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異世界スペースNo1(ランクB)(EX)(完結編)  作者: マッサン
第三次 疾風怒濤編
293/353

71 神域 2

登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)


レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。

ノブ:地上最強の霊能者。

ジルコニア:ノブに同乗する妖精。

ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。

リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。

エリカ:オーガーハーフエルフの整備士兼副艦長。

アル:冒険者の少年戦士。

パーシー:スイデン国所属の少年騎士。

コーラル:スイデン国所属の青年騎士。

アリス:元魔王軍魔怪大隊長。

 神々の国へ向かうクラゲ艦Cオーウォー。

 樹海上空を横切り、険しい山々の間を行く。山の半数は雲に頭を突っ込んでおり、さながら天を支える柱のようだ。


 やがて辿り着いたのは、山というより巨大な大地のテーブル。

 地面の一画がそのまま雲の上まで盛り上がった大地の塊だった。

 神天山という名でありながら、山という字から連想される光景とは程遠い。


 グリダの案内でクラゲ艦は崖の側へ向かう。

 ほぼ垂直に切り立った崖だが、急な坂道が壁に貼りついている場所があった。

 道幅は巨人の群れでも通る事ができるほどの広さだ。他は垂直の岸壁だというのに、ほぼ均等幅の道が雲の上まで続いている。

「ライジングロードというんだって。ここを通らないといけないんだけど」

 案内のグリダがそう言うので、艦はその坂道を登っていく‥‥のだが。



 かなり登った所で、黒く焼け焦げた一画があった。

 草一本生えていないばかりか、焦げて砕けた骨が無数に散乱している。中には巨大な魔獣らしき物も多かった。

 そしてその一画の上空には、鬱蒼と黒雲が固まっていて動かないのだ。


「明らかに何かあるな」

 顔をしかめるノブにグリダは頷く。

「うん。誰でもほいほい神々の国に行けるわけないからね。神に招かれた者以外は、ここで神雷に撃たれて滅びるって」


 リュウラが触手を操作し、手近な岩を掴んで放り投げる。

 ケイオス・ウォリアーの上半身ほどあろう岩がその区画に入ると――耳をつんざく雷鳴が幾重にも響き、数十発の稲妻が雨霰と降り注いだ!

 岩は粉々に砕け、地に落ちる事無く突風の中に消えていく。


「お、思ったより激しいですね?」

 驚くパーシー。コーラルも唸った。

「骨が残っている奴は、相当に強靭な魔物だったのだな‥‥」



 一同が戸惑っていると、不死鳥の獣人ランが余裕のしぐさで髪を掻き上げる。

「不死身の私の出番ね」

 隣で不敵に笑む麒麟獣人のエンク。

「俺なら光速で通り抜けられると思うが」

 しかしジルコニアが肩を竦めた。

「それじゃ皆で行けないだろ」

 そう言われ、空亡獣人サイシュウが偉そうかつ嬉しそうに声をあげた。

「ならオレだな! イベント内容を消して無害にしてやる」

「ええ‥‥神々の作った道に、勝手な変更を加えていいんですの?」

 不安いっぱいで言うレイシェル。

 しかし己の力を疑われたと思ったか、サイシュウは不機嫌丸出しで怒鳴る。

「オレは神以上なんだよ!」

 ノブがちょっと面倒くさそうに溜息をついた。

「まぁそれで渡れるようになるならやってもらってみるか」



 だがそこで、おずおずと躊躇いがちに口を挟む者が。

「無力化する術法なら習得してますけど。使っていいですか?」

「え?」

 驚き振り向くレイシェルの視線の先にいたのは、オーバーオール姿でブリッジの清掃をしていたアリスだった。


 メガネを弄りながら「ふむ」と考えるノブ。

「こっちを先にやらせてみるか」

「おいおい! オレの力を見せてやろうと言ってやってるんだが?」

 納得いかないサイシュウ。


 しかしそんな彼に、壁際に座っていたトゲヘルメットのエルフが声をかける。

「でもカマセイル隊宛になんか通信入ってますぜ」

「なに?」

 サイシュウは怪訝な顔で振り返った。

 エルフはモニターに映った通信文を指さす。

 カマセイル隊三人、それを読んで‥‥エンクが顔をしかめた。

「‥‥本国からの帰還命令だな」


「おいおい? どうなってやがる? 王様のダチの賢者を連れて帰るんじゃねえのかよ」

 サイシュウは苛々と声をあげた。

 それを横目に呟くリュウラ。

「魔王軍に洗脳されてるみたいだと伝えたから、何か方針が変わったのかも」

「あ、報告したんだ。それでかもね」

 ランは納得したようだが、サイシュウは不満たらたらだ。

「クソッ、神どもにオレの反則能力(チート)を見せてやりたかったんだがな」


 聞いて呆れるアル。

「そんな理由で行きたかったのかよ」

「自分の最強反則能力(チート)を強い設定の連中ダシにして見せつけるのは生き甲斐レベルで楽しいだろうが!」

 息まくサイシュウ、それに呆れるエリカ。

「めだちたがり屋なんだな」

 しかしサイシュウは――

「は? 面倒な事が多いから目立つのは嫌いなんだが?」

 不満げなツラのままいけしゃあしゃあと言う。

 それを聞いてジルコニアがげんなりした顔を見せた。

「スゲーな。言ってる事がいちいち繋がってねーぞコイツ」



――クラゲ艦から去って行くカマセイル隊三機。それをブリッジで見送る一同——



 壁際のモニターの一つから、ドリルライガーが戦車形態でランプを点滅させた。

『互いに魔王軍と戦うならば、いつかまた共闘する事もあるでしょう』

「なくていいけどなー」

 ジルコニアは気が進まなそうだ。すぐ側でファティマンのシランガナーが頷いていた。



 一方、アリスはノブ同伴で艦の外に出ていた。

 焦げた地面の手前まで行き、杖で地面に何かの紋様を描く。

 描き終えると、杖を高々と掲げて朗々と呪文を唱えた。

 何かに呼び掛けるような、まるで歌のような詠唱を、天へと――。


 詠唱が終わると、空の暗雲が消えていく。

 陽が射しこみ、焦げた大地を照らしていた。


 アリスは艦へと振り返る。

「行けますよ」



 二人を回収し、試しにもう一度岩を投げ、何も起こらない事を確認してからクラゲ艦は前進。

 艦は無事に焦げた一帯を通り抜けた。


 神雷の道を通り過ぎる頃、ノブとアリスがブリッジに戻った。

「通れたな。流石と言うべきか」

 感心するコーラル。

 その肩では人造使い魔のポルタが、製作者の手柄を讃えて万歳三唱している。

 アリスは「テヘヘ‥‥」と嬉しそうに笑った。

 そんな彼女へ、パーシーが感心して声をかける。

「よくこんな魔術を知っていましたね」

「魔王軍の書物にありました。特に秘匿でも無かったので、魔術の知識さえあれば誰でも覚えられましたよ」

 照れながらもちょっぴり得意そうにアリスは言った。

 ノブは「ふむ」と何やら考える。

「魔王軍が天界に攻め込んだというのは本当らしいな」


 一方、アルはグリダの顔色が悪い事に気づいた。

「どした? 姉ちゃん」

 グリダはぽつぽつと呟く。

「師匠の研究に、神の国への行き方もあったような‥‥。これって、やっぱり‥‥」


 それを聞き、レイシェルはアリスに訊いた。

「貴女は攻撃軍にいなかったんですの?」

「はい。というか、魔王軍の戦闘記録に天界攻めなんて無かった筈なんですが‥‥」

 アリスは困惑する。


 魔王軍の記録ははっきりいってずさんで大雑把なのだが、一応、大きな勢力を攻め滅ぼした、または大敗を喫した事があれば、内容の正確さはともかく「あった事」自体は記しておく。戦闘の指揮をとった者なり、命じた大隊長なりが。

 だが神々との戦いなどと明らかに大事(おおごと)だろうに、記録を見た事は全く無いのだ。


「特殊な精鋭部隊とかが秘密のうちに行った作戦なのかしら」

 考え込むリュウラ。

 それを聞いてジルコニアはアリスの顔を覗き込んだ。

「裏の精鋭なんてのがいたとして、お前さんはそれを知らされもしない扱いだったのかよ」

「うう‥‥四天王だったのに‥‥」

 アリスは涙ぐんで肩を落とした。



 だが泣いている間に、クラゲ艦は坂道を雲の上まで登ってしまう。

 雲海の中に、広大な円形の大地。そこにある光景を見て、ノブは呟いた。

「意外だな‥‥さて、どうしたものか」

設定解説


・こっちを先にやらせてみるか


設定を書き換えて進んだ場合、設定した者(神々)に嫌がられる事を懸念するのは当然である。

解除して進んだ場合、解除方法自体は神々が設定した物である可能性も低くは無い。ある意味ではルールに従って進めているとも考えられる。

クラッキングとパスワード入力の違い、とでも記せば良かろうか。

まぁそれでも勝手に解除して進むのだから嫌がられるかもしれないが、可能性の高低を考えればアリスの解除方法で進める事を選ぶのは理に適っている筈だ。

別にノブがサイシュウを嫌がっているわけではない。

もちろん好いているわけではない。

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