3 召喚 3
地球から異世界へ転移した仁。
到着早々戦闘に巻き込まれ、巨大なロボット兵器に乗る事になる。
だが彼は最初の搭乗でその操縦方法を把握し、敢然と敵へ立ち向かうのだった――。
敵からの砲火を掻い潜り、仁はなんとか廃墟の中へ駆け込んだ。
だが一息つく暇も無かった。敵にも同じシステムがあり、仁の居場所を把握しているのだろう。駆け込んだ廃墟に集中砲火が浴びせられる。
無論、仁とてただ死を待つつもりは無い。恐怖と焦りで突き動かされながら、大砲の引き金を機体の指で引く。引き金に指をかけると機体の視界には照準のポインターが出てくれるので、それを敵影に合わせて撃った。
実のところ、追い詰められての苦し紛れな行動だ。
よく狙ったわけでもないし、とりあえず手を出した……という形に近い。
だが迫っていた敵影の一つが火を吹き、大きくよろめく。
眼前のモニターには2000以上の数字が出る。それが敵へ与えたダメージの表示だと、一瞬遅れて気づく仁。
「当たった!?」
自分で撃っておきながら驚く。
だが悠長に喜んでもいられない。他の敵機がこちらへの射撃を続けているのだ。そいつらへも仁は必死の反撃を撃ち込んだ。
機体にアシストする機能でもあるのか、割と当たる。
百発百中とはいかないが、思ったよりはずっと。
「なんだ、意外と当たるじゃねぇか。それともこれも何か補正してくれてるのか……」
呟く仁。
実のところ、その考えはそれなりに当たっている。武器によってはキロ単位離れた目標へ撃つ事もあるし、敵機の性能によっては超音速の相手へ当てねばならない事もある。だからといってそれらへ当てられる達人的技量を要求していては「軍」など作る事はできない。
よって機体側で敵機を捉えるようサポートする能力があり、その精度が「照準値」として性能画面に表示されるのだ。
とはいえ安心などできるわけもない。敵へと射撃を繰り返すうち、ついに仁の機体が被弾した! 激しい衝撃とともに、モニターに赤い数字が出る。そのぶんだけ隅に表示されている自機のHPが低下した。5000と示されていたのに、一撃で4000近くまで低下する。
「チイッ! ちょいとヤバくねぇか!? 俺、本当に強いんだろうな!?」
「確認しなよ! きっと高ステータスなはず!」
リリマナに発破をかけられ、仁はかーソルを動かした。
途中、周囲の地形をカーソルが横切る時、モニター隅に何か数字が出る。
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<廃墟> 回避率:+20% 防御率:+20% HP回復:0 EN回復:0
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(地形効果か! これのおかげで現状、助かっているのかもしれないな……)
仁は改めて敵の位置を確認した。廃墟を包囲するため、敵は森や山裾を出て平地にいる。あまり拓けた場所でもないので、数機ずつにバラけて接近してきている状態だ。
廃墟の中で建物や壁を利用すれば、そうすぐには倒されないだろう。
少し落ち着きを取り戻し、敵へ砲撃をお返ししながらも、カーソルを「パイロット」に合わせた。
画面に表示される内容が一瞬で切り替わる。
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ジン=ライガ
モラール114
レベル2
格闘152 射撃150 技量179 防御131 回避87 命中93 SP64
特殊スキル
ケイオス2 底力7 援護攻撃1 援護防御1
スピリットコマンド【スカウト】
妖精
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「な、何で名前がカタカナで姓名逆なんだよ?」
たじろぐジン。
「この世界でどう呼ばれるかだから仕方ないね!」
リリマナが当然のように答える。
(他人の勝手な呼び名が採用されるのか? クソバカマヌケと呼ばれたらそう表示されるのかよ? 嫌がらせし放題じゃねぇか……)
全く納得いかないが、ジンの目はその下段に吸い寄せられた。
高いか低いかはわからないが、能力値が何を意味するのかは見当がつく。スキルの方も、不明な物が一つあるがまぁだいたいわかる。どれも昔遊んでいたゲームと似たような物だ。
しかし『スピリットコマンド』とは?
「なぁリリマナ。スピリットコマンドって何だ?」
「精神の力で起こす、一種の魔法みたいなものかな。バフや回復の効果が多いよ。優秀なコマンドが使えるなら、能力値以上の強さが発揮されるんだから! でもSPを消耗するから気をつけてね」
リリマナの忠告に「お、おう」とたじろぎながら答えるジン。
(これも知っているシステムだな! まぁいい。それより俺の【スカウト】てのは……)
シンはカーソルをコマンド名に合わせた。
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【スカウト】まだ交戦していない敵のデータを参照できるようにする。
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「それかよぉ! もっとこう、攻撃力か防御力を上げるとか! HPを回復するとかあるだろ!」
叫ぶジン。能力の有用性は認めるが、今欲しいのはそうではないのだ。
だがリリマナがどんと自分の胸を叩く。
「安心して! 妖精には聖勇士をサポートできる能力を持つ者もいるんだ。何を隠そうこの私もね! ピクシーのリリマナが力を貸すよ。私のスピリットコマンドを使って!」
言われてみれば、ステータス画面に『妖精』とある。そこにカーソルを合わせると……
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リリマナ レベル1 SP41 スピリットコマンド【サーチ】【ガッツ】
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「さ、【サーチ】って……」
「隠された物の位置がわかるんだよ。だから私が今回の調査に選ばれたんだ!」
呻くように訊くジンへ、意気揚々と答えるリリマナ。
(納得はするが、今必要なのはこれじゃねぇからよ!)
歯軋りするジン。
「じゃあ、【ガッツ】って……」
「機体のHPを最大値の30%回復するよ。世の中根性だ!」
呻くように訊くジンへ、意気揚々と答えるリリマナ。
「おう、確かに根性だな。それなら助かる」
やっとの事で安堵するジン。だが――
「SP消費は25だよ。気をつけてね」
「はぁ? お前、SP41しかないだろうが! 使えんの一回だけぇ?」
リリマナの忠告に目を剥くジン。
「これもねー、消費量には個人差があってさァ。上手い人なら15ぐらいで使えちゃうんだけど、私はそうじゃないっていうか」
テヘペロっと舌を出すリリマナ。世の中、上手い話は無かった。
そしてその間も、敵の砲撃は止まらない。天井からはパラパラと小さな欠片が降り注ぐ。
(ここ、超強い規格外チートコマンドで俺が無双する所じゃねぇのかよ……!)
嗚呼無情――そんな接待は用意されていなかった。
前書きに前回のあらすじを書く際は、少々前向きな形で書かせていただく。
一部内容と剥離する可能性もあるが、でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない。
機体解説
Bカノンピルバグ
ダンゴムシのような頭部を持つ機体。
肩には大砲が設置されており、威力・射程ともに優れたこれが主要武器。
装甲も厚く、戦場では砲台として運用される。
半面、運動性は低い。また懐に潜り込まれるとアームドナックル(腕部装甲に備え付けられたメリケンサック)しか武器が無く、攻撃力は著しく低下する。