119 淘汰 2
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
ジン:地球から召喚され、この世界で改造人間にされた男。
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。
リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。
ディーンから笑みが消えた。
それでも彼は見下すような態度を改めない。
『断言しますが、インタセクシルに存在するいかなる物をもってしても、わたしがここに伸ばす蔓一本さえどうにもなりませんよ?』
絶望をつきつけるその言葉。
だがレイシェルは感じていた。
こちらを屈服させたい意思を。
しかし真に絶対であれば、言葉での優位は必要無い。
黙って力を行使すればいいのだ。
そう感じ、さらに思う所もあって――レイシェルはそれを口にした。
「ええ、惑星間を超えて伸びる蔓なんて考えた事もありませんわ。どうやって光の速さを超えて来るのかしら」
訊かれたディーンは嗤う。とても嬉しそうに。
玩具を見せびらかす子供のように。
『超能力の一種とでも言おうか。時間を圧縮する力があれば容易い事さ。秒速0.3mmで伸びる事さえできれば、1000000000000倍ほどの変換で光速になるだろう? その倍率をさらに上げるパワーがあれば、どこまでも光を超えられるとも。そしてわたしのパワーは、お前達から見れば無限大に等しい』
レイシェルはカマセイル隊のエンクを思い出した。
彼も同じような時間干渉能力で光速攻撃を実現していたが、アザナワンの星間移動はそれと似たような事らしい――規模が文字通りの桁違いなだけで。
「植物が超能力?」
しかしそこが腑に落ちない。
そんなレイシェルへ、ディーンの口調がわざとらしく優しい物になった。
『なぜできないと思う? 生物である人間に、他の種族やモンスターに、超能力や魔法やスキルを使う事ができて‥‥なぜ植物にはできないと思ったんだい? 脳の有無かな? 脳細胞とて、生物のもつ器官の一つでしかない――他の生物が機能の一部を他の器官で代用できないという決まりは無いさ。アザナワンは人間が科学や魔法で行う様々な力を、直接備えるまでに進化した植物‥‥それだけの事だよ』
その目に陰湿な輝きを放つ。
『そしてその力でここに達するんだ。その時、この星の全生命体はそこで終わる』
それらをひとしきり聞いて――レイシェルは言った。
「でもまだここに達していませんわ。そして目を逸らさせるのは、今すぐここには届かないから。アザナワンが星を見つけてから捕えるまで‥‥時間の隔たりがありますのね!」
さらにリュウラがディーンを睨みつけて続ける。
「もう一つ不自然がある。そもそも、あんたは何? アザナワンがまだここに達していないなら、その一部みたいに振る舞っているあんたは一体?」
一転、ディーンの表情が不機嫌になった。
『答える必要はありませんね』
何か面白くない事をつついたのは明白だった。
しかし――別のアミルアリアンが少し離れた木の洞から姿を見せる。
その機体から通信が送られ、モニターにディーアの顔が映った。
『まぁ答えてもいいけどね』
『な、なにを!?』
狼狽えるディーン。
それを見て、リュウラが小さく呟いた。
「アザナワンの一部の割には互いの意見が食い違うのね」
そこへ第三のアミルアリアンが姿を見せた。
先の二機から少し離れた洞から出てきたそれの操縦者がモニターに姿を映す。
『アザナワンに知性や人格など無いからな。細胞の一つが現地の生物を吸収し、各個体の知恵という能力を利用しているだけよ』
かつて賢者タレスマンであった、屈強な大男だった。
彼は天を‥‥星空を見上げる。
『疑問の答えだ。インタセクシルに来たのは先遣と先導を務める一細胞に過ぎん。無限に増大する宇宙空間の中、捕食対象となる星を効率的に見つけるため、発信器の機能を持つ胞子を無数に放つ。その一つがこの星を見つけ、達したのだ』
そして背後へ、かつて世界樹と呼ばれていた木へ目を向けた。
『星に着いた胞子は信号を送る。現地にて滋養を吸収しながら、アザナワンの蔓に。それを感知し、蔓は導かれて伸びる。そしてやがては星に達し、全てを吸収しながら、アザナワンへと引っぱり込むのだ。ただの岩の塊になるまで吸収し尽くして――再び胞子を放つ。次の獲物を求めてな』
その言葉を受けて、ディーアが続けた。
『たまたま触れる星があるまで蔓を伸ばし続けても、いつ獲物がかかるかわからないわ。だから無数の胞子を放ち、先に目標を見つけておくの。けれど星自体、宇宙空間を時速数十万キロで動いているからね。常に位置情報を明らかにしないと見失ってしまう』
それを聞いて、レイシェルは理解する。
「ならば、蔓が達する前に胞子を砕けば‥‥」
リュウラもわかったようだ。
「蔓は星に達する事なく、明後日の方に伸び続ける。インタセクシルは助かるわ」
タレスマンは、はっきりと頷いた。
『完全無欠ではないと言ったな。その通りだと認めておこう。完璧も、絶対も、生きるという根本的な目的にはしょせん不要な物でしかない』
しかしディーンが苛々と言い放つ。
『だから勝てると思うなら、それは別の話ですよ』
その言葉に応じ、新たな影が姿を現した。
魔王機アミルアリアンの影が。
しかし今度は一つでは無かった。
獲りつかれた世界樹の、あちこちにある洞から、一斉に現われたのだ!
「他の暗黒大僧正‥‥」
リュウラの声が緊張している。
十体を超える魔王機の群れを前にして。
一方、ディーンは余裕を取り戻し、高らかに嗤っていた。
『そう! その通り! このインタセクシルで吸収された者達! さらにはそれ以前に、他の星で吸収された者達! アザナワンの細胞には、過去吸収した無数の獲物が記憶されていますからね!』
そこへ割り込んでかかる声。
「なるほどな。ついに敵全機がボスのステージになったか。ラスボスは‥‥その木の中にでもいるのかよ?」
何時の間にやら、Cガストニアの背中の上にケイオス・ウォリアーが立っていた。
先頭にいるのはGサンダーカブト。そのすぐ後ろにはSパールオイスターとSブレイドバジリスク。
強化パーツを装備し終えた鬼甲戦隊が、臨戦態勢をとっていたのだ。
Cオーウォーの周囲にも、Sフェザーコカトリス、Sトライスタッグ、ザウルライガーの姿がある。
二隻の艦とも、戦闘準備は整っていた。
それを見ながら、タレスマン機は背後の洞を肩越しに指す。
『胞子ならこの奥にある。それ自体に戦闘能力は無い。今のお前達なら容易く破壊できるだろうな』
「で、あんたはそこからどかないし、こっちには魔王機の群れがどつきに来てくださる、と」
ジンが訊くと、タレスマン機は今度は上を――星の向こうを指さした。
『そうだ。さらに教えておこう。根がインタセクシルに達するまで――正確には、信号が不要になる距離に入るまで。あと一週間も無い。お前達が敗れた場合、お前達を超える戦力を数日内に用意できねば、あの星は助からなくなる』
苦々しく呟くリュウラ。
「‥‥事実上、私達が最後の綱なのね‥‥」
「ありがとさん、教えてくださり感謝するからよ。後は、冥土の土産をお話してくださった方は敗北するというジンクスを信じるだけだな」
ジンがそう返した時、Cオーウォーから黄金の機体が出撃した。
レイシェルのGXウイングロード‥‥二隻の艦が有する、現在最強の機体である。
最終決戦の準備は整った。
両軍、僅かの時間、静かに睨み合う。
遮る大気の無い、どこまでも広がる星々の海。
その下でついに、両軍が激突した――!
設定解説
・発信器の機能を持つ胞子を無数に放つ
順番としては、胞子を放って捕食対象の星に目印をつける能力を得てから、だいぶ後になって
胞子が現地生物を吸収して操り、攪乱行動を起こさせる能力を得た。
ただひたすら蔓を伸ばしていた→獲物に目印をつけるようになった→目印を守りつつ、獲物に住んでいる住民に邪魔させないよう、吸収・操作の能力を開発した‥‥という順番になる。




