118 淘汰 1
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
ジン:地球から召喚され、この世界で改造人間にされた男。
ナイナイ(ナイナ):異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた少年にして少女。
ダインスケン:異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた爬虫人類。
リリマナ:ジンに同乗する妖精。
ヴァルキュリナ:ジン達を拾った女正騎士。竜艦Cガストニアの艦長。
クロカ:女ドワーフの技術者。Cガストニア所属。
ゴブオ:ジンについてきたゴブリン。
アル:冒険者の少年戦士。
パーシー:スイデン国所属の少年騎士。
コーラル:スイデン国所属の青年騎士。
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。
リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。
エリカ:オーガーハーフエルフの整備士兼副艦長。
オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。
大気の層を突破し、さらに上へ。
三角コーンを被った二隻の艦は、下に地平線の弧を、上に無数の星を見る。
「本当に大気圏外まで出てしまいましたわね‥‥」
ブリッジで戸惑うレイシェル。
オウキがメインモニターへ鋭い目を向けた。
「どうやら真の本拠地が見えたようだ」
艦の遥か前方に何かの塊があった。
まだ引力圏内だというのになぜか落ちる様子もなく、宙の一点に留まっているように見える。
その塊は、巨大な盆栽のようだった。
斜めに傾いてはいるが、城よりも大きな木である。
だがその幹には蛇か百足のような蔦が絡みつき、食い込み、縛りあげている。
根は巨大な岩塊を掴んではいるのだが、その岩にも幹を絡め取っている蔦が食い込んでいた。
驚き叫ぶリュウラ。
「あれは! 世界樹ユグドラシル!」
故郷の本で見ただけの知識だが、その姿は挿絵の載っていた、この世界の植物の祖。神々よりも古い霊樹の筈であった。
艦に通信が入った。
世界樹から、である。
『そうだ。この星に届いたわたしが、最初に得た獲物だよ。無数の星を食らってきた宇宙の大樹が、この星最大の木を食らった。そこからこの世界の滅亡は始まっていたというわけさ。まさにアザナワンとインタセクシルの関係に相応しいだろう? レイシェル』
嗤いの混じるその声の主がモニターに映った。
ディーンが細い目から、見下すような視線を向けていた。
「兄様! あなたの故郷をあなたが滅ぼすんですの!?」
レイシェルは声を荒げる。
だが何がおかしいのか、ディーンは身を捩って笑った。
『困った子だな、レイシェル! わたしがまだ、たった一つの星の、限られた陸地の、片隅にある国の、たった一個の生き物だと考えているね! わたしは無数の世界を食った超存在だというのに! たった一つの星の神など塵芥に等しい、神魔を超越した生命体だというのに!』
レイシェルは‥‥唇を噛んだ。
「そう‥‥もうディーン=クインでは無い、というのね。ならば、私の愛する兄様の姿と体を、この手で取り返しますわ!」
『いいね! そのテの言葉は永劫の時の中で数えられないほど聞いたよ。その記憶が既にわたしには有る! 無数と無限の中に、消えるがいい!』
既にディーンは勝ち誇っていた。
兄の顔でのその醜悪な笑みと、兄の声でのその奢り高ぶった物言いを前に、レイシェルは平静を保てなかった――いや、自ら怒りに身をゆだねる事にしたのだ。
これだけはどうあっても、今ここで討たねばならない。
「いきますわよ! みんな!」
レイシェルは仲間達に声をかけた。
彼女にとっての、この世界にとっての、この時代にとっての、最大の決戦が今始まる‥‥!
‥‥筈だったのだが、側のサブモニターにジンが映った。
『まだ待ってくれ! 外は宇宙判定らしいからよ、地形適応パーツを揃える必要がある! 悪ぃ!』
「え!?」
大きな目を丸くするレイシェル。
モニターの向こうは、Cガストニアの格納庫だ。
そこでアイテム作成の壺に手を突っ込み、クロカが困った顔でかき混ぜている。
『インタセクシルの兵器は宇宙運用を前提にしてないからなー。ケイオス・ウォリアーは宇宙B、艦にいたってはCだぞ』
そんなクロカの側で、ジンが焦りを隠さず叫んだ。
『急げ! 宇宙Sにするパーツを早く要る数だけ造ってくれ!』
『Aも混ぜていいよな? COCPにも限りがあるからさ‥‥』
手を動かしながらも溜息をつくクロカ。
ジンは拳を震わせる。
『くそう、どうせ敵は宇宙生物だからSだろう。こっちだけ宇宙Bで戦わされるなんざスジが通らねぇ!』
「あ、あの、ちょっと‥‥?」
呆気にとられながらも声を絞りだすレイシェル。
だが別のサブモニターにアリスが映った。
モニターの向こうは、Cウォーオーの格納庫だ。
そこでアイテム作成の壺に手を突っ込み、アリスが必死な顔でかき混ぜている。
『戦場がいきなり宇宙に出ましたからね。今までそんな物が必要だと思っていなかったんでしょう、全然用意されてませんよ!』
側でドリルライガーがランプを点滅させて応えた。
『故郷で宇宙戦闘もやっていましたから、自分は宇宙A判定のようですね。しかし今回は空適応を上げる強化パーツは要りませんし、別の物に変えようと思います』
『それ後な! 今は【スペースアジャスター】を作るのに忙しくてさ!』
そう言いながら、エリカができたばかりの強化パーツを台車に乗せて走って行った。
ガストニア側のモニターに、リリマナが顔を映して両掌を合わせる。
『ごめん! もうちょっと引き伸ばして!』
「‥‥」
レイシェルはメインモニターに目を移した。
ディーンは何も言わずニヤニヤしている‥‥ちょっと手持無沙汰気味だが。サブモニターは角度的に見えないので、とりあえずレイシェルの次の反応を待っているのだろう。
レイシェルはキリッとした顔を頑張って作って訊いた。
「兄様。魔王軍とは何だったんですの? 全てを食い尽くすのに、なぜ地上征服を目指す必要があったんですの?」
一瞬怪訝に『かかってこないのか?』と小さく呟きはしたものの、ディーンは再び可笑しそうに答える。
『目指していないよ。そんな物は』
「え?」
理解できないレイシェルに、ディーンはわざとらしく優しい声で教えた。
『適当に、この星の住民を戦わせておくための組織‥‥それがこの時代の魔王軍だよ。星の住民達が余計な事に目を向けないように。目の前の戦いに必死になるよう誘導するための、ね』
「た、戦わせる事自体が目的?」
やはりレイシェルには理解できない。
ディーンは頷く。
『正確には余裕を無くす事、かな。わたしがこの星に伸ばす魔手に気づかれると、文明レベルの高い住民はいろいろと対策を講じようとする。それでかつて食い逃した星もほんの極僅かだが有ったんだ。しかし――高度な文明を持っていても、目の前に別の敵がいて戦っている種族は、わたしの接近に気づかないのさ。手遅れになって始めて慌てて‥‥そのまま食われる』
そして得意げな、厭らしい笑顔を見せた。
『長い時間の中で、わたしはそれを学習した。だから新たな星に目をつけると、そこで強大な敵を造りだしてけしかける。この世界の魔王軍も、そうした行動パターンで作った‥‥派手なだけの目晦ましさ!』
なぜ強大な戦力の割に、管理や運営がずさんだったのか。
なぜ人類側への要求が全く無く、攻撃あるのみなのか。
なぜ人類側が有利になる度に、対抗するように攻勢が激化したのか。
軍が勝つ必要など無かったからなのだ。
この星の住人同士、どちらが、誰が勝つでもなく、ただ争乱の中にあれば良かったからなのだ。
レイシェルは――呆然としていたが、立ち直り、そして言った。
「そういう事だったのね。わかりましたわ。アザナワンが完全無欠とはかけ離れた存在である事も」
ディーンの顔から笑みが消えた。
設定解説
・文明レベルの高い住民はいろいろと対策を講じようとする
光速を超えて近づく巨大物体を感知するような文明は相当に高い技術レベルを持っている。
その中には星ごと回避や逃亡を試みた文明もあったのだ。
昔のアザナワンは蔓をただ伸ばして、触れた星を食っていただけなので、星が蔓の進路上から外れたり、異空間に退避されたりすると、そのまま通り過ぎて取りこぼしてしまった。
それに適応し、現地生物を取り込んで自分を構成する一細胞にしてしまう能力が、ここまでにアザナワンが達した進化の一つである。
現地生物達の撹乱を行う事により、餌(星)を取りこぼす事はほぼ無くなった。




