113 神意 4
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
エンク:枝分かれした麒角を持つ精悍な青年。光速戦闘を可能とする能力者。
ラン:長い赤毛の後ろ髪に孔雀のような尾羽の混ざった、強気な目つきの女性。無限再生と敵を即死させる能力を持つ。
サイシュウ:メガネをかけた陰険そうな猫背の禿。ただし頭皮は黄色い。望んだ物を消去する能力者。
雪原のすぐ上までゆっくりと降下する天空の城。
そこから多数のケイオス・ウォリアーが飛び出し、次々と雪上に着地した。
城へと迫る怪獣の群れと戦うために。
それより僅かに遅れ、城の最も大きなハッチが開く。
中から出てくるのは二隻の軍艦、CガストニアとCオーウォー。どちらも巨大な三角コーンを被っている。
そのコーンが急速に回転し――二隻の艦は斜め上に、天へと矢のように放たれた。
城を射抜いた光線の来た方へ、大気を貫いて真っすぐに。
だが空を飛べる怪獣ども、巨大な鳥や虫が宙へ舞い上がりそれを阻もうとする。
その中には空戦大隊長の黄金級機・Gエリアルターミガンの姿もあった。
しかし連合部隊の飛行型機が壁となり、怪獣どもと激突する。
乱戦の中、大隊長機のターミガンへ挑む兵達もあった。
『ぬうん!』
しかし黄金の鳥人が翼と両腕を広げて回転すると、全てを砕く竜巻と化し、連合部隊の青銅級機をまとめて粉砕する!
だがその竜巻へ、青い光の矢が刺さった。
ターミガンは己の生み出した竜巻から弾きだされ、雪原に降り立つ。
その前に光の矢の正体――渾身の跳び蹴りを放ったEムーンシャドゥが着地した。
「貴方の相手はこっちだ」
シャドゥから呼びかける声を、ジェネラル・ルードは思い出した。
『ノブ、と言ったな』
「そうだ。聞きたい事がある」
『戦いは始まっているぞ!』
叱咤するかのようなルードに、しかしノブは問いかける。
「終わった時には聞けないかもしれない。だから今だ。ジェネラル・ルード‥‥貴方は何が目的で魔王軍にいる? この世界の全てを食い尽くす奴の下に、なにゆえ? 貴方も死ぬのだぞ」
ルードは頷いた。
『私も、他の物も全てがな。インタセクシルはこの世から消える。しかし、ここにあるのだ。無数の住人があったのだ。このままではそれらが全て消えるのだ』
文字通りの、世界の終焉である。
人間の国家や社会が壊滅するこの世の終わりとは物が違う。
本当に、何一つ残らず無くなってしまうのだ。
『脱出も考えた。だがこの世界には他の世界へ行く術が確立されていない。他の世界から無数の召喚を行っておきながら、行くとなると未完成だ。宇宙へ出て他の星へ行く技術も無い』
そういう方向に技術が進歩しなかったのだ。
星間航行技術を持つ世界から来た者もいたが、ほとんど身一つでの召喚である。宇宙開発を行わせる事などできなかった。
それにインタセクシルの住民達に、星の海へ出ていこうなどと思う者は少なかった。
『確実に残す事ができるのは‥‥記録だけだ。私の持つ神蒼玉に、この世界が滅びるギリギリまで、できうる限り、この世界の情報を入れる。そして滅亡する寸前に天空の彼方——宇宙へ撃ち放つ』
人が暮らす乗り物で宇宙を旅する技術は無いが、空の向こうまで小さな物を撃ち出す事なら、なんとかできない事は無い。
そこにこの世界の記録があれば、インタセクシルが有ったという痕跡だけは残る。
それがジェネラル・ルードが考えた、できうるせめてもの抵抗だった。
だがノブは納得できなかった。
「記録だけが、永遠に宇宙を漂う‥‥そんな事に意味があるのか」
だがルードの肚は決まっていた。
『この世界がこの世から忘れられる事だけは免れる。無限の時間の果てに、どこかの誰かが見つけ出す可能性は残る』
それでもノブは訊いてみた。
「ぶっつけ本番で、他の異世界だの他の星だのへ行く事に挑戦した方がマシではないのか」
それでもルードは拒んだ。
『それも考えた。だが私は確実に残せる方を選んだ』
と、ジルコニアが口を挟む。
「なんで魔王軍で大隊長やる必要があるんだ?」
それにルードは――意思と決意を篭めて――言う。
『最初は暗黒大僧正の情報を得るため。得た後は――魔王軍と、つまりは暗黒大僧正どもと敵対せぬがため、あえて残った。私はこの世界が滅びる瞬間まで、死ぬわけにはいかぬ!』
だがそれを嘲る者がいた。
『はん! 情けねぇ理由で鼻息荒くしやがって!』
ノブの後ろでは連合部隊と怪獣どもの乱戦が起こっている。
そこからのし歩いてやってくる機影が、三つ。
『なんだ? 貴様らは』
問うルード。
『へえ、覚えてなかったの。記録がどうとか言ったくせに』
機影の一つ、鳳凰の白銀級機からランの声が届く。
『以前、お前に敗れた者達だ』
麒麟の白銀級機からはエンクが。
『正直ビビッていたがよォ。そんな必要、なかったみてぇだな。なんだかんだで腰抜けて諦めてたんじゃねぇか、テメェも!』
そして空亡の白銀級機からはサイシュウの声が。
カマセイル隊が再び最後の大隊長の前へとやってきたのだ。
「おいおい、大丈夫かよ?」
疑わしそうなジルコニア。
だが三機はムーンシャドゥの横を通り過ぎ、エリアルターミガンの前に立ち並ぶ。
背中越しに、エンクからの通信が届いた。
『さあな。だがそこは問題ではない。俺達は、やるのだ』
後ろの乱戦からの喧噪。
それと隔絶したかのように、雪が静かに振り続ける。
その中でノブは三機の背中を見つめて‥‥頷き、呟いた。
「わかった。頼らせてもらおう」
と。
設定解説
・他の世界から無数の召喚を行っておきながら、行くとなると未完成だ
「どこの異世界へ行くのかわからない」レベルではなく「本当に転送できたのかわからない」レベル。
つまり「どこにも辿り着かず、時空の狭間で消滅したのかも‥‥」という程度なのだ。
強い勇者が必要だから発達した召喚魔法であり、勇者の輸出なんぞ考えていなかったので仕方がない。
他の世界にモンスターを供給する魔法、なんて物があるRPGをプレイした覚えがないので、こういう世界も多いと思う。




