79 神域 10
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。
リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。
エリカ:オーガーハーフエルフの整備士兼副艦長。
アル:冒険者の少年戦士。
パーシー:スイデン国所属の少年騎士。
コーラル:スイデン国所属の青年騎士。
アリス:元魔王軍魔怪大隊長。
クイン星輝隊は焼け落ちた都へ戻った。
ジェネラル・ルードが去った空を眺めてアルが呟く。
「嘘だろ‥‥神様まで敵にいるのかよ」
仲間と合流したノブは「ふむ」と考える。
「黄金級機を動かせるわけだ。元々、神蒼玉は神々が造った物。それを本来の仕様と違う使い方をするため、人間には異界流レベルの高さが求められる。だが造った神々にとってはその程度の使い方、やってやれない事でもなかったのだろうな」
――星輝隊一同、しばし焼け跡で救助活動に従事する――
被害は燦々たる物だった。
できる限りは助けたが、命を落した兵も住民も数知れず。復興には長い時間を要するだろう。
帝王ヤードックが命を落したのも深刻である。新帝王の座を巡ってヘイゴーに属する各国が争うのは避けられない。魔王軍が猛威を揮っているこの状況下で大きな内乱にはならないだろうが、大国ヘイゴーが以前通りには機能しないのは明らかだった。
そんな中、カマセイル隊の三人は一命をとりとめていた。
野戦病院と化した王宮の一画で、クイン星輝隊は三人の容態をみる。
麒麟獣人のエンク、鳳凰獣人のランが意識を取り戻し、そして――
「おーい。生きてるかー?」
「うう、クソッ‥‥」
ジルコニアの声に反応し、全身に包帯を巻かれた空亡獣人のサイシュウが目を開けた。
「なんだ!? あのインチキ野郎はどうした!?」
状況をすぐには把握できず、そう叫んでがばりと身を起こす――そして痛みに呻く。
「帰った。まぁ魔王軍と戦っていればまたじきに会えるだろう」
ノブがそう教えてやると、しばし呆然としていた。
だがその言葉を理解すると‥‥
「そ、そうか」
安堵の息を吐いて汗を拭う。
「今度は油断せず、皆で力を合わせて戦いましょう」
気を遣いながら労わるように言うパーシー。
サイシュウは「えっ!?」と素っ頓狂な声をあげた。
「あ、ああ‥‥今度は、な‥‥」
目を逸らすサイシュウ。
側でランが天井を見上げた。
「今度ねぇ‥‥私らの拠点、壊滅しちゃったんだけど」
「賢者とやらには会えたのか?」
エンクは逆に、クイン星輝隊へそう質問する。
――かくかくしかじか、と神の国で知った事を伝える一行——
「なんだ! じゃあ本拠地に行くのは無理じゃねぇか。ふう、こりゃ仕方が無いな」
サイシュウがどこか安心したように言う。
彼が先ず気になったのはそこらしい。
「結局、トカマァクさんともう一人とで移動用アイテムを造ってもらうしかないんだな。どれぐらいかかるんだろ」
エリカが肩を落としてそう言った、が――
決意を籠めた目でグリダが宣言する。
「‥‥いえ、私がお手伝いします」
「え? 姉ちゃんが!?」
驚くアルに、グリダはいつになく真剣な表情で頷いた。
「ヘイゴーの‥‥故郷の危機に、黙っている事はできないわ。私も師匠から教えを受けた身、力になれるはず」
メガネをくいくい弄って考えるノブ。
「ふむ。現状ではそれが最善手なのか。ならば師匠の元へ戻ろう。鬼甲戦隊もそろそろ戻るだろうしな」
「君達の機体は移動しながら修理する事になる。いいな?」
コーラルがカマセイル隊に確認した。
しかし。
「「「‥‥」」」
三人とも、黙って答えない。
俯き、横を向き、目を逸らす。
「どうしたんです?」
パーシーがそう訊くと、エンクがぼそりと呟く。
「通じなかったからな‥‥」
ジェネラル・ルードに敗北した事を言っているのだと、星輝隊一同が理解するのに、数秒ほどかかった。
「それは‥‥相手が強いのに、貴方達がバラバラに戦ったからでしょう? 次に戦うまでに特訓して、力を合わせて‥‥」
レイシェルはそう話しかけたが――
「うるせー!」
サイシュウが怒鳴った。
「努力とか根性とか友情とか、古臭ぇ理屈はいらねぇんだよ! 才能や素質に応じて、そいつが上り詰めることができるステージは予め決まっている。残酷なようだが、それが真実なんだよ!」
反則能力という能力で最強になった筈の、サイシュウの、これが転生してから今日までの持論であったのだ。
それは他者へ勝ち誇って押し付ける論であり、まさか己自らが打たれるなどと思ってはいなかったが。
ジルコニアがヘラヘラと笑う。
「なーんだそりゃ。特殊能力持ちでなければ人に非ず・牛や馬に同じ‥‥てな時代でもあるまいし。どうせどこかのラノベかマンガのセリフだろそれ」
サイシュウは、そんな嘲笑など聞いていなかった。
「クッソー! 俺の反則能力を無効化するなんて反則だろ! 他人を否定する奴は存在を否定されてこの世から蒸発しろ!」
頭を抱えて喚くサイシュウ。
それをリュウラが冷ややかな目で見下ろす。
「ダメだね、これ。もう行こうよ」
だが、そんなサイシュウの正面へ、レイシェルは屈みこんだ。
そして彼へ両目の視線を真っすぐに合わせる。
「しっかりしなさいな! 貴方の事を好きな人達が何人もいるのでしょう? その人達にそんな恰好悪い所を見せるんですの?」
「んな事‥‥は‥‥」
思いがけない言葉に戸惑うサイシュウ。
きまり悪く、目を逸らそうとする。
そんな彼の肩をレイシェルは掴んだ。
「その人達を私は知りませんわ。けれど、その人達にとって貴方はヒーローなのでしょう? その人達に見せるぶん、それだけ‥‥そのちょっぴりだけ、もう一度やってみませんこと?」
「‥‥」
サイシュウは、何も言わなかった。
肩を掴まれ、レイシェルの瞳から逃げられず、それでいて何を言ったものかわからず‥‥。
けれど、その力無い目には、戸惑いとともに何かに気づいた様子はあった。
レイシェルはサイシュウの肩から手を離した。
「ちょっぴり恰好つける、そのお手伝いなら。私もやらせていただきますわ」
「‥‥そうか」
その身を解放されても、サイシュウはもう目を逸らしたりしなかった。
ジルコニアは宙で額を抑えていたが。
「まーたお嬢の病気だよ」
サイシュウは、よろめきながらも立ち上がった。
レイシェルもスッと立つ。
そして微笑んだ。
サイシュウも笑顔を浮かべる。
どこか照れたような、しかし心の晴れた顔で。
「次のヒロインがいたぜ‥‥俺のハーレムに来てくれ‥‥」
ちょっと上気した顔で言うサイシュウ。
正直、気持ち悪い。
「え? 嫌ですわ」
一転、顔をしかめてレイシェルははっきり断った。
「この流れで!?」
一転、仰天して目を剥くサイシュウ。
なぜか受け入れられると思い込んでいたらしい。
「優しくされると自分に気が有ると思う奴、出たぞー」
ジルコニアがげんなりした顔で投げ槍に言った。
「ごめんなさい。私にはもう、その‥‥お互いに、心を決めた人がいますの‥‥」
もじもじしながら、ちょっぴり恥ずかしそうに告げるレイシェル。
その視線は横目でノブをちらちらと見ている。
ノブはメガネの奥から鋭い眼光を向けていた。
サイシュウをめっちゃ煙たがっている。嫌悪感丸出しで。
そしてサイシュウは――
「あああああーーーーー!!!!!」
叫んでまた床に崩れ落ちた。
泣きべそかきながら床を叩く。
「現実なんか! 現実なんか死ねえー!」
「え? え? え?」
戸惑うレイシェル。
「終わったか」
吐き捨てるように言うノブ。
「お嬢がトドメ刺したからな」
うんうん頷くジルコニア。
「え? え? え?」
戸惑うレイシェル。
「ついでに命も終わらせて行く?」
槍を構えるリュウラ。
「今後の方針が決まっているのだ。早く帰還したいのだが」
促すコーラル。
「じゃあそうするか。あんたらも元気でな!」
アルがカマセイル隊に手を振った。
「あ‥‥うん」
ランが曖昧に頷く。
「まぁ、な」
エンクも曖昧に頷く。
そしてサイシュウは、まだ蹲って泣いていた。
クイン星輝隊は足早にその場を去って行った‥‥。
設定解説
・残酷なようだが、それが真実なんだよ!
その「真実」をキャラに言わせてた人、今どこで何してるんだろ。
短期間とはいえ話題になって商業デビューまで行ったんだから才能は有る方ではないかと思うのだが。
まぁ多分、物書きとは無関係な仕事して無関係に生きているんだろう。
別PNで何か書いているのかもしれんが‥‥。




