81 離別 1
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
ジン:地球から召喚され、この世界で改造人間にされた男。
ナイナイ(ナイナ):異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた少年にして少女。
ダインスケン:異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた爬虫人類。
リリマナ:ジンに同乗する妖精。
ヴァルキュリナ:ジン達を拾った女正騎士。竜艦Cガストニアの艦長。
クロカ:女ドワーフの技術者。Cガストニア所属。
ゴブオ:ジンについてきたゴブリン。
アル:冒険者の少年戦士。
パーシー:スイデン国所属の少年騎士。
コーラル:スイデン国所属の青年騎士。
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。
リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。
エリカ:オーガーハーフエルフの整備士兼副艦長。
オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。
岩山が連なる地の、大賢者トカマァクの地下迷宮。
その中の居住区、大きな会議室で、ジンは少々困惑していた。
「こいつはたまげた。まさか帰り道は平穏無事だったとはな」
「お互い、現地ではいろいろあったようだが」
応えるノブは平然としたものだ。
まぁそんな彼の仲間の大半も、ジンの仲間達のほとんども、大国からの帰り道には敵の襲撃が無かった事にいくらかの戸惑いを覚えていたが。
というわけで、二隻の艦は無事に大賢者の迷宮に帰り着く事ができた。
無論、そこで出会った協力者達と共に。
『しかしまさかなんともはや。タレスマンの奴が暗黒大僧正にされてしまっていたとは‥‥』
唸る水竜のヨルムン。
それは大賢者トカマァクも同様。むしろ古い友人が敵に操られていると知れば苦悩もある。だが、彼はしばらく俯いた後、努めて明るい声を出した。
『それでもお弟子さんと会えたのは幸運でした。ブースターの作成にはとりかかれます』
やや緊張しながらも頭を下げるグリダ。
「はい、できる限りお力になります。師匠に比べればまだまだ未熟ですが‥‥」
そんな鶴獣人の女性を眺めつつ、ゴブオが下卑た笑みを浮かべる。
「へっへっへ、カラダは十分熟してますぜ」
「そりゃお前よりずっと年上だしな」
げんなりして言うジルコニア。
一方、別の事に衝撃を受けている者もいる。
「神々さえ歯が立たない‥‥本物の暗黒大僧正は異界から来た超存在だと考えていいのか」
ヴァルキュリナが青ざめているのは、彼女が神官戦士であり、神の力を借りて戦うクラスだからというのもあるだろう。
「僕はそう思っている。あくまで仮説でしかないが」
答えるノブはあっさりしたものだ。
かつての魔王には邪神だの破壊神だのといった連中もおり、結局倒されてきたので、その延長ぐらいにしか考えていないのである。
だがゴブオが目を丸くして振り向く。
「えっ? 神様より強い奴とこれから戦いに行くんスか?」
今初めて聞いたような反応だが、情報交換の時は酒を呑みながら話半分だったので仕方がない。
「フッ‥‥想像以上の大物だったか」
オウキは腕組みして笑っている。恐れるどころか楽し気でさえある。
「余所者神様をガツーンとやっちゃおう!」
リリマナに至っては、拳を掲げてやる気満々だ。
顔をしかめるゴブオ。
「やめた方がいいんじゃねぇかと思うんスけど‥‥」
「ですよねー」
床掃除のモップを手に、アリスが小声で同意した。
そんな二人の小さな声を聞き逃し、アルが拳を力強く握る。
「世界中が巻き込まれている以上、逃げ場はないんだ。なら戦うだけだぜ」
頷くパーシーとコーラル。
「ええ。祖国を守るためにも、退くわけにはいきません」
「それが我々の使命だからな」
さらに側のモニターの向こうで、戦車形態のドリルライガーが同意の声をあげた。
『はい。どれほど強大な何物であろうと、それは弱者を虐げて良い事にはならないのです』
アルの肩の上で、人造使い魔のポルタがアリスを眺めていた。
じーっと、黙って。
視線に圧され、アリスはこほんと咳払い一つ。
それから他の人間に聞こえるようはっきりした声で言った。
「そ、そうです。その通りです。弱音を吐きたかったら一人でずっと吐いてればいいのです」
ギリィ、と歯軋りするゴブオ。
「掌返しやがって‥‥」
その頭上でジルコニアが肩を竦める。
「オメーはその文句言えねーだろ」
ファティマンのシランガナーが傍でうんうん頷いていた。
ゴブオの方ではなくアリスの言葉を聞き、エリカが苦笑する。
「まぁ正直言うと、ちょっと怖いけどさ。神様もとっくに負けて、大国が三つとも潰されちゃって、なんか凄い圧されてるっぽいじゃん」
頷くリュウラ。
「急に攻勢が強くなったわね。理由はわからないけど」
「そうですわね。このまま激しい攻撃が続くなら、悠長な事はしていられませんわ」
レイシェルも事態を深刻に受け止めていた。
彼女達の話を聞いて、ノブはメガネを弄りながら呟く。
「‥‥続くとして、次はどこが狙われる?」
ちょっとばかり考えるジン。
「でかい所が優先的に狙われてるなら、大の次は中じゃねぇか? 五か国ぐらいあるんだろ?」
ヴァルキュリナがハッと何かに気づいた。
「もしそうだとしたら‥‥まさか我がスイデン国なんて事は‥‥」
もうちょっとばかり考えるジン。
「あー‥‥有り得るな。魔王軍にかなり煮え湯呑ませてるだろうしよ」
「ボク達がいなかったら親衛隊にさえやられちゃってたよね。大隊長の、最強の人が来たら跡形も無くなっちゃうんじゃない?」
ナイナがあっけらんと言う。
にわかに慌てるヴァルキュリナ。
「わ、我々は祖国防衛のため一旦戻ろうと思う! 移動用装置が完成したら連絡してくれ! Cガストニアの乗員はできるだけ急いで支度を!」
そう言って会議室から走り出る。
コーラルとパーシーも大急ぎでそれに続いた。
「おいおい、ちょっと待てよ」
言いながらアルもついていく。
「じゃ、行くか」
ジンが溜息混じりに言うと、リリマナ、ナイナ、ダインスケンが頷く。
「れっつごー!」
「仕方ないね」
「ゲッゲー」
四人はクイン星輝隊と賢者達に手をふり、会議室から出て行った。
嫌々ながらゴブオもついて行く。
——すぐに迷宮から出発するCガストニア。向かうはスイデン国の首都——
それから半日ほど後の事だ。
鬼甲戦隊が敵に捕らえられた‥‥と報告が届いたのは‥‥!
設定解説
・ボク達がいなかったら親衛隊にさえやられちゃってたよね
第一部参照。
中ぐらいの規模の国でこのザマではこの世界の人類側は弱すぎるのでは?と今なら思えるが、まぁあの時はスイデン国の国力が世界全体でどのぐらいか、全く考えていなかったので。
とはいえ攻撃していた親衛隊がかなり強い方だったから、と言い訳すれば問題あるまい。「大隊最強の親衛隊」と名乗らせていて良かった。




