127 淘汰 10
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
ジン:地球から召喚され、この世界で改造人間にされた男。
ナイナイ(ナイナ):異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた少年にして少女。
ダインスケン:異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた爬虫人類。
リリマナ:ジンに同乗する妖精。
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
レイシェルは見た。
砕けゆく世界樹の上に立ち尽くすサンダーカブトを。
その片翅が、付け根からもげているのを。
最終決戦のダメージはそこまで深刻であり、それが表面化したのがこのタイミングだったのだ。
「そんな! ここまで来て、そんな事って‥‥」
地上へ運ばれて離れてゆくGXウイングロードからのレイシェルのその叫びは、途中で途切れてカブトには届ききらなかった。
レイシェルの離脱を見送り、操縦席で一息つくジン。
飛べないならせめて彼女を助ける。それは果たせた。
だが‥‥やはり、ここまで来ての脱落に無念がこみあげて来る。
「よりによってここでヘバるのか。この程度のモンだったのか? もう少しだったのに、スジが通ら‥‥」
己の乗機に歯軋りするジンだが――その考えは途中で変わった。
脳裏に浮かぶはこれに乗っての激闘の日々。
どんな強敵のどんな攻撃にもぶつかって突破した戦いの記憶。
(なんだ‥‥コイツなら大丈夫、コイツならやれる。そう思って無茶ばっかやらせてきたのは、俺じゃねぇか)
(コイツは今まで応えてきたじゃねぇか)
(ここで駄目になったんじゃねぇ。ここまで、持ち堪えてくれたんだ)
だから、口から出たのは――
「今までありがとうよ、相棒」
変身が解ける。ジンの体は右腕以外、元の人間に戻った。
高度は落ち続け、周囲は震え、世界樹はどんどん砕け、足場は狭くなり続けている。
そんな中だというのに‥‥奇妙に、心が落ち着いていた。
(これならこれでいいのかもしれねぇ)
そうとさえ思えた。
だがふと、肩のリリマナが気になって、そちらを見る。
彼女と視線が合った。
妖精の少女は、一瞬どきりとしたようだが、すぐに笑って見せた。
「えへへ‥‥ナイナイに、ヴァルキュリナに、クロカにも悪いなァ。ジンと最後まで一緒にいるの、私だよ」
恐怖を隠せもしないくせに、彼女は茶目っ気を見せようとして笑っていた。
ジンはもう一度、歯軋りしなければいられなかった。
(後一人! 後一人でいい、それだけでいいんだ‥‥どうにかならねぇか!)
その時、世界樹が激しく揺れた。
(いよいよ終わりか!?)
焦り、振り向いたジンが見た物は――
「ダインスケン!?」
未起動のブースターを脇に抱えたSブレイドバジリスク。
そのすぐ側にはブースタードライバーが世界樹に突き刺さっている。
「そ、それでここまで来たのか? そういや、この戦闘で使ってなかったな‥‥」
目を丸くするジンに、ダインスケンは「ゲッゲー」と応えた。
いつも通りに。いつもと何ら変わる事なく。
ブースターは一基。機体は二機。
恐らく、力不足だ。
三角コーンを抱え、バジリスクに支えられたカブトの中で、ジンは笑った。
「もし帰れたら万歳だ。駄目だったら‥‥まぁ多分駄目なんだが‥‥その時は、三人で同じ世界に転生できる事でも祈ろうぜ」
「その時はね! 私もジンと同じ大きさで、ダインスケンもお話しできるようになったらいいな!」
リリマナも笑顔だ。さっきとは違い、もう恐れは無い。
「よっしゃあ! 行くからよ!」
ジンは叫んだ。晴れ晴れと。
カブトは跳んだ。全力で。
バジリスクはカブトの背中を突き飛ばした。全力で。世界樹の崩れ行く幹を踏みしめて。
バジリスクはブースターを掴むカブトの背中を全力で押したのだ。
跳ばなかったのだ。
ジンには、何がどうなっているのか、すぐには理解できなかった。
ジンは一緒に跳んで、無理を承知の帰還を試みるつもりだったのに。
ダインスケンはジンとリリマナを助けるために、死地に残って全力でカブトを押した。
ジンがふり向いた時。世界樹はついに粉々になり。ブレイドバジリスクは虚空に投げ出された。
燃えゆく無数の破片の向こうに、その姿が流れ、消えて見えなくなる。
「おい? おい‥‥おいぃ!!」
ジンのその叫びは果たして届いたのか‥‥?
既に飛行能力を失っていたカブトだが、もしジンが一人なら、それでもダインスケンを追ったかもしれない。
けれど、肩で呆然とするリリマナに、絶望の底でやっと拾った命を一緒に捨ててくれとは‥‥ジンには言えなかったのである。
――崩壊する世界樹が遠目にやっと見える宙域では——
「あれ! レイシェルさんだよ!」
ブースターで地上に向かいながら、ナイナイは遠く後方に黄金の機体を見つけた。モニターにはその機体名・GXウイングロードが表示されている。
「お嬢は無事か。ならあの三人もなんとかなるだろ」
ジルコニアはそう言いながら、モニターに送られたメッセージを再度見た。
送信者はダインスケン。ナイナイとノブが止める間もなくドライバーブースターで飛んでいく、その直前に送信したメッセージ。
<だいじょうぶだおれがいく>
ジンもナイナイも、旅の途中、身の振り方に悩んだ事がある。戦う事に疑問をもったり、嫌になったりした事がある。
ダインスケンにそんな事はなかった。いつも二人について来て、一緒にいただけだ。
彼の旅の目的も理由も、最初から一つしかなかった。
兄弟よ、お前のためならば。
ただそれだけだ。
この日。この時代の魔王軍との戦いは終わった。
ダインスケンは、勝った。
設定解説
・ブースターは一基。機体は二機
ダインスケンの予定では、一基のブースターにバジリスク・カブト・ウイングロードの三機でしがみつき、カブトとウイングロードの飛行能力で補助しながら地上を目指すつもりだった。
この方法でなら帰還の成功は十分にあった。
現場についてみたらウイングロードはいないしカブトは飛べなくなっていた。
なお急行前に文字でメッセージを送ったダインスケンだが、発声できないからといって文盲なわけではないので、やろうと思えばこれまでも筆談は可能だった。
だがジンとナイナイは自分の意思を理解してくれるので、誰かと筆談する必要を感じておらず、今まではただやらなかっただけなのである。




