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異世界スペースNo1(ランクB)(EX)(完結編)  作者: マッサン
第三次 疾風怒濤編
295/353

73 神域 4

登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)


レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。

ノブ:地上最強の霊能者。

ジルコニア:ノブに同乗する妖精。

ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。

リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。

エリカ:オーガーハーフエルフの整備士兼副艦長。

アル:冒険者の少年戦士。

パーシー:スイデン国所属の少年騎士。

コーラル:スイデン国所属の青年騎士。

アリス:元魔王軍魔怪大隊長。

 かつて神の国で起こった、暗黒大僧正と神々の戦い。

 その記録映像をクイン星輝隊(せいきたい)は視た。


「正視に耐えんな」

 顔を(しか)めるノブ。

 彼だけではない。一行皆が、程度の差はあれ嫌悪を露わにしていた。

 ディアブロが酒瓶を一口(あお)ってから言う。

「ひでえもんだぜぇ。勝負は全て、生きるか死ぬかの文字通りデス・マッチ。そして流血の残虐ファイトだ」


 モニターの向こうで鮮血が散る。

 また一人、屈強な神がマットに沈んで息絶えた。



【見極めの神】がレスリングで戦い、釣り天井固めで全身の骨を砕かれた。

 絶叫とともに神は絶命する。

【威圧の神】がキックボクシングで戦い、首相撲を食らって腹部を砕かれた。

 絶叫とともに神は絶命する。

【強襲の神】がジュードーで戦い、山嵐で頭を砕かれた。

 絶叫とともに神は絶命する。

【足枷の神】がスモウで戦い、ツッパリで顔面を砕かれた。

 絶叫とともに神は絶命する。

 更に何柱もの神が戦い、全て絶叫とともに絶命した。


 精強な戦神達が次々と血の海に沈んだ。

 だが彼らの敗北を見ても、なお戦う神々がいた。

 元素や気象に携わる神から、特に激しい気性と力を持つ者達が。


【溶岩の神】が高熱を発しながら寝技に持ち込んだ。ただ組むだけで敵が焼死する地獄の戦法!

【竜巻の神】が真空波となって突撃した。気体となり敵に触れさせず己のみが一方的に攻撃する地獄の戦法!

【津波の神】が大量の海水で押し流そうとした。触れる事さえ許さず溺死必至の地獄の戦法!

【地震の神】がリングを震度8で揺らしながらボディプレスで飛び込んだ。動けない敵を押し潰す地獄の戦法!


 だが灼熱をものともしない肉体に締め上げられ、気体となった全身を肺活量で吸い込まれ、激流に逆らって放たれた拳を打ちこまれ、驚異的なボディバランスで揺れるマットをものともせずキャッチされてボディスラムを食らった。

 ことごとく絶叫をあげ、神々は絶命する。

 更に何柱もの神が戦い、全て絶叫とともに絶命した。



「神々でも最強を自負する者達が挑み‥‥全て敗れた。挑む神がいなくなると、この男はリングの上から神々を見下ろし、言いやがったぜぇ」

 ディアブロがまた酒を(あお)る。



 暗黒大僧正はリングの上から神々に()()()

 自分の地上侵攻を邪魔するな、と。

 


「そして‥‥見ろよ。悠然と去って行く後ろ姿を」

 ディアブロがまた酒を(あお)る。



 暗黒大僧正はリングから降り、広場の出口へ向かった。

 途中、飾ってあったチャンピオンベルトを無造作に掴む。

 当然のようにそれを持って、広場から出ていく。

 振り向きもせずに。背後への警戒など全く無しに。


 それを止める神は、もはや一柱とていなかった。



「これでここはお終い。生き残った神も、この神国を去ったのさ。今度の魔王に己の力が及ばぬ事を察してな」

 ディアブロが溜息混じりに笑う。

 映像を見せられたグリダが悲しみにくれて(うつむ)いた。

「師匠‥‥」 


 映像を見終わり、しばし考え‥‥やがてノブは、元魔怪大隊長へと声をかけた。

「アリス。()()の暗黒大僧正を見た事は無いのか?」

「わかりません。姿がコロコロ変わっていましたから、どれが本物なのか‥‥」

 困るアリス。それを見て思い出すアル。

「ジェネラル・ゴーズも似たような事を言ってたっけな」


 そう、暗黒大僧正の姿を本当に見たと断言できる者はいないのだ。

 現時点では。魔王軍の中枢にいた四天王を含めてさえ。


 しばし考え‥‥ノブは言った。

「案外、()()なんかいないのかもしれないな」

「えっ!?」

 意味がわからず、周囲の皆が困惑した。


「正しくは()()()などいないと言うべきか。暗黒大僧正とは現魔王軍内の地位の事で、複数いるのかもしれない。おそらくだが‥‥タレスマンはその中でも最初期の、最強の暗黒大僧正なのだろう」

 ノブはメガネを弄りながら、考えを整理しながら少しずつ話す。

「容姿も体格も性格も激変し、ここまでの強化‥‥よほどの原因があった筈だ。それはレイシェルの兄・ディーンにも言える」

 ぐっ、と苦悩を見せるレイシェル。


 しかしノブは話し続ける。

「もしかして魔王軍には未だ知られざる黒幕がいるのではないか? 暗黒大僧正というのは、それに囚われ、強化措置を受け、操られている傀儡達に過ぎないのでは? 最初は賢者タレスマンを使い、今では複数の犠牲者を抱えている。そういう事かもしれない」

 パーシーが恐る恐る訊いた。

「か、神々を一蹴できる者を操る、さらに強力な()()()がいると‥‥」


 ノブは頷いた。

「あくまで仮定だが。気になるのは、なぜ他者を操って、神々との戦いや表向きの支配者などの重要な事をやらせるのか‥‥そこだな。黒幕の真の力がこの記録以上だというなら、なぜ本人が出てこない? 自らが君臨し、傀儡には司令官なり将軍なりをやらせる手もある筈だが‥‥」

 そこで腕を組み、考える。

「僕の希望的観測ではあるが――出てこれないからではないか? 傀儡を使っているのは、そうしないとこの世界に干渉できないから。過去、この世界に現れた()()にはそういう例もある。精神生命体やエネルギー生命体とでも言うべき物で、力は強大だが、自分の手足となる物を造らないと活動できなかったのだ。傀儡の中に入りこみ、憑依して体を乗っ取っていた記録もある」


「異界の邪神とか魔神とかに、そういう奴らもいたみたいね。この世界での体を持たない奴らが」

 リュウらがそう言うと「はっ」とレイシェルが気づいた。

「暗黒()()()、という名は‥‥暗黒の神の(しもべ)というわけですのね。それが強制的な物だっただけで」


 険しい顔でコーラルが唸る。

「異界から来た神か‥‥神同士なら、この世界の神を倒すのも不可能ではないな」

「相手が神なら、それこそ神頼みなど全く通じないわね」

 リュウラの声は冷え切っていた。

「そんな‥‥」

 パーシーは青ざめていた。

 自分達が挑もうとしている相手が、予想以上に強大だった事が露わになりつつある現状に。


「姉ちゃん?」

 アルが気づき、声をかけた。

 グリダの顔からは血の気が完全にひいていたのだ。

「もし依り代の中に入っている場合、その肉体を破壊する事で異界に追い返せた記録が複数あるわ。今回みたいに何人かが操られている時は、本命を倒さなければいけないけど‥‥でも、この流れだと多分、師匠が‥‥」

 グリダにとってはとんでもない事だ。

 だがそんな彼女に、レイシェルが優しく声をかけた。

「でも、正気を取り戻させたら取り憑いていたモノが追い払われた記録も、僅かにありますわ。まだ決めつけるには早いと思います」


 しかしノブの表情は険しい。

「ただ‥‥賢者タレスマンに協力してもらうのは不可能だろう。魔王軍の本拠地に行かねばな。だがその本拠地に行くために助力が必要なのだ」

 その言葉に「ん?」と考え、アリスがだらだらと汗をかく。

「わ、我々は詰んでいるんです?」



 その場に暗い沈黙が降りる。

 だがそれさえも許さんと、事態は変わった。

「てーへんだあ!」

 大きな声が、遠くから一行にかけられたのだ。


 見ればモヒカンエルフの作業員が一人、全速力で走って来るではないか。


「どうしたんだ?」

 エルフが側に来てからエリカが訊く。

 エルフは息を切らせながら叫んだ。

「ヘイゴーが、魔王軍の、大攻勢を、受けてるって、通信が!」

設定解説


・なぜ本人が出てこない?


単純に部下の方が強いから、というケースも無いではない。

昭和の仮面RAイダーのラスボスなんて出てくるなり「はいはいお終い」的に片付く奴がゴロゴロいた。

70年代ダイナミック系ロボットアニメの首領も、別に本人が最強の戦士だったわけではない奴が多い。

地獄大元帥(元地上人。拾ってきて改造した傭兵みたいな立場)が敗れたらそのまま消えてどうなったのかわからない闇の帝王など、本当に何だったのか疑問でさえある。

しかしそういう場合も「首領は俺」と主張はするのが一般的なのだ。

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