102 双星 1
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
ジン:地球から召喚され、この世界で改造人間にされた男。
ナイナイ(ナイナ):異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた少年にして少女。
クロカ:女ドワーフの技術者。Cガストニア所属。
オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。
リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。
アル:冒険者の少年戦士。
パーシー:スイデン国所属の少年騎士。
グリダ:鶴獣人の賢者。
老人:ナイナが転がり込んだ、ボロ長屋の一室の持ち主。実は大国の前王ディーヴだった。
ジン達が帰還した、その日。スイデン国の王宮は揺れに揺れた。
行方不明だったナーラー王族の前天王を連れて帰った衝撃はあまりに大きかったのだ。
その日のうちにスイデン王の面前に出されたナーラー前天王ディーヴは、司祭か神官のような衣——古いナーラーの正式な王族の衣装——を来て、威風堂々と胸を張って語った。
魔王軍首領・暗黒大僧正の、掴んだ情報の全てを。
「他の世界から来て、人の魂を蝕む魔神とでも言うのか‥‥」
茫然と呟くスイデン国王。
(そういう形での理解になるか)
ジンがそう思っている間に、ディーヴ前天王は土にまみれた箱を取り出した。
「もはや我には不要な物。スイデン王よ、そなたの国の勇者にこれを託したい」
そう言って箱の蓋を開く。
深い青色に輝く宝石。虹色の光彩を帯びた球。
ノブが呟いた。
「一つは神蒼玉だな。もう一つは‥‥データ記録用の球か」
頷くディーヴ前天王。
「神蒼玉を密かに確保していた我が国が、途中まで作り、未完成で終わった‥‥黄金級機の設計図よ」
周囲にいた大臣達と騎士達が驚愕の叫び声を、王の間だというのに思わずあげた。
王が玉座からずり落ちそうになる。
「こ、腰と心臓がいっぺんに抜けて落ちるかと思ったわい‥‥」
(もしや三大国でナーラーが真っ先に叩き潰された理由は‥‥娘さんが同化された事に加えて、この二つか‥‥)
ジンはそう思ったが、口には出さない事にした。
――スイデン国、王城のドック内――
ジンは神蒼玉を手にしていた。
それを見守るのは鬼甲戦隊とクイン星輝隊の面々、ナーラー前天王ディーヴ。
ジンはナイナイをちらと見た。
ナイナイは今、少年の体に戻っている。
やたら肌の出た露出の高い服はやめ、スイデンの軍服を着用していた。
とはいえ少々手を加えてあり、上着はノースリーブ、胸元にリボンがあり、下はキュロットだったりと、所々に控えめな露出や女の子らしさがあった。
これはリュウラが「性別が変わる体質なら、両方で使える服にすべき」となぜか進んで忠告し、あれこれ提案してくれた結果である。
だがジンが見ているのは服ではない。
(ナイナイが変身能力を制御できるようになった切欠があるとすれば、やはりこれだろう)
握った神蒼玉に視線を落とす。
(ノブの兄弟子もこれを使って変身能力を得たと聞く。今まで考えた事もなかったから何の影響も無かっただけで、俺が望めば、もしかしたら‥‥)
宝玉を握る手に力を籠め、ジンは全身に力を入れて叫んだ。
「変身!」
宝玉が光った!
周囲がどよめく中、ジンの体は見る間に変化していく。
着用している衣服が皮膚と同化し、鎧へと変化する。だがその鎧は生物の甲殻で造られたジンの肉体の一部だ。
筋肉めいた形状の外骨格に覆われ、ジンの首から下は完全に異生物、異形の魔人と化した‥‥!
「これが‥‥俺の戦闘形態か」
全身にこれまでと段違いの力が漲る。
そして、険しい顔で呟いた。
「でも違うんだ‥‥俺、右腕を人間にしようとしたんだがよ」
ジンのその呟きに、ノブが首を傾げる。
「力んだのが良くなかったのかもしれんな?」
深呼吸して、ジンは全身から力を抜いた。
人間の肉体をイメージして、戻るように念じる。
当然、右腕も含めてだ。
そして――ジンの姿は戻った。
服も右腕も今まで通りに。
やっぱり甲殻に包まれたままの右腕を見下ろすジン。
「中途半端に変身していたわけじゃなくて、今までが【人間形態】だったのか‥‥」
人間型になっても右腕だけは異形であり、戦闘形態になっても首から上は変わらない。試作品ゆえ、変身前・変身後自体に欠陥があり、100%の完全な変身は元々行えなかったのだ。
「‥‥実験は失敗か。もういい。ありがとうよ」
ジンは神蒼玉をレイシェルに返した。
受け取った彼女は眉を寄せて困った顔を見せる。
「私が自分の機体に使うぶんは、ご先祖様が残してくださった物がありますわ。だからこれは他の人に役立てる事ができれば‥‥と思ったんですけど」
「それは悲しいな。儂はナイナかレイシェル殿に使っていただきたくて渡したんじゃが」
老ディーヴが溜息をつく。
クロカが腕組みして考え込んだ。
「神蒼玉が六つもあるのはいいんだけどなー。鬼甲戦隊は三機とも強化済み、ノブとレイシェルの機体に使っても後一つ残る‥‥じゃあ誰の機体にって話だけど‥‥」
リュウラが口を挟む。
「Sトライスタッグには使えないわ。あれを【ゴールドライド】させようと思ったら三つ要るもの」
「やっぱ合体機って不便じゃねーか‥‥」
呻くアル。
「ライガーに使うのが良さそうですね」
肩を落としながらもパーシーは言った。
しかしドリルライガーは‥‥
『私もタイタンケラトスもケイオス・ウォリアーではありませんが。使えるのですか?』
ランプを点滅させながら疑問を口にする。
ノブが考え込んだ。
「ふむ。少し難しいかもしれないな。規格が違う」
『ならばSフェザーコカトリスを強化しましょう』
ライガーはそう提案するが‥‥
「私には要らん」
オウキははっきりと断った。
「なんでだ?」
ジンに問われると、当然のように言う。
「魔王軍からの離反者だ。そんな貴重品を恵んでもらう気は無い」
呆れるジン。
「まだそんな事を言ってんのか。もう誰も気にしてねぇだろ」
「いや、まぁ、そりゃ過去の事だけど。お前は拘らなさすぎだろ‥‥」
クロカが溜息混じりに言った。
一同があれこれ相談していると――
『お取込み中、失礼しますよ』
そう言ってドックへ入ってくる物があった。
触手と節足の蠢く金属の箱、それは‥‥
「師匠!」
ノブが思わず声をかけた通り、大賢者トカマァクであった。
「おっと、俺達が中々戻らないから来てくれたのか」
ジンが訊くと大賢者は体を縦に揺すって頷く。
『ええ。特攻用ブースターは艦に合わせて調整しますからね。ある程度の部品を造ったので、こちらで組み立てをしようと思いまして』
その言葉と共にドックのシャッターが開いた。
外から入ってくるのは、運搬用のゾウムシ――ノブが艦を手に入れるまで使っていた物である。
その操縦席から身を乗り出し、手を振るのは、アルの姉のグリダだった。
「アル君! お姉ちゃんも来たよ!」
ドックにコンテナを牽くゾウムシを停め、グリダとヨルムン、二人の協力者が降りて来た。
「やっぱり師匠みたいにはできなくて、作成にはまだ二、三ヵ月はかかりそうなの。ダメなお姉ちゃんでゴメンね‥‥」
「うーん、でも造る物が特殊すぎて仕方ねぇよ」
アルが姉を慰めていると、ヨルムンがジン達を見渡す。
『それについてなのだが、この中に宇宙船を造った経験のある方はおらんかな? 乗り物を大気圏離脱させる装備の知識があれば流用できるのでな。手伝ってもらえれば工期が短縮できそうなのだ』
「そりゃ耳よりな情報だが、ちとハードルが高いな」
溜息をつくジン。
召喚者が大勢いるインタセクシルではあるが、特殊な技能をたまたま持っている者に出会える可能性は低い。
が、そこで半人半虫の異星人シュリテイスが手の内の一本を上げる。
『私で良ければ手伝うが。故郷で乗っていたし、整備もしていたぞ』
可能性は低い。
だがそれは居ないという事ではなかった‥‥!
設定解説
・これを使って変身能力を得たと聞く
ゴッドサファイアは本来七つ集めて神の武具一式を召喚するアイテム。
しかしその召喚は「謎空間バンクの中で光線が何度も閃いて勇者の全身に最強武具が装着される」という、一種の「変身」でもある。
そのため全ての宝玉に、空間・転移・時間・変化・変換・情報処理の各種魔力が色濃く備わっているのだ。
作中の「現在」ではハナからロボットのジェネレーター部品にするつもりで扱っているため、これら本来の魔力を人間が生身で使う事は忘れられて久しい。




