最終話 出発 2
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
ジン:地球から召喚され、この世界で改造人間にされた男。
ナイナイ(ナイナ):異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた少年にして少女。
ダインスケン:異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた爬虫人類。
リリマナ:ジンに同乗する妖精。
オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。
ゴブオ:ジンについてきたゴブリン。
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。
リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。
エリカ:オーガーハーフエルフの整備士兼副艦長。
――スイデン首都の門――
街の門は、今日も出入りする人々で賑やかだ。
魔王軍が滅び、スイデン国がその中心を務めた事で、訪れる人の数も以前の倍では利かなくなっている。
それを差し引いても、今日は外が何やら騒がしい。
旅装束に荷物を背負い、ジンとナイナイは外への列に加わった。
「行くか」
ナイナイを見るジン。
「うん!」
満面の笑みで応えるナイナイ。
門の外に出る――その時。
何かが、ジンの肩へ舞い降りた。
「え、え?」
驚く二人の前で頬を膨らませるのは、リリマナ!
「二人だけで行こうなんて、許さないんだからねっ!」
そして二人は見た。
街の門の外がやけに騒がしかったわけを。
門の外へ伸びる街道。
その脇に浮遊しているのは、クラゲ艦Cオーウォー‥‥!
――クラゲ艦のブリッジにて――
居並ぶクルー達を前に‥‥二人とともに行くという面々を前に、ジンは面食らっていた。
「いや、なんでお前さんらが?」
鼻を「ふん」とならすのは艦長のリュウラ。
「ガストニアはスイデンの軍艦でしょ。こっちしか使えないから」
「そういう意味じゃねぇよ。なんで俺らの旅について来てくれるのかって話に決まってんだろうが」
特にこの少女はジンにとって不思議だ。彼女はレイシェルの友人であり、ジンの果てしない旅に同行する理由があるとは思えなかった。
しかしリュウラはぷいと横を向く。
「遠くへ行きたい気分だから」
リュウラの目は王城を見ていた。
そこにはレイシェルがいる。彼女はこの国で恋人を夫とし、家を支えていく。
リュウラは傷心旅行に出る事にしたのだ。
共に戦った仲間に同行してやるのは、ある意味、渡りに船だった。
付け加えるなら、好きな人に一生懸命ついていくナイナイへの好意は密かに高い。
酒飲んでは野郎同士で馬鹿な事を言って、敵が出ると力んで暑苦しい事を吠えだすジンには、正直、合わない物を感じているが‥‥。
一方、エリカは屈託のない笑顔でサムズアップ。
「レイシェル達からの仕事が終わっちまってさ。でも王様が、ジン達を助けるなら金出してもいいって」
「ヒャッハー!」「ヒャッハー!」「いくぜ行くぜいくぜぇ!」
モヒカンや棘ヘルムのエルフ達が周囲で歓声をあげた。何が目的の旅なのか理解しているのか。疑わしい。
「ま、ダインスケンが見つかったら三人まとめて連れて来い‥‥とは言われてる。そんぐらいの下心は王様にもあるって事さ」
椅子に腰かけそう言うのは――
「クロカ? 黄金級機制作の経験と実績で、もう世界最高の技術者の地位にあるお前さんまで?」
たまげるジン。
クロカは横目でエルフどもを睨みつけた。
「国からのお目付け役が一人はいないと不安だろ。こいつらだけに任せるってのはさぁ」
「だからってクロカが貧乏クジをひくのはスジが通らねぇ。今からでも引き返して、俺が話をつけて代わりに適当な奴を‥‥」
ジンがそう息巻いたのは――危険な旅とギリギリの苦難の果てに、やっと地位と名誉と高給を掴んだクロカを、己の完全な私情で出る旅に付き合わせる事が申し訳なかったからだ。
だがクロカは目を吊り上げて怒鳴った。
「嫌々来てると思ってるのか! 神蒼玉も黄金級機もスイデンに置いてきたくせに、私以外の誰がお前らの機体を造るんだよ! 頭悪いな! チクショウチクショウ!」
その通り。ジンもナイナイも愛機を置いてきた。
旅の風来坊が乗り回すには少々強すぎるとも思ったし、メンテナンスや修理を考えると、二人だけで扱いきれる物ではなかったからだ。
代わりにこれまでの戦いの報酬として金品は貰ったので、ケイオス・ウォリアーが必要な時には適当な機体を買えばいい。そう思って、二人は最小の荷物だけで旅立ったのである。
クロカの勢いにジンが気圧される。
それを見て、壁にもたれるオウキが「フッ」と笑った。
「納得して来ている奴しかこの艦にはおらん。察しろ」
ジンは疑わしげな目を向ける。
「お前さんも来るのか。もしかして、まだ元魔王軍とか気にしてるのか? もう誰もそんな事は覚えてねーぞ」
「だが性に合った生活という物があるからな」
悪びれずに言うオウキ。
「しょうがねぇ奴だな」
ジンもニヤリと笑った。
と、壁にあるモニターの一つが起動する。
映るのは格納庫にいるドリルライガー(戦車形態)。
『巨大な悪が倒れたとはいえ、世の中から全ての争いや災いが無くなるわけではありませんからね。危機が大きかろうと小さかろうと、苦境にある人には助けが必要ですから』
「お前さん、根っからの勇者だな‥‥」
感心しつつジンが言うと、ライガーがはきはきと応えた。
『お褒めに与り光栄です! 共に力を合わせて行きましょう』
そして部屋の片隅で、酒瓶を手に。
「‥‥」
ゴブオがシケたツラでベソかいて座り込んでいた。
「お前も来たのか」
ジンが言うと、ゴブオは頭をボリボリ掻く。
「あのですね。兄貴の下でねぇと、俺は人間の社会で生きていけねーんですよ。あーあ、世界最強の王様の下で好きなだけ食って寝る生活になると思ったのに‥‥」
「そうか。悪いな」
ジンは背負い袋を足元に置き、口を開いた。
希少な貴金属でできた小箱がギッシリ。
一つ取り出し、蓋を開けると、最高級の宝石類がギッシリ。
「王様達から貰った報酬だ。この袋が街の一つや二つ買える額だとさ。お前の退職金だ。好きなだけ食って飲んで寝る生活も、軍資金にしてゴブリン王になるも自由だからよ。今までありがとうな。これからの旅は、無理強いできる事じゃねぇ」
そう言ってジンは背負い袋ごとゴブオに渡した。
ゴブオはのろくさと背負い袋を掴み、やる気無く持ち上げようとした。
重い。
あっさり手を離す。
「退職金は、退職するから貰うもんスね。退職する時に。その時に‥‥」
そう呟いて、おずおずとジンを見上げた。
「それにまぁ、ダインスケンを探すの、嫌とかいうワケじゃないんで‥‥」
ブリッジの皆が笑った。
ある者は陽気に、ある者は静かに、ある者は大声をあげて。
クラゲ艦はゆっくりと、漂うように空を流れて進みだす。
どこへ行くのか、向かうのか。そして辿り着くのか。
それは誰も知らないが‥‥まぁ、悪い所ではないだろう。
(完)
というわけで本当に終了。
飽きたら適当にやめよう、と思って始めたけれど完走したぞ!一日一話読んでもほぼ一年かかる話数になっちまったけどな!
しばらく休憩。
またなんか思いついたら始めます。
とりあえずこんな作品を最後まで見てくださった方々、ありがとうございました。
ではまた会える日を祈って、しばしさようなら。




