32 魔城 4
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
次の街で奇妙な少女と出会うジン達。それは新たな補充人員だった。
彼女を仲間に加え、一行は差し向けられた親衛隊をまたもや撃破した――。
最も巨大な大陸に、険しい山々が連なる壁で文明圏から隔絶された地がある。
一年中吹雪が吹き荒れ、それが止んだ時だけ白銀に輝く美しくも生の無き死の幻想世界が姿を現す大地が。
雪と氷と暗雲が覆う、標高四千メートルを超えた、平地としてはこの世界でも最高度となる、誰も顧みない僻地の中の僻地。
そこに巨大な城塞があった。
禍々しく、ねじくれ、悪意と邪悪で塗り固められた、途方もなく巨大な城塞が。
この世界にある国家全ての敵である魔王軍……その首領が住まう城が。
石柱が立ち並ぶ、暗く巨大な、神殿のごとき部屋。
そこに四つの人影があった。
四つとも、背も体格も全く同じに見える。
四つとも、フード付きのローブを身に纏い、顔かたちは全くわからない。
青いフードローブが静かに言う。
「陸戦大隊も失敗したようだな」
黄色いフードローブが声を荒げた。
「既に失敗した貴様の言う事か! 次こそ我が軍が半端な実験作など叩き潰してくれるわ!」
紫のフードローブが柱にもたれたまま、それを聞いてせせら笑う。
「その半端な連中に、勝手に段取りを変えて負けた軍がな。いずれは叩き潰せるとして、どこまで被害を出すか見物ではある」
黄色いフードローブは……怒鳴らなかった。
ドスの聞いた声で低く唸る。
「もう一度言ってみろ……」
壁も見えない巨大な広間が、一瞬で殺気に覆われた。
床が、柱が、細かく震える。
紫のフードローブは笑うのをやめた。
柱にもたれるのもやめ、黄色いフードローブの方を向いて立つ。
「望みとあらば言おうか」
一触即発……!
そこへ赤いフードローブが言った。
「計画書は読ませてもらった。あの実験体どもも中々興味深い。現地に残ったマスターウインドもそれは認めている。他の軍がすぐには駆け付けられんのであれば、当面は私の思うように進めさせてもらおう」
他の三人は赤いフードローブへと向き直った。
青いフードローブが呟く。
「こちらへの投降なら、既に断られた筈だ」
だが赤いフードローブは……
「伝える情報が足りなかったかもしれん。もう少し教えた上で、多少の猶予は与えてやってもよかろう」
フン、と黄色いフードローブが鼻で笑う。
「余計な事を考えると肝心の物を取り逃がす事になるぞ」
しかし紫のフードローブは小さく笑った。
「猶予、な。物は言いようという事か」
赤いフードローブは何も言わなかった。
青いフードローブが紫に問う。
「お前の部下が手掛けた物なのに、あちらには興味が無いのだな」
紫のフードローブが肩を竦めた。
「不要だと思っているのでな。既存の枠の外にある、未知で新たな力ならば――我らが主がいくつも持っているではないか。それらを惜しみもなく与えてもくださる。どこから手に入れるのか、不思議なほどに……」
黄色いフードローブが呟いた。
「まぁ確かに、あの方の底はあまりに知れぬな……」
だがその呟きの直後。
青いフードローブが他の三人へ言う。
「静まれ。いや……控えろ」
その場の皆がそこで会話を止めた。
青いローブに従ったのではない。気配を感じたからだ。
闇に閉ざされた部屋の奥からの、強烈な、強大な……。
そこから乾いた足音が響く。
四人は黙って待っていた。
足音の主が姿を見せた時、四人はいっせいに膝をつく。
「「「「暗黒大僧正!」」」」
四人は足音の主、彼らの主あるじの名を口にした。
その者――闇黒大僧正は豪華な法衣に身を包んでいた。肩にはトゲトゲしい肩当て、頭には大きな羽飾りのついた深紅の兜を被っているが、顔は影に覆われよく見えない。
他の四人と異なるのは……その周囲の空間が、歪んで見えること。
陽炎のように……波打つように……あるいは色彩が滲んで混ざり合うかのように。
それはその者の放つなんらかの「気」による迫力かもしれないし、本当に空間に干渉する魔力が漏れ出ているのかもしれない。
ただ、他の者とは根本的に何かが違う。
それだけは確かだった。
その圧倒的な存在を前に、紫と黄色、二人のフードローブは密かに冷や汗をかいていた。
己等が口にした疑問が、主への懐疑ととられぬかとの恐れから。
人類の生息圏から遠く離れた、この時代の邪悪の中枢。
吹雪が吹きつける城塞の、その中の奥で。
ジン達へとさらに大きな運命のうねりが起ころうとしていた。
VOルテスVのBOアザン帝国には、実は「地球を」征服する理由は無いはず。
あの星間帝国は古代ローマのように拡張政策をとっており、その前線が地球まで届いたというだけの話だった。
ただそこで皇帝の御家騒動が絡んでしまい、ドラマが深くなったのだが、それに関わっていない角のある人達からすれば、最終盤までは「今度の星はなんか軍が手こずってるで」程度の事だったのだ。
実際、地球での戦いは最終話の数話前に終わっている。
「この星の侵攻はやめた。引き揚げじゃあ。司令官のHAイネルは責任とらせて死罪だから、現地に捨てて見殺しにしてこい」と皇帝が命令を出したので。
兵士達、実にあっさり帰還している。
彼らにとって地球自体はどうでもいいからな。単に別の星に矛先が向くだけの話だったはずだし。




