100 再起 9
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
エンク:枝分かれした麒角を持つ精悍な青年。光速戦闘を可能とする能力者。
ラン:長い赤毛の後ろ髪に孔雀のような尾羽の混ざった、強気な目つきの女性。無限再生と敵を即死させる能力を持つ。
サイシュウ:メガネをかけた陰険そうな猫背の禿。ただし頭皮は黄色い。望んだ物を消去する能力者。
老人:ナイナが転がり込んだ、ボロ長屋の一室の持ち主。実は滅んだ大国の前王だった。
ジンとナイナが二人でいる間。
部屋の中では、リリマナが老人に話しかけていた。
「お爺ちゃん、お孫さんは魔王軍に操られてるんだよ。あの人が悪いんじゃないからね?」
「知っておるのかな?」
老人が片方の眉をピクリと上げた。
リリマナは頷く。
「ウン! レイシェルのお兄ちゃんも同じなんだ。操られてホントの魔王の部下にされちゃって‥‥」
老人の顔に陰がさした。
「操られて、か。それより手足そのものと言うべきなのだがな」
いつにない老人の雰囲気に戸惑いながらもエリザが訊く。
「それは、どういう事なんですか?」
老人の声が、どこか重くなる。
「魔王軍の首領、暗黒大僧正。その正体は誰も知らん。だからこそ知らねばならん、勝つために。儂らはかつてそう考えた」
「自分から過去を話すぶんにはいいんだよな?」
ジルコニアが訊くと、サイシュウは酒を呷りつつも頷く。
「自分からならな」
「調査隊を組ませた。隊は影から裏から、敵の首領の情報を集た。そのため、魔王軍の領域にさえ踏み込んだ」
老人の話は、同居人達でさえ初めて聞く内容だ。
「三大国の一つが誇る精鋭達じゃ。徐々に情報は集まった。世界樹を掌握した事、神々の国に出向いた事、秘境に居城を構えている事、名高き賢者と同一人物の可能性がある事」
ここまではノブやレイシェルも旅の間に得た情報である。
そしてこれも、だ——
「首領である筈の、暗黒大僧正もまた操り人形だという事」
「「「ええっ!?」」」
元カマセイル隊が驚愕の声をあげる。
だがレイシェル達は黙って次の言葉を待った。
老人は続ける。
「何かが背後にいるのじゃ。だが、操るというのは――そうとも言えるが、そうで無いとも言える。それは他者を蝕み、乗っ取り、己の一部にする。自我が残りはするが、己をそれと同一視して‥‥己の意思と思考で、背後に有る何かのために行動するようになる」
操られて影武者になっている。
そう指摘した時、女魔法戦士は笑いとばしていた。
彼女にとってはちゃんちゃらおかしな話だったのだろう。
彼女は、あくまで、自分のために行動していたのだから。
自分にして、自分を取り込んだ何かのために。
ではその何かとは――
「アザナワン‥‥どこの何語か知らんが、それの名前らしい」
老人は懐中から小さな水晶玉を取り出した。
魔法の道具、一種の記録装置である。
「幾つもの世界を渡り歩いてきたそうな」
老人が言うと、玉から宙へ、映像が投影された。
風景の画像がいくつか。
滅んだ文明跡だった。
建物、乗り物、街道。その形や様式、石材や金属。それらが違うので、別の場所の異なる文明である事はわかる。
見た事もない奇怪な建築物ばかりだが、全てが朽ち果て、無人となっていた。
見渡す限り一面、苔むし、地衣類とも菌類ともわからぬ絨毯に覆い尽くされている。
そして、遥か遠くに、巨大な柱が立っていた。地上から天空を貫きその頂は見えない、途方もなく巨大な柱が‥‥。
「どれもこれも、バカデカい柱しかねえぞ?」
「何かも絶滅してるわね。苔ぐらいしか残ってないわ」
サイシュウとランが揃って首を捻る。
ノブが老人に訊いた。
「この映像‥‥拡大はできないか?」
「無理じゃ。送られてきた映像を残してあるだけじゃからな」
首を振る老人。
エンクが逆にノブへ訊ねる。
「何か気づいたか?」
ノブは映像を睨んだ。
「先ず地を覆う苔だが、旅の途中で何度も戦った怪獣達にもそっくりな物が生えていた」
「あ! 魔王軍のモンスターにも、生えてる奴いるよね」
思い当たって声を上げるリリマナ。
「そして柱。遠くてはっきりしないが、所々に、紅い結晶が密集しているようにも見える」
ノブのその指摘に、今度はジルコニアが叫んだ。
「エイリアンズの機体にくっついてるアレか!?」
呆然としてレイシェルが呟く。
「あちこちの星をこんな有様にして‥‥宇宙からやってきたのが、黒幕のアザナワンという宇宙人ですの‥‥?」
「「「宇宙人!?」」」
元カマセイル隊の三人が、揃って目を丸くした。
半人半虫の異星人シュリテイスから聞いた、暗黒大僧正は宇宙から来たという情報。
レイシェルはそれを、スイデンに戻った折に仲間達へ告はしたのだが——ナイナが失踪したので棚上げ状態になっていたのである。
「調査隊は黒幕‥‥アザナワンの目的を掴めたんですの?」
改めてレイシェルは訊いたが‥‥老人は首を横に振る。
「この映像が最後じゃった。戻ってきたのは一人だけ。国のため一族のために自ら立候補した隊長、皇女の一人にして魔法戦士の‥‥我が孫娘、ディーアだけじゃった」
老人の目が遠くを見た。
「魔王軍を手引きし、最古の国ナーラーを一夜にして滅ぼした。逃亡する王家一族の前に立ち塞がって、その手で、親を、兄弟姉妹を斃した。もはや‥‥あの子ではなかった」
声からは、力が失われる一方だった。
「生き延びたのは儂だけじゃ」
老人が溜息をつく。深く、深く。
部屋を沈黙が覆った。
レイシェルは、老人の前に立った。
労わるように、だがはっきりと言う。
「前王様。私達に力を貸してくださいまし」
顔をしかめるジルコニア。
「うわ‥‥お嬢、またか‥‥」
ランはレイシェルへ食ってかかる。
「ちょっと! 年寄りに何をさせるの!」
「元三大国の天王ならツテなり何なりあるでしょう。できる事が無い筈がありません。このままここにいてはいけませんわ」
レイシェルのその言葉に、サイシュウが酒瓶を手に声を荒げる。
「いいじゃねぇか! 好きにさせろよ!」
「よくありませんわ! 孫娘さんを解放しなければならないでしょう! お爺さん!」
毅然と言い放つレイシェルのその言葉は、サイシュウではなく、老人に向けられていた。
老人は、射抜くような視線をレイシェルへ向けた。
「お嬢さんはお兄さんを、か?」
レイシェルは黙って頷いた。
はっきりと、力強く。
老人が一転して笑った。
おかしそうに、けれど穏やかに。
「他人事だと思いおって、と‥‥同じ目にあった者相手でなければ言えたのにのう」
老人は諦めた。
諦めの中へ無気力に引き篭もる事を。
諦めて、おそらく最後のこの鼓舞に、抜け殻になった身を委ねる事にしたのだ‥‥。
超久しぶりにFAイナルファイトを起動したが最終面に入る事さえできずにゲームオーバー。
腹が立ったのでコンティニュー連打で無理矢理クリアする。
市長のバックドロップを繰り出すため、このゲームは墓場まで持って行こうと思う。




