36 不穏 4
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
一行へスイデン本国から屈指の精鋭が合流してきたのだが、その不埒な魔手がナイナイを襲った。
彼らへ怒りをぶつけたジンだったが――。
部屋に戻ったジン達はそれぞれのベッドに寝転ぶ。
ナイナイだけは膝を抱えてしゃくりあげていたが。
「変態に触られて泣くほど気持ち悪かったか」
寝転びながら、どこか投げ槍に訊くジン。
だがナイナイの、涙声での返事は少し違った。
「誰も、僕らの味方してくれなかった。僕はこの艦の人達、味方だと思ってたのに……」
生きるか死ぬかを潜り抜けての時間だ。一ヵ月近くは決して短くは無い。
ため息混じりに言うジン。
「ヴァルキュリナはまぁ味方だったろ」
「あれでそう言えますかね? それにあの女のために、この艦でずっと働くんですかい? あの女はケイドの嫁さんっスよ」
横からゴブオが口を挟んだ。
「俺の女じゃないんだから誰の女でも構わんがよ……」
気の無い声で言うジン。しかし少し考えてから付け加える。
「ま、流石にそろそろ潮時かもしれねぇな。ヴァルキュリナならここまでの報酬も出してくれるだろ。後は俺らの機体をくれるかどうか、か」
そう言いつつ、内心ではケイオス・ウォリアー無しでもなんとかなりそうな気はしていた。
自信がついていたと言ってもいい。
傭兵だろうが冒険者だろうが運送屋だろうが建築の日雇いだろうが、とにかくどうにかなりそうな気はしていた。
「俺らならどうにかなるだろ。多分な」
ナイナイとダインスケン、二人と一緒に行くのは初めから前提である。
もちろん、二人も異論は出さなかった。
一緒に出発し、同じ釜の飯を食い、互いがいなければ互いが終わっていた時間を共有してきたのだから。
ゴブオが「ウェヘヘ」と笑う。
「くれるもくれないも、アニキ達の機体はもともと軍の物じゃありませんぜ。貰っていくのは勝手っスよ」
「はは、そういう考えもありか」
笑うジン。
「ここまでの給料だって、ケチりやがったら格納庫のブツをいただいて自己補填しちまえばいいっス」
へらへらしながら言うゴブオ。
「あー……そういう考えもありか?」
眉をひそめるジン。
「今からでもギッてきましょうかい? ある程度の目星はもうつけてありますぜ」
へらへらしながら言うゴブオ。
「始めからそういう考えだろ、お前……」
完全に顔をしかめるジン。
「まぁマジな話、明日にでも艦長さんに相談しようや。明日中に出ていく前提でな」
そう言ってジンは布団をかぶり、壁際に向き直る。
「ゲッゲー」
ダインスケンが鳴く。
ナイナイの泣き声はいつの間にか止んでいた。
そして翌日。
朝の訓練もせず、ジン達はブリッジに向かう。
だが――その途中で警報が鳴り響いた。
Cパンゴリンでは複数の警報を場合によって使い分ける。この時に響いたのは……
「敵襲か!」
ジンが忌々し気に吐き捨てた。
格納庫に駆け込むジン達。ゴブオが嫌そうに呟いた。
「マジやるんスか? どうせ出て行くのに……」
内心、ジンもそう思わなくはなかった。
「ねぇ、どうするの……?」
迷いと不安を隠せず、ナイナイがジンに訊く。ダインスケンは黙ってジンを見ていた。
だが――と、ジンは考える――まだヴァルキュリナへここを去る旨は告げていない。その状況で戦いを放棄すれば、された方にしてみれば騙し討ちで裏切ったとしか見えないだろう。
見えないと言うより、事実上そうなる。
「とりあえず機体に乗ろうや。ゴブオはあのカタツムリに座ってろ。まぁ各自、出たくなければ無理にとは言わねぇ。今日はな」
仲間にそう言い、ジンは自機・Bカノンピルバグへと走った。
操縦席に座ったジン。だがハッチを閉めるより先に通信が入った。
『お前達は出るな。敵の伏兵が後ろに回り込まんとも限らんからな』
ケイドからの命令である。
ふわりと操縦席へ飛んできたリリマナがジンに訊く。
「ねぇねぇ……どうするの?」
迷っているジンに、通信機越しのケイドの声が聞こえた。
『卑賎な魔王軍を蹴散らすぞ! 魔物あがりにできて我らにできなければ恥と思え! 続け!』
その失礼にも程がある言い草を聞いて、ジンの行動は決まった。
「……まぁ奇襲を警戒するのも正論ではあるだろ」
そう言って座席に深々と腰掛け、両手を頭の後ろで組んで、しばらく休憩する事にしたのだ。
「ええ……そんな……」
リリマナは狼狽えたが、ジンは「フン……」と呟き、目さえ瞑って動こうとしなかった。
REイズナーの2部で地球はグラドスに征服されてしまい、すっかり荒廃した世紀末になっていた。
だがEイジが戻るまでレジスタンスに巨大ロボと戦える武器はないので大規模な戦いが征服後に継続する事も無い筈だし、支配者の方々の服装も世紀末系。
つまり……グラドスの優位な文化は地球でいう所の「世紀末系」だったのだ。そう考えると辻褄が全て合う。
ゲイル先輩も地元ではダメージジーンズに革ジャン。屈強な胸元をあけて金属の肩当て。オープンカーバギーの助手席にジュリア姉さんを乗せ、埃っぽい荒野を疾走するドライブが定番のデートコースだ。
ジュリア「エイジ、ゲイルと隣町のサザンクロスへ行ってくるわ。食料品店で食べてくるから、貴方も今夜は適当にすませていてね」
エイジ「ああ、わかったよ。牙一族どもに気を付けてね姉さん」
淀んだ街角で僕らは出会った……!