84 離別 4
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
ジン:地球から召喚され、この世界で改造人間にされた男。
ナイナイ(ナイナ):異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた少年にして少女。
ダインスケン:異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた爬虫人類。
リリマナ:ジンに同乗する妖精。
ヴァルキュリナ:ジン達を拾った女正騎士。竜艦Cガストニアの艦長。
クロカ:女ドワーフの技術者。Cガストニア所属。
ゴブオ:ジンについてきたゴブリン。
アル:冒険者の少年戦士。
パーシー:スイデン国所属の少年騎士。
コーラル:スイデン国所属の青年騎士。
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。
リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。
エリカ:オーガーハーフエルフの整備士兼副艦長。
オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。
エイリアンズの戦士はフードローブを脱ぎ捨て、その姿を露わにした。
半人半虫——二足歩行している虫人間とでも言うべき姿だ。
纏うシースルーの貫頭衣は蜘蛛の糸で編まれた網のようで、死神のごとき鎌で武装している。
蜘蛛か骸骨のようなその顔の、複眼が黒く輝いた。
「我こそはエイリアンズ最強の戦士! 元陸戦大隊、マスターシュリテイス」
「獣人‥‥いえ、虫人?」
油断なく身構えるレイシェル。
敵——マスターシュリテイスは大顎を蠢かせる。
「哺乳類だけが人間ではあるまい。節足動物から進化した“人類”もある。宇宙には無限の星があるからな‥‥と言っても理解できまいが」
相手は何気に無く言ったのだが、レイシェルは驚いた。
「え? え? 異世界から召喚されたのではなくて、他の星から来たんですの!? じゃあ宇宙人?」
むう‥‥とシュリテイスは呟く。
「いや、召喚魔術で呼びこまれはしたのだが。しかしインタセクシルの魔術師どもが言う『異世界』が、異なる時空の事ではなく、別星系の惑星の可能性もあるし‥‥」
「どうしてですの?」
初めて聞く話につい興味をもつレイシェル。
シュリテイスは少し自信なさげながらも語った。
「故郷に帰りたくて色々調べてみたが‥‥平行世界から召喚された僅かに異なる同一人物、という奴らがどうもいないようなのだ。これだけ大勢が召喚されているのだから、多次元から呼んでいるなら一件や二件はあっていいと思わんか?」
そして四本の腕の二本で鎌を持ちつつ、残りの二本で腕組みする。
「ただ人間の里に行くと『モンスターだ!』と言われて攻撃されてしまう。だから情報源は魔王軍だけで、断言はできん。しかしもし星間移動に過ぎぬなら、万が一帰還する事も‥‥と考えないではない。だが現状、我を召喚した魔王軍に居るしかないのだ‥‥」
やがてシュリテイスは腕組みを解き、レイシェルを鉤爪で指さした。
「今度は我が訊く。お前は【宇宙】が何なのか、理解しているのか? この世界の連中は――知識人を含めて――どうにもわかっておらんようなのだが」
「ええ、まぁ‥‥詳しい話は長くなりますけど、一応、宇宙船を飛ばしてはいた世界から来ましたから‥‥」
そう答えるや、シュリテイスは腕組みを解いて万歳した。
「おお! そうだったのか。良かった、科学文明の世界から来た者か」
「この世界の魔法も、科学技術にひけはとっていないようですけど‥‥」
なにせ巨大ロボが普及している世界なのだ。
だがレイシェルの言い分に、シュルティスは頭をふる。
「しかし宇宙や異星人を理解できんようでな。デーモンとかエレメンタルとか呼ばれた」
違う世界から来た、全く異なる生命体。
インタセクシルの大半の人間は、それらを精霊や魔神としてしか解釈できないのだ。
しかし召喚された者ならまた別だ。
レイシェルはそこも訊いてみる。
「聖勇士の中には科学文明の世界から来た人もいましたわよ? 魔王軍にも‥‥」
「いたのか? 陸戦大隊で何人かに話してみたが、誰も理解してくれなかった。たまたま運が悪かったのか?」
シュリテイスの返事を聞いて、レイシェルは思い出した。
陸戦大隊とは何度か戦ったが、知識とかありそうな者はほとんどいなかった。
特に前大隊長自身が一番頭悪そうだった。
一応、科学者・技術者っぽい者もいたが、自分らでグループを作って大隊と関係無く勝手な事してる連中だった。
「たまたま、最悪でしたわね‥‥」
レイシェルが言うと、シュリテイスは無言で頷いた。何度も。
――テーブルを挟んで椅子につき、しばし話し合う二人——
「ふむ。レイシェルも大変なのだな」
これまでの経緯を話すと、シュリテイスは理解してくれたようだ。
意外と知的な種族なのかもしれない。
「はい。ここを通していただけたらありがたいのですけど」
レイシェルのその頼みは、しかし流石に断られた。
「今は魔王軍だからな‥‥職務怠慢を咎められてしまう」
ならばとレイシェルは提案する。
「魔王軍をやめませんこと?」
だがシュリテイスは力なく項垂れた。
「しかし先も言ったが、人類側は我を見ると先ず攻撃してくる。それに暗黒大僧正は星を超えてやってきたようだし、その下で地位を上げればあるいはと‥‥」
「え?」
数秒。レイシェルは目をぱちくりさせる。
「えええええ!?」
頭が動くようになっても驚愕、驚愕しかない。
「暗黒大僧正が宇宙人!? 確かですの?」
頷くシュリテイス。
「元賢者というから、いろいろ訊いてみた事がある。その時に『私の知っている星にはお前の種族はいなかった』と言われてな。言い換えれば他の星々には訪れた事がある筈‥‥」
レイシェル、呆然。
(剣と魔法の世界で黒幕が宇宙人!? やたら怪獣を飼ってると思ったら! どうりで!)
実は探せば有る程度には有る話なのだが、まぁレイシェルの予想と全く違ったのは確かだ。
「と、とにかく、この情報を持ち帰りませんと‥‥」
衝撃から覚めたわけではないが、レイシェルはなんとか立ち上がる。
シュリテイスも椅子から立った。
「では戦うか」
間合いを離し、互いに武器を構える二人。
「仕方ない、全力でいきますわ!」
レイシェルの左手に、光と熱が収束してゆく。熱核撃の魔力が‥‥!
と、シュリテイスが嫌そうに言う。
「待て。火属性だけはやめてくれんか。それへの抵抗力は低いのだ」
「え? そう言われても‥‥攻撃魔法としては一般的ですし」
ちょっと困るレイシェルに、シュリテイスは困った声を漏らす。
「低級な呪文ならまだ我の魔法抵抗力で消せるが、そこまで上級な火魔法となるとな‥‥」
「強敵とは戦った事が無いんですの?」
これまで雑魚狩りだけしてきたのかと、疑問を投げるレイシェル。
しかしシュリテイスは「そうではないが」と答える。
「上級魔法とか言うと、光だの闇だの時空だのと妙な属性が増えるようでな。逆に火を使う奴はあまりいなかった。この世界ではケイオス・ウォリアーに乗って戦う事も多いし‥‥」
この世界最強の攻撃魔法は火属性のニュークリアブラストなのだが、なにせ様々な世界から召喚されてくる。
それに「最強技」というと「一般には知られていない秘技」とかを出したがる奴は少なくない。
そんなわけで、シュリテイスは火属性の高位魔法を生身で食らう機会が、この世界に来てからはたまたま無かった。
「弱点をつくなとは言わん。だが全く対策のとりようがないシナリオはクソだ」
シュリテイスの言い分はよくわからなかったが、異星人なので文化が違うのだろうと流す事にし、レイシェルは交渉を試みる。
「魔王軍、やめてくれます?」
左掌には熱核撃の魔力が収束してゆく。
「人類側に我の生息地を用意できるなら考えるが‥‥」
嫌そうに、しかし譲歩はするシュリテイス。
レイシェルは少し考えた。
(複数の節足で歩いているのだし、大賢者だし、トカマァク殿に相談すればなんとかなるかも‥‥)
根拠としては薄すぎるきらいはあるが、この場で戦闘を避けて問題を先送りにはできるかもしれない。
「似たような姿の賢者を知っていますわ。何人もの聖勇士に会って来たようですし、宇宙航行の知識ももしかしたらあるかもしれません。紹介してみましょうか」
レイシェルが言うと、シュリテイスは鎌を構えるのをやめた。
「ふむ。物は試しか‥‥」
こうしてレイシェルは侵入したエリアを突破した。
――マスターシュリテイスのエリアを抜け、奥へ進むレイシェル――
シュリテイスの部屋から出る通路は一本道だった。
程なく、突き当りの扉に行きつく。
警戒しながらもレイシェルはそれを開けた。
明るく広い部屋だった。
しかし温度は低く、寒い。
そして部屋の中央付近には、ガラスの蓋をされた、三つの棺があった‥‥!
設定解説
・マスターシュリテイス
複数の星を支配下におく宇宙列強種族・節足動物系人類ダイセクトの探索戦闘部隊員。
他の種族と戦いながら目的の物を調査・入手するのがその任務だった。
創造の知識全てが詰まっている宇宙秘宝アストラル・キューブを手に入れる任務を受けて惑星ガーディアンに派遣された時、現地の星が視認できる所まで来たのにインタセクシルへ召喚されたという超絶不運の持ち主。
召喚した魔王軍には内心反発しているが、人類側へコンタクトを取ろうとしても「魔王軍の召喚したモンスター」として攻撃されてしまうので、仕方なく陸戦大隊で腐っていた。
大隊長が倒れていく中、地位をあげれば暗黒大僧正が持っている筈の宇宙航行技術を使わせてもらえるかも‥‥と期待し、エイリアンズに参加する。
だが暮らす場所と宇宙技術の可能性が欲しいだけなので、この回で交渉の末にレイシェル側へ寝返る事に決めた。
戦うだけが物事の解決ではないのだ。




