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異世界スペースNo1(ランクB)(EX)(完結編)  作者: マッサン
第三次 疾風怒濤編
322/353

99 再起 8

登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)


ジン:地球から召喚され、この世界で改造人間にされた男。

ナイナイ(ナイナ):異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた少年にして少女。

ダインスケン:異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた爬虫人類。

 ナイナは再び目を伏せた。

「それだけじゃ、ないもん‥‥」


「え? 今ので決まりじゃねーのかよ」

「ねぇナイナ、どうしてなのォ?」

 ジルコニアとリリマナが意外そうに言う。

 しかし、ナイナは辛そうに口篭ったままだ。


 と、ノブが切り出した。

「二人で話してはどうか?」

「そうするからよ」

 賛同したのはジン。

 ナイナの手をとると、強引に裏口へ引っ張ってゆく。

 ナイナは「あ‥‥」と小さな声をあげはしたが、抵抗せずに外へ連れて行かれた。


 他の者は——概ね戸惑いはしていたものの、遮る事はなかった。



——長屋の裏の路地——



 星の見え始めた空の下の、狭い路地の中の、暗闇に近い軒下で。

 ジンは壁にもたれた。

()()()()()()って事は、半分は解決したと思いたいが‥‥」


 ナイナも壁に、ジンの隣にもたれた。

「もう、ボクがいなくても負けないよね。クイン星輝隊(せいきたい)の人達がいるじゃない」

 横目でナイナを見るジン。

「それを言うなら、もう必要な()()なんて居ねぇぞ。俺も含めてな」


 戦力的な話なら、誰が抜けても他のメンバーがそれを埋められるだろう。

 ジンはそう考えていた。


 しかし、ジンはこう続ける。

「だがそれが理由ならいい。さっきも言ったが、戦いたくないならもういいんだ。危険を冒して戦うのが嫌だ‥‥という理由ならな。自分を責めて気に病んでるんじゃないかと、それが心配だったから来たからよ」

 ナイナは少し意外そうだった。

「そんな理由でなら、逃げていいんだ‥‥」


 ジンは頷いた。

「現状、誰かが戦わないといけないのは確かだ。だが()()でいいなら、俺でもいいだろう。俺はもう最後までやるつもりだからよ」

 そこまで言うと、瞬き始めたばかりの、少しばかりの星を見あげる。

「人が必死になるべき事なら、もっと他にもマシな道があるだろうからよ。探せばいいじゃねぇか」


 ナイナは‥‥そんなジンを、横目で見つめたままだった。

「大切な者なら、もう、あるよ‥‥」

「だな」

 空を見上げたまま頷くジン。


 ナイナが目を伏せ、俯いた。

「そのせいなのかな‥‥ボクの中に、変な所があるんだ」

「?」

 何を言いたいのかわからず、ジンは顔を横へ、ナイナへと向けた。

 ナイナは呟く。小さく、消えそうな声で。

「女になっちゃうこの体のせいもあると思う。心の中に、女の子の、部分が‥‥」


「‥‥?」

 言葉の意味が理解できない。

 ジンには戸惑う事しかできない。


 それを気配で察する事はできようが、ナイナは、か細く訴え続けた。

「消えないんだ。大切で、側にいたくて、同じ時間にいたくて‥‥他の人のヒーローになってると、嬉しいのに、嫌で、モヤモヤして‥‥」

 目を伏せたままだ。

 顔を、上げられない。

「それはおかしいって、ボクにはわかってるのに。消えないんだ」


 声が震えていた。

 不安と、怖さで。


「あの石を水の中で見つけた時、ボクの体にあった能力の使い方に気づいて‥‥それで変われたらって思った、それが‥‥これなんだ」


 開き直れたら。

 変わってしまえたら。

 ずうずうしく取り合いができたら。

 そんな気持ちを、全部、冗談なんだよってポーズで、臆面もない嘘で隠せたら。


 せっかくできるようになったのに‥‥


「ナイフ、()()()()()()()のかな。元の体に戻ったら、この気持ちが消えるのか、男なのにこの気持ちを持ったままになるのか‥‥わかんないけど、どっちも、嫌だなって。そう思った。だから、()()()のかもしれない‥‥」


 失敗したが故の自責がそう思わせているのかもしれない。

 だが、ナイナイの腕なら外すわけのない投擲だった。

 それも確かだ。



「ボク、変だよね」

 泣きそうな声だった。



 ジンは‥‥ナイナの肩を掴んだ。

「俺と同じぐらいにはな」

 その怪物めいた右腕で。



「俺もこんな体だし、性根も元の俺じゃない。何が戦って敵を倒すだ‥‥犬に吠えられりゃビビッて逃げてたようなダメ中年だったクセにな」

 一瞬、自重気味に笑う。

 一瞬だけだ。

「つまるところ、俺も俺の中の俺はもう俺だった俺じゃねぇって事だ。普通か変かで言えば、変の極致だからよ」

 肩に触れた手に力が入り、ナイナを自分に向かせる。

 涙を堪えた不安な顔で、己を見上げるナイナの、その瞳を、ジンは真っ直ぐ見つめていた。

「変というのは普通と違うという事だ。少数派なのは仕方ねぇ。単品かもしれねぇが、それでも仕方がねぇ。だが上でも下でも無いからよ。良いか悪いかで言えば‥‥どうでもいい、だ」


 そこで、ほんの少し、躊躇いはしたが。

 ジンははっきりと、ナイナに聞こえるように言った。


「付け加えるなら、ナイナイの心に変な所があっても、それでいい。俺は一向に構わん」


 言葉通りなら、気にしない、という意味だ。

 だが——成立するのだ。受け入れるという意味でも。



 そしてジンは言うのだ。

「客観的に正しい事を言えば‥‥さっきからの通り、もうナイナイは自分の道を行っていい。無理も危ない事もするな。今までありがとうよ」

 その視線に、鋭さと熱が籠った。

「その上で言うぞ。正しさなんぞ知るか、前言も翻す。俺と来てくれ。俺に()()必要なモノは二つあって、その片方がナイナイだ」



 ナイナは——

「‥‥」

 黙っていた。

 一度だけ下を向いて、ごしごしと目を拭ったけれど、すぐにまた顔を上げた。

 まだ瞳は潤んだままだったけど、笑顔を浮かべる。

 この街に来てから初めて、屈託なく。


 怖がりながら、怯えながら、本当は欲しがっていた、うっすら期待していた言葉を‥‥やっぱり、もらえた。



 もうこれで戻れない。

 一緒に流離うだけだ。

 この気持ちを知った今では‥‥。



 ジンはナイナの肩を離した。

 再び、その手をとる。

「一緒に帰るぞ。御託が長くなっちまったが、お別れするような事じゃない。それは確かだからよ」

「うん」

 ナイナも手を握り返した。


 ぎゅっと。しっかりと。

設定解説


・ボクの中に、変な所があるんだ


人間は心身が相互に影響し合う。

腹が減れば苛立つし、気持ち良くなっている時はガラにもなくおおらかになるし、病気やケガで伏せれば心細くなる。

極まれに懐が温かくなれば体も軽くなるのだ。

ステが爆増でもすれば、腕力のケンカで負けた事しかないヒョロガリ陰キャでもイキッて戦闘で余裕をかまし出しもするだろう。

あーワシも改造人間になって変身できるようにならねーかなー。

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