68 再会 6
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。
リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。
エリカ:オーガーハーフエルフの整備士兼副艦長。
アル:冒険者の少年戦士。
パーシー:スイデン国所属の少年騎士。
コーラル:スイデン国所属の青年騎士。
アリス:元魔王軍魔怪大隊長。
「とどめを! 今のうちに! こいつは人の迷惑になるために生まれて来た害獣です!」
その聞き苦しい罵りの中、ゴーズは目を覚ました。
目を開けると、木漏れ日が差し込む樹海の中だった。
上体を起こす。体がだるく、痛い。
周りを見れば、覚えのある小娘——魔怪大隊長アリスが「ひっ!」と慄いて、やはり見覚えのある女騎士——レイシェルの後ろに隠れた。
「‥‥よう、久しいな」
ボケた頭をフラつかせながら挨拶すると、彼女の隣にいたメガネの霊能者——少し遅れてノブという名前を思い出す——が訊いてきた。
「何があったか覚えているか?」
薄ぼけた意識を、頭を振りながらはっきりさせようとするゴーズ。
だがなかなか上手くいかない。
しかし最後の戦闘がだんだん思い出されて来た。
そう‥‥自分は戦っていたのだ。
「思い出してきたぜ。寄生虫に乗っ取られている間の事もな」
自分のすぐ脇を見るゴーズ。
森の腐葉土の上に、奇怪な節足動物の屍が転がっていた。
己の意思を奪い、操っていた寄生虫ゴンコングのなれの果てである。
虫の死骸を見ているうちに、意識がますますはっきりする。
だからゴーズは、自分を囲む連中が一番知りたいであろう事を先ず教える事にした。
「ま、見てわかるだろうが、世界樹はここにはねぇ」
「ではどこですの?」
訊くレイシェルに、ゴーズは肩を竦める。
「さあな。魔王軍の本拠地にあるらしいぜ。そんな物、俺は見た事ないんだがな」
少なくとも本来の場所のここには、ゴーズが配置された時、既に大穴しかなかった。
本拠地にあるという話も、自分をここに連れて来た者——寄生虫を頭に植え付けた奴——が言っていただけだ。
「師匠‥‥タレスマンがどこにいるか知りません?」
見覚えのない、鳥系の獣人娘がそう訊いてくる。
そこでまた一つ、記憶がはっきりした。
「俺に寄生虫を乗っけた奴か。暗黒大僧正と名乗ってやがったが」
「「「な、なんだってー!?」」」
ゴーズにとっては見覚えのない、騎士だか戦士だかの三人組が驚いて声をあげる。
「暗黒大僧正とは何者なんだ?」
ノブにそう訊かれ、ゴーズは自分を囲んでいた連中を思い出す事ができた。
「わからん‥‥そう名乗る奴が何人もいてな。どれが本物なのやら、俺にもさっぱりだ。唯一手がかりと言えば‥‥俺が知っている範囲なら、神々の園に殴り込みかけたぐらいか。行ってみれば何かわかるんじゃねぇのか?」
神天山。その山の頂に、主な神々が住まう天空の園がある。
無論、定命の者がそう容易く行ける場所では無いが‥‥その山がヘイゴーの端にあるのは確かだ。
「そんな所へ? 魔王軍は神々とも戦ったとでも‥‥」
悩むレイシェル。
「知らんよ。ま、好きにしな」
そう言ってゴーズはなんとか立ち上がった。
ふらつく。足元が定まらない。
力を籠めても、片っ端から全て抜けてゆく。
そこでようやく、自分の頭が包帯でぐるぐる巻きにされている事に気づいた。
頭蓋骨に穴をあけられ、脳髄に管を差し込まれ、触手と変な体液を脳や脊髄に注入されていたのだ。
元凶を引っこ抜いたとはいえ、体に後遺症が無い筈も無かった。
そしてこれが自然に治る事は無いだろう――ゴーズにはそれがわかった。
ジルコニアがぱたぱたと羽ばたきながら訊く。
「オッサンはこれからどうすんだ?」
ゴーズは‥‥「ヘヘッ」と、軽い調子で、どこかやるせなく笑った。
「こうなっちまうと、俺の首を狙う誰かにやられるんだろうな。いや、その前に森の獣に食われて終わるか」
当然、この世界にも回復・治療の魔法はある。自然治癒しないからといって治せないわけではない。
ノブやリュウラもそれなり以上の物を使えるし、ある程度ならゴーズの傷を治療する事も不可能ではない。
だがしていないのだ。
寄生虫の支配から逃れても、ゴーズは味方になる奴かどうかはわからない――二人ともそう判断したが故に。
また同行しているクルー達も、ゴーズを治療する事に難色を示す者がいた。
治療を勧めていたのはレイシェルのみ。
アル、パーシー、コーラルの三人はゴーズと行動を共にした事はないし、魔王軍大隊長だった事しかわからない。彼らが友好的な意見を出すはずがない。
元同僚のアリスは「息の根をとめましょう」と積極的に意見していた。どうも大隊長同士は相当に仲が悪いらしい。
他のメンバーはどうした物か判断しかね、消極的な中立である。
自身の周りの、腫れ物に触るかのような嫌な雰囲気。
それを感じ、ゴーズは‥‥ふらつきつつも背を向けた。
「ま、俺を始末しないなら、勝手に去らせてもらうぜ」
「その体で? ここで!? 死にますわよ!?」
驚くレイシェル。
樹海の中にはモンスターが多数生息している。
野獣や植物系、魔獣や幻獣と呼ばれる物も。そのレベルも低から高までピンキリであり、物によってはケイオス・ウォリアーで相手をする事が前提の巨獣だ。
足元も覚束ないケガ人が、丸腰で歩けばどうなるか――答えは明白である。
だがゴーズは、背を向けたまま笑っていた。
「だろうな。まぁいいんじゃねぇのか。善意での助けに縋りたいならハナから善行つんでら。そうじゃない、悪党として好き勝手する生き方を選んだなら‥‥ま、それに相応しい最期で当然だろ」
メガネをくいくい弄るノブ。
「確かにそうだ。それに、ここで助けたところで、それを機に生き方を変える奴だとも思えない」
その口調は、どこか呆れた、突き放したようなものだった。
「まぁ変わらんわな! それで結局は野犬の餌か。魔王軍の大隊長でござい、と好きに威張り散らしておいてよ。なんともケッサクな話じゃねぇか」
自らそう言い、大声でバカ笑いをかまし‥‥そして元魔王軍陸戦大隊長・ゴーズは一人、木々の間へ消えていった。
止めるかどうか、レイシェルは迷いはしたが――その背を前に、かける言葉が思いつかなかった。
その背中が、レイシェル達がその男を見た最後の姿だった。
今回の制圧はEX5で見送りかのう‥‥。
これ以上は運ゲー、リソース消費しながら挑戦する気にならんわい。
背伸びせず遊ぶべし。




