41 不穏 9
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
強敵マスターウインドに敗れる直前まで追い込まれたジン達。
敵は立ち去る前に、ジン達が運んでいる物がこの世界の最強兵器・黄金級機の設計図だと明かした――。
「そもそも黄金級機こそがケイオス・ウォリアーの起源だからね。白銀も青銅も、ランクC……軍艦も、全部黄金級機の技術を簡易デッドコピー、それを流用した子供達だから」
声はジン達の後ろからした。
いっせいに振り返ったジン達は、いつのまにかクロカが来ていた事を知る。彼女はニンマリと笑った。
「シシシ……悪いね。勝手に口を挟んでさ」
(チッ……まぁいいだろ。ヴァルキュリナが俺達に本当の事を話そうとしているのは、ここまでの説明でもまぁわかった。できれば最後まで聞かせてもらいたかったがな)
内心不満はあったが、ジンはクロカへ訊く事にした。
「ちと不思議なのは、大昔から黄金級機は存在するのに、設計図が唯一無二の貴重品みたいに扱われている事なんだが」
「そりゃ写しなんて造れないからね。黄金級機の設計図は羊皮紙の束じゃない。記憶を詰めた宝珠なのさ」
そう言うとクロカはポケットからゴルフボールみたいな珠を取り出す。
それは透き通った材質でできており、中には赤・青・黄の光が瞬いていた。
「これは遥かに低ランクの市販品だが、ま、こんな感じ。黄金級機の設計図は遥かに……というかこの世界最高に上等な物で、複製できないよう防御措置が込められているし、容量が大きすぎて、紙に書くだの、ましてや人の頭で覚えるだのは到底無理な話でさ。そんなわけで、この設計図の取り合いで国同士が戦争した例なんて大昔からゴロゴロしてる」
だが説明されてもジンには疑問が残る。
「ならいっそ、黄金級機をゼロから造れないのかよ? 大昔に造られた物が今の技術でできないって事もないだろうに」
人がその手で造った物なら、過去の製品を質を落して再生産する事しかできないのは不自然ではないか。
だがクロカの返答は素っ気ない物だった。
「うん、無理」
一応、その一言では終わらず、補足説明はしてくれる。
「特殊な金属で造られた魔剣の伝説とか、聞いた事ない? つまり……」
「黄金級機には特殊な素材が必要、と」
超金属を入手して最強剣を作成してもらう。そんなクエストをRPGで何度かやった事をジンは思いだした。
クロカは不気味な笑顔を浮かべながら大きく頷く。
「そしてそれが何なのか、黄金級機で共通しているわけでもない。いや、共通素材はあるけど個々に特殊な物も必要になるというか」
二人の話を聞いていたリリマナが、じれったそうに口を挟む。
「その共通の材料の一つにして一番大事な物が、『心臓』に使う神蒼玉でしょ」
「そのサファイアが特別な一品物なのか」
ジンが訊くとクロカは頷く。
「まぁね。この世に七つしかない神々のアーティファクトを、恐れ多くもエンジンに組み込んでいるから。かつては神の武具を召喚するための宝玉で、天の代行者に選ばれし七人の勇者が預かっていた……という物だった筈だけど。ケイオス・ウォリアーがこの世界に造られてからはその部品になっちまった」
なぜ黄金級機を自ら開発しようとしないのか。
それはできないからである。
「じゃあ設計図だけあっても造るのは無理なんじゃない! それなのに僕らを騙して、酷いよ……」
抗議の声をあげるナイナイ。後半は泣き声も混じっていた。
流石にヴァルキュリナも沈んだ目を伏せる。
「すまない……」
そんなヴァルキュリナを見つめるジン。
「マスターウインドは言ってたな。元の体に戻せるのは魔王軍だけで、他所では治せないと。その事はわかってたんじゃないのか?」
「……そうだ」
ジンの問いにヴァルキュリナは答えた。目を伏せたまま。
「ナイナイも言ってたが、だから教えなかったんだよな。それなら魔王軍へ行こう、と俺達が考えるかもしれないからよ」
「……」
今度はヴァルキュリナも黙ったままだ。目を伏せたまま。
「そんな、ずるいよ……」
呻くナイナイ。それに頷くジン。
「ああ。ちと汚いやり方だ。ヴァルキュリナ、そんな祖国に何とも思わないのか?」
そう言われ、ようやくヴァルキュリナは顔を上げる。
「上には上の考えがある。不満があるなら現場責任者の私に向けてもらいたい」
その目には意思の光が確かにあった。
だがジンはどこかおどけたような調子で肩を竦める。
「私に、つってもな……上の指示だって今認めたようなもんじゃねぇか」
「あ……」
目を見開くヴァルキュリナ。
汚いやり方。ジンがそう言った時、批難はスイデン国に向けられていた。
目の前のヴァルキュリナへ問うたのは、指示に従った態度についてである。
ヴァルキュリナも国からの指示があった事を踏まえて返事をしてしまった。
実際、本国からの指示だったのだから。
Cパンゴリンが持っていた戦力が壊滅したこと。拾ったジン達が親衛隊の白銀級機を撃破したこと。
そして、廃墟となった要塞で拾った物の情報。
それらを本国に伝えたのは、確かにヴァルキュリナである。
そして本国からの指示が「黄金級機とジン達の体の事は伏せ、貴光選隊と合流するまで味方として使うこと」だったのだ。
それをついうっかり、ジンに認めてしまった。
「俺らが目覚めた直後に『魔王軍に行きたければ行けばいい』と言っていたヴァルキュリナの方針と食い違うからな。ま、誰かの指図じゃねぇかとは思った」
そう言ってニヤリと笑うジン。
「で、上さんは俺らをどうする気だ? 始末でもするのか?」
「そこまでは私がさせない!」
勢いよく叫ぶヴァルキュリナ。
「じゃあいつまで使って、最後はどうする気だったんだ?」
「……貴光選隊が合流したのは、この後の護衛としてだ。ジン達はどこか近くの町に立ち寄り、そこで降ろせとの事だった」
訊ねるジンに、ヴァルキュリナはもう隠そうとせず上からの指示を正直に伝える。
ふむ、と呟くジン。
「そこまでのギャラは出るな?」
「ああ。私は……貴光選隊の合流後も頼みたかったけど」
言い難そうに、だがはっきりと伝えるヴァルキュリナ。
少し困って頭を掻くジン。
「ありがとよ。でも無理だろ。スイデンの軍も俺達も、それは互いに嫌だと思ってるからな」
言って仲間二人の方を見た。
ナイナイは黙って頷き、ダインスケンはそれを見て少し遅れて頷く。
「そう……だな。今までありがとう」
名残惜しそうに言いながらも、ヴァルキュリナは僅かに微笑んだ。
「でもこの状況だ、せめて次の基地まで後数日は護衛してくれないか」
そう付け加え、頭を下げる。
ジンは少し考えた。が……
「まぁしょうがねぇか。よし、その基地とやらに着くまではきっちりやらせてもらう。いいな、ナイナイ」
再確認するジンに、ナイナイは……やや不承不承ながらも頷いた。
「うん……わかった。そこまでは、お仕事だから」
「ゲッゲー」
ダインスケンも鳴いた。
RPGで「遥かに技術レベルの高かった古代文明」がよく出るのも、ダンジョンの深部を探索したら強力な武具が出るようにするための設定なのだろう。
普通に技術が右肩上がりなら、考古学的に価値はあるが性能はオモチャみたいな武具しか出てこないからな。
ムラサマブレード! 昔よく使われていた名刀、刀剣史においてかかせないカタナ! 威力は5d10(BOルタック商店では10d20のライフル銃が店売りされている)
わざわざグレーターデーモンと戦うのは発掘作業に従事する学者さんだけになるな……。