?」

 訊かれたヴァルキュリナの表情が暗くなる。

「芳しくないな。脱出装置を使わなかったから、操縦席内の漏電や魔力回路の延焼でかなりのダメージが残っている」


 他の騎士と違い、隊長のケイドは脱出せずに操縦席にいたままだった。

 ジンがそれを知ったのは、今朝、クロカから聞いての事である。


「人間、普段練習してない事はできないって事か。まさかマジで自機と心中する気だったわけでもないだろうからよ」

 他山の石としよう、とジンが思っていると、ヴァルキュリナは沈んだ顔のまま考えこむ。

「どうかな。白銀級機(ランクS)の操縦者であり貴光選隊(きこうせんたい)の隊長だった事は、クイン卿の誇りそのものだったから……」

 婚約者が言うならそうなのかもしれない。ジンは気づかれないよう小さな溜息をつく。

(だからって誇りが命より重いとか……理解できん)

 ヴァルキュリナは軽く頭を下げた。

「すまないな、ジン。基地につくまで今まで通り、貴方達にこの艦を守ってもらわないと」

「それについては昨日も言った通り、了解だからよ。ま、基地までもう少しなんだろ? その先はスイデン国領。今までより安全だよな。基地で俺らの代わりの兵士やケイオス・ウォリアーを渡して貰えば、もう何の問題も無ぇ」


 スイデン国の基地がある場所はスイデン領土。当然ジンはそう考えた。

 だがヴァルキュリナは(かぶり)を振る。


「……スイデンの目の前ではある。でもスクク基地は領内ではない」

「はあ?」

 意味がわからないジン。ヴァルキュリナは言う。

「国境の外に置かれた隠し基地なのだ」


 この世界では、領土の外に軍事基地を作ってもいいらしい。

(そういう文化と言っちまばそれまでだが……。まぁどの国の土地なのかわからん場所に重要な建物があるのはRPGじゃよくある事か)

 無理矢理ゲームの話に置き換え、ジンは異文化に納得しようとした。


「しかしな。()()()()って事は、その場所は機密事項だろ。やっぱり俺らは基地の手前のどこかで降ろした方がいいんじゃないのか」

 ジンは新たに生まれた懸念を口にする。

 ヴァルキュリナは少し難しい顔をしたが、それでもはっきりと言った。

「それについては私が話をつける。おそらく……なんとかなる筈だ」



 そして数日後。

 赤茶色の荒野に岩山が連なる不毛の大地にて。


「あ……あれが基地だとぅ!?」

 ジンは窓の外を見て驚愕の声をあげた。

「うわぁ、凄いや! パンゴリンのお兄ちゃんだ!」

 同じく驚くナイナイ。

 岩山に挟まれた沼の辺に、三つの巨体が伏せていた。


 巨大なテントウムシ、巨大なダチョウ、巨大な亀。どれも人造の装甲で覆われた、この世界の軍艦である。

 そして全てがCパンゴリンの倍以上、亀に至っては三倍を超えるサイズを持つ大型艦だった。

 よく見れば艦の周囲には簡易テントがいくつも立っている。


「大型艦を並べて移動できる基地にしてあるの。必要な事はたいていできちゃうんだから!」

 はしゃぐリリマナが説明する。

 三つの巨大艦とそこの人員が基地としての役目を果たす――それがスイデン国のスクク基地なのだ。


 Cパンゴリンは巨大艦の陰に伏せた。

 亀――魔竜型艦Cアケロンから連結用通路と作業用アームがパンゴリンに伸びる。修理・補修に入ったパンゴリンから、ジン達を含むクルーは巨大艦へ移った。


 巨大艦は基地として使われるだけあり、居住性は高かった。空調も水回りも一段上だったし、トイレも多いし、浴室にはシャワーがある。各種売店もあり、長期滞在のために造られている事が窺えた。


 そんな巨大艦の中で、ジン達は――


「ねえ、ジン。僕ら、まだここにいるのかな?」

 げんなりして呟くナイナイ。椅子にだらしなくもたれるジン。何も言わず頭をゆらゆらしているダインスケン。

 三日目にして早くも食堂でうだっていた。


 無論、毎日の訓練は欠かしていない。だがイマイチ身が入らないし、終わった後はだらだらするだけだ。

 ジンは安い酒をちびちび啜る。どれだけ呑んでもちっとも酔いがまわってこない。

「ああ。やっぱり交渉が難航しているようだからよ……」


 ジン達はもう艦を降り、次の生き方を模索する気になっていた。

 だがどういう事か、まだ艦を降りる許可が出ない。ここまでの報酬も支払われていない。一応まだ艦にいるのだから訓練はするが、こんな状況でやる気が起きるわけがない。

 ヴァルキュリナはあちこちをたらい回しにされているようだ。見かけた時にどうなっているのは聞いては見たが……


(「ジン達が降りてから基地が移動すれば、場所の秘密は守られる。それにはいろいろ手続きが必要だが、黄金級機(ゴールドクラス)が絡むとなれば許可は出る筈だ。ここまでの報酬も相場通りには出るよう頼むから、待っていてほしい」)


 それが彼女の返事だった。

 前に言っていた「話をする」「なんとかなる」と言ったのは、ジン達が去った後に基地の移動を願う事だったのである。

 それがわかったジンには心配があった。

(傭兵三人のためにそんなお願いが通るほど、物わかりの良い軍があんのか? 悪かったとして、はて、ヴァルキュリナに交渉なんぞできるのか? 不安しかねぇ……)


 だらけた姿勢で物思いに耽っていると、ナイナイが辺りを見渡す。

「やっぱり、なんか居心地悪いね」

 巨大艦の食堂はCパンゴリンのそれより大きく、利用者も多い。

 だがやはりジン達のテーブルの周りは全て空いていた。利用者達も遠巻きにジン達を見ている。視線は決して友好的ではない。

 ジンは軽い溜息をついた。

「俺らの事を聞いてる奴もいるようだからな。そうじゃない奴も多いのが面倒な所だが……」


 ジン達の事など聞いていないクルーによって、ゴブオは危うく斬り捨てられかけた。

 その兵士にしてみればなぜか軍艦に入り込んだゴブリンを退治しようとしただけであり、悲鳴をあげて逃げ回るゴブオを庇いながら必死に事情を説明するハメになった。

 仕方なく、ゴブオはジン達の部屋で待機している。


 似たような事はダインスケンにもあったが……こちらは兵士の剣を爪であっさり剣を受け止めていなし、まるで気にする様子も無かった。

 兵士達に事情を説明する手間は要るものの、ダインスケンはいつも通りジン達と共に行動しようとするし、兵士達ごときに討ち取られる事もないだろうという判断で、もう本人の好きにさせる事にしてある。


 腹を立てて翅を震わせるリリマナ。

「ジン達が大切な仕事をやってた事がいまいち伝わってないよね。エリート騎士なんかより役に立ったのにィ!」


 その言葉が聞こえたようだ……ジンは後ろから声をかけられた。

「ああ。お前らが貴光選隊(きこうせんたい)にケガさせたせいで、敵の親衛隊におくれをとったんだよな」

 振り向けば、騎士が何人か苛立ちの籠った目でジン達を睨んでいる。


 リリマナを横目で眺めながらこっそり溜息をつくジン。

(やれやれ……聞かれりゃ不味い事は聞こえちまうもんだな)

評価ポイントをつけてくださった方がまた一人増えたようだ。

誠にありがたい。

感謝し、お礼を述べるのみである。


感謝する機会が増えるのは嬉しいものだ。

それだけ色々な人に助けてもらえているという事だからだ。


助ける機会の方は碌に無いのは、まぁ、そういう人間なので仕方が無いとしか。

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