112 神意 3
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
ジン:地球から召喚され、この世界で改造人間にされた男。
ナイナイ(ナイナ):異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた少年にして少女。
ダインスケン:異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた爬虫人類。
リリマナ:ジンに同乗する妖精。
ヴァルキュリナ:ジン達を拾った女正騎士。竜艦Cガストニアの艦長。
クロカ:女ドワーフの技術者。Cガストニア所属。
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
アリス:元魔王軍魔怪大隊長。
ディアブロ:精霊の一人にして、気ままな放浪者。
イシマル:小さな白蛇。その正体は大地系低級神の一柱。
最後の大隊長ジェネラル・ルード。それが語るアザナワン真なる敵の姿。
だがそれにジンは疑問を覚える。
「で、結局アザナワンてのは何が目的の何物なんだ」
星を侵食しながら無限に伸びる紐‥‥しかしそれが何なのかはまるでわからない。
細胞によって構成された生命体だと言う。
だがそんな物がなぜ生まれ、何を目指して星から星へ魔の手を伸ばすのか?
それにルードは答えた。
多分に諦めの混じった声で。
『目的など無い。強いて言うなら生きる事そのものか‥‥あれはどこかの星で生まれた植物の一種に過ぎないからな』
「植物!?」
素っ頓狂な声をあげるヴァルキュリナ。
星を貫き無限に伸びる紐が、草や木と同じ植物なのだと言う。
とても信じられた物ではない。
だがルードは言う。
信じさせよう、という熱意など無く、ただ淡々と。受け入れられないならそれでいい、とばかりに。
『そうだ。星全土を覆うほど生存競争に勝ち過ぎた個体。そして星と星の間を超える能力を身に着けてしまった生き物。あの糸はかつて蔓だった筈だが、無限の膨張を続けるうちに、今やアザナワンの本体といえる物になってしまった。星を食いながら伸び続ける無限の蔓だ‥‥』
「いやいや、植物の蔓が何で星を食ってんだよ!?」
ほとんど怒鳴るかのようなジルコニア。
『食虫植物というのがあってな。栄養の足りない地に適応した植物の種だ。理屈は同じ事‥‥故郷の星全土を食い尽くしたアザナワンが滅びを免れようと思えば、他の星に滋養を求めるしかなかったのだろう。食星植物‥‥そこまで進化できる可能性がどれほど微小かはわからん』
そう言ってから、ルードは『ふう‥‥』と溜息をつく。
『しかし宇宙には無限の世界がある。試行回数が無限なら、ゼロで無い事はどこかで成功するだろう。それがアザナワンだったというわけだ。見ろ‥‥ブラックホールもあの体たらく』
いくつものウィンドウに別れた映像の一つに、アザナワンの側にある黒い渦が映されていた。
巨大な光の霧に近づく、小さな黒い渦。近づくにつれ、ブラックホールの方が目方負けして引き伸ばされてゆく。
やがて黒い渦にも蔓が伸び、中に食い込み――渦が弾け、消滅した。
光さえ逃さない超重力を貫いた蔓が、その中央にある中性子の核を食い潰したのである。
ふとジンは気づいた。
「蔓が捕まえてないのに吸い込まれている星や銀河もあるな?」
『アザナワンの質量が生む重力——その圏内に捕らえられた星々が引き寄せられているのだ。無論、全てがやがて蔓に触れ、捕食される。どの銀河にも生物のいる星がいくつもあろうに‥‥それらはただ、星の通り道が悪かったというだけで滅びる。絶滅する。こうして話している、今この瞬間も。無数の種族が、世界ごとな』
ルードの説明は、どこまでも無慈悲だ。
『無数の星の集まりが銀河。その銀河——正確には食べ粕だが——が星ほども集まったのが、今のアザナワンなのだ』
「この世界で倒す事はできない、か。なるほど。ここに蔓が辿り着いた時点で終了だからな‥‥」
納得するノブの声は苦々しかった。
しかしナイナイは首を傾げる。
宇宙の知識などと無縁の世界から来た、というのもあるが――どうにも引っかかっているのだ。
「このインタセクシルにも、あの蔓が来ているの? でも滅びてないよね? なら暗黒大僧正達は何物なの?」
『蔓の一本が、今、ここに向かっている。それを誘導しているのが暗黒大僧正達‥‥』
そこまでルードが話した時――
天の果てから光線が撃ち込まれた!
それは天空の城を貫き、その一角を吹き飛ばす!
一瞬で恐慌に陥る城内。
「おいおい、空の向こうから不意打ちが来たぜぇ!?」
床に転がるディアブロが頭をふる。
同じく転倒していたヴァルキュリナが身を起こしながら窓の外を見た。
「もしや、暗黒大僧正達は‥‥魔王城ではなく空の向こうに!?」
とはいえ空には何も見えない。
雲と雪があるにせよ、そう近い場所ではないのだろう。
ジルコニアがアリスを横目に見る。
「魔王軍の本拠地はここって言ったよな? まぁ首領に別荘がある事を知らされてなかったんだろうけどさ」
アリスは床に突っ伏して泣き声で呻いた。
「うう‥‥酷い首領です。この星ごと食べられるなんて知ってたら加入しなかったのに‥‥」
「悪の組織の首領が酷くないわけないからよ」
転倒せずに踏ん張ったまま、ジンは肩を竦めて呆れた。
一方、ルードは険しい目を光線の放たれた方に向けた。
『お喋りはここまでか。やむを得ん、悪いが貴様等にはここで死んでもらおう』
だがしかし。
城の前にいた魔王軍の機体が、我先にと逃げていく。
まさに蜘蛛の子を散らすように、無秩序に、雪原を走って、あるいは飛んで、四方八方へと必死に逃げ出した。
「あれ? 兵士達が‥‥」
「あんな話聞いたら魔王軍で戦う気になるわけねーだろ。自分含めて全部食い尽くされんだぞ」
戸惑うパーシーにジルコニアが言う‥‥が、外からの咆哮を聞き、窓の外を見た。
兵士達は逃げてしまったが、怪獣どもはお構いなく迫ってくる!
溜息をつくジルコニア。
「知能の無い奴らはどうしようもねーなー」
当然、それを迎え撃とうと、混乱から立ち直りつつあった連合部隊は格納庫へ走った。
しかしその矢先、再び光線が閃き、城を貫く!
再度の攻撃により再び動揺が走った。
そんな中、ディアブロの焦った声が響く。
「やられた! もう高空には行けないぜぇ!」
二度の被弾により、ブースターを作るための歯車がいくつか吹き飛んだのだ。
全く動けないわけではないが、光線が放たれた高度へ向かう事はできない。
連合部隊の動揺が大きくなる。
だがジンは素早く指示を出した。
「艦の移動用ブースターがあるだろ。CガストニアとCウォーオーは暗黒大僧正との戦いへ行くからよ」
「地上は連合部隊が、という事だな」
ヴァルキュリナが賛同した。
「そういう事なら、行くぜ!」
威勢よく叫ぶグスタ。
やるべき道筋が見え、周囲の者達は次の行動に移った。皆が自分の機体へと、それが待機しているブロックへと走る。
そんな中、ノブが意外な事を言う。
「僕も先ずは地上だ」
「ノブ!?」
驚くレイシェル。
しかしノブは鬼甲戦隊とクイン星輝隊の面々に告げる。
「ジェネラル・ルードを抑える必要があるだろう。奴にはもう一つ訊きたい事があるしな。最後の神蒼玉も貰って来よう」
「でも‥‥!」
渋るレイシェル。
そんな彼女に、ノブは真っすぐ向き直り、その瞳を力強く見つめる。
「僕が居る所は君の側だ。他には無い。だから必ず行く。すぐに追いつくから先に進んでくれ」
レイシェルは顔を真っ赤にし「あうっ‥‥」と口籠る。
沈黙。ほんの僅かに数秒。
しかし頬を染めたまま、同じぐらい力強く見つめ返し、ノブへ頷いた。
「‥‥わかりましたわ。貴方の事だけは、何があっても信じますもの」
設定解説
・あんな話聞いたら魔王軍で戦う気になるわけねーだろ
なお本当に星ごと食われるなら、この場から逃げても何の解決にもならない。だから逃げる意味は無い。
‥‥という指摘はこの回のこの場面では無用だ。
そんな事を冷静に考えられるほど知能の高い「下っ端の魔物兵士」はこの軍にはいないだからだ。
まぁもし考えつけても、諦めてその場で不貞寝するぐらいしかやる事はなくなるだろう。




